民主党党首 前原誠司 の師匠が書いた一冊
前原誠司が京都大学で師事していた人が、高坂正堯だそうです。
この人が書いた1冊に「文明が衰亡するとき」というのがあります。かなり古い本ですがいい本だと思います。ローマ、ヴェネツィア、アメリカと世界帝国の衰亡を描いて、最後に日本の話になっています。
オランダについても書いていてこれが結構いいです。日本を資源のない通商国家として考えています。
まず、各国が重商主義政策をとったことは、権力政治(注:武力など相手を従わせる力を背景にした政治(闘争))を激化させたが、その際、オランダは決して強国とはなれなかった。たとえば、オランダ海軍が英国海軍を圧倒するというようなことは不可能なことであった。次に、経済上でも各国が重商主義政策をとり、オランダに握られていた工業能力を身につけるべく努力するようになると、オランダの優位は小さくなり、逆に資源を持たないというマイナスが出てくる。経済における新工夫は模倣されるが、資源はそうはいかないからである。(中略)イギリスは通商国家に好適な位置にあるとともに、人口と資源(初めは毛織物、後では石炭と鉄鉱石)を持つ国で、ここにいう通商国家をはみ出した存在であり、それ故にこそ国際社会に長く君臨しえたのであった。(262p)
逆に言えば、通商国家には限界がある。そしてそれは当然のことなのである。元来、ヴェネツィアやオランダは、成功すべくして成功したというより、好適な状況に恵まれて、つまり幸運に支えられて、意外にも成功したと言うべき存在だからである。(263p)
ホンジンガは「ほとんどのヨーロッパ諸国における並外れた経済的消極性(重商主義の反対)をオランダの成功の原因としている。(263p)
現代に照らして言えば、中国が共産主義に留まっていたことが、経済的消極性として日本の経済発展に有利に働いたとも読み解けます。
また日米同盟の必要性も説いています:
権力政治から完全に棄権しようとする人は、別種類の激しい権力政治に関わることになる。たとえば、日本が日米安全保障条約をやめて、その地位が不安定になれば、日本の政策の方向づけをめぐる争いが激化する。日米安全保障条約をなくした日本が激しい中ソ対立に直面して、巧く対処できると考えるのは幻想というものであろう。(267p)
最後の文章が特によいのではないかと。
通商国家は異質な文明と広汎な交際を持ち、さまざまな行動原則を巧みに使いわけ、それらをかろうじて調和させて生きる。しかしそうすることは当事者たちに、自信もしくは自己同一性(アイデンティティ)を弱めさせる働きを持つ。自分の大切にするものが何であり、自分が何であるかが徐々に怪しくなる。すなわち道徳的混乱がおこる。しかも、現実レベルでは通商国家が成功する。それ故、人々は成功に酔い。うぬぼれると同時に、狡猾さに自己嫌悪を感ずる。その結果起こるのは、あるいは社会のなかの分裂傾向であり、あるいはより平穏な生き方への復帰を求める傾向であるだろう。前者は通商国家の広くて脆弱なネットワークを瓦解させる。後者は変化への対応を弱める。ヴェネツィアについてイギリス人ディクソンが述べたように、「通商国家はつねに新しい変化に対応する姿勢を持つ」必要があるのだから、変化への対応力の弱まりは日本の衰頽(衰退)ということになる。
これは、前原誠司が改革を求め、憲法改正もありだという論拠の一つではないかと思います。
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コメントありがとうございました。
前原が高坂正堯の弟子なのはちょっと微妙なところだと感じています。
重商主義的・帝国主義的な誤解については、ポール・クルーグマンがわかりやすく熱心に実態を説いているので、『良い経済学 悪い経済学』あたりを一読してみることをお勧めします。
投稿: びんごばんご | 2005/09/29 21:16
ご推薦、ありがとうございます。私のお勧めはI.ウォーラーステイン著「史的システムとしての資本主義」です。資本主義の矛盾を露呈した本です。ですが私自身は資本主義を支持します。
投稿: 竹花 | 2005/09/29 22:44