押井守の「立喰師列伝」を読みました。
押井守が自著の「立喰師列伝」を映画化するそうで、http://event.entertainment.msn.co.jp/eigacom/buzz/050901/08.htm
読んでみました。笑えます。納得します。そしてある意味泣けます。
小説の体裁をとっていません。架空の社会学書を読んでいる感じです。参考図書に赤坂憲雄の「異人論序説」があり、これを偶然読んでいたのである意味良かったです。論法が似ています(引用が多いですがあれは創作でしょう)。
立ち食い屋での無銭飲食を生業とする人々の仕事(「ゴト」)と移り行く戦後を背景に書き綴っていきます。
うる星やつらの「メガネ」とか「温泉マーク」が意味もなくつらつらと雄弁にアジテーションしていたあれの復活です。
シュールに笑えたところをピックアップしてみました。
第一夜「闇市からの出発」
「月に叢雲(むらくも)」と言えば「花に風」と続く・・・・
が、しかし――立ち喰いの世界にあって「月に叢雲」と言えば、それは月見そばにおける生卵と出汁(だし)の温度の相関関係、すなわち非加熱状態の卵黄に適度な温度のダシによって薄膜を成した白身がかかっている、その理想的な出会いを形容する喩、あるいは一種の修辞として用いられた。」
(戦後の食糧難において立ち食い屋は)、全てが代用であり、まがいものの場であった。なればこそ銀二(月見そばを「ゴト」に使う立喰師)はそこに「景色」を求めたのである。・・・・
第ニ夜「国会正門前の女狐」
「立喰以外の店に「ケツネコロッケ」が登場することはなく、コロッケを蕎麦に載せることもない。その変形たる「ケツネコロッケ(これはお銀がゴトに使ったもの)」など論外であろう。なんとなれば、たとえ定食屋と見まごう店であれ、蕎麦こそは神聖不可侵領域なのである。・・・コロッケのような洋食の調理品――それもポテコロイモコロッケの如き安物を載せるなどという暴挙は蕎麦屋の自己否定、自殺行為、人外魔境の地底獣国に他ならない。」
押井は愛犬家なので第三夜「東京オリンピックの悪夢」哭きの犬丸では犬の悲惨な話が出てきます。
後半は小説っぽくなります
牛丼の『予知野屋襲撃』
男はひたすら「並み」を注文しつづけている。そして五〇以上の丼を重ねてなお、飽きることがない。「大盛り」を注文することもなければ、口直しのオシンコも味噌汁も求めない。そのストイシズムの根源に存在するのはある種のプロフェッショナリズムであり、無銭飲食者のノンポリシーな欲望と対極を為すものだった。
第七夜「ディズニーランドの亡霊」 フランクフルトの辰
アメリカンドッグおよびフランクフルトと称される食品は、その食肉加工としての内実が日本の食習慣そのものに適合したがゆえに普及したのでは決してなく、串をつけるというその商品形態――立ち喰い歩き喰い可能な非日常的縁日的食品形態ゆえに普及したのだという事実である。・・・・本質が存在を規定したのではなく、存在が本質を規定した――そうも言い得る。
あるいはもっと端的に「赤いウィンナーが存在したのではない。存在したのはウィンナーの赤だけだったのだ」と情緒的に語ることもできる。
カレースタンドチェーン(ココイチ?)に挑む「中辛のサブ」の場合:
(頭にターバンを巻いたまるでインド人のような、それでいて絶対にインド人ではあり得ない)男が奇妙な発音で、チュカラと呟いた。・・・
瞑目してルウの香りを確かめるや否や、男はカウンターに並び置かれたナプキン巻のスプーンや福神漬け、ラッキョウには目もくれず、ルウを注いだ白飯に右手を突っ込んで掻き混ぜ、器用に捏ねて口に放り込む。
おお、と客がどよめいて店主の顔からさらに血の気が退いた。
これは期待できるのではないかと思います。
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