子供たちは森に消えた:ソ連の児童連続殺人犯
最低でも53人を殺した(その大半が未成年者)チカチーロが捕まるまで(なかなか捕まらなかった状況)を描いたドキュメンタリーです。
書き方が推理小説のようです。情景の描き方が小説ぽいです。登場人物の心情表現もかなり突っ込んでいます。
警察(民警)は犯人を捕まえられず、死体が次々と発見されていきます。ほとんどの場合、男女問わず無数の刺し傷があり、性器が切り取られているというものです。
民警は誤認逮捕はするし、自白を強要するし、科学捜査はいい加減です。ソ連だから仕方ないという書き方をしていますが、日本もあまり変わらないのじゃないかと思います。犯人像を間違って絞れば当然逮捕はできません。男の子と女の子を殺しているから犯人は2人(同性愛者と異性愛者の2人)よる犯行ではないかと民警は推測します。一般通念なから犯人を推しているだけで、犯人像を見誤ったということです。
こういう凶行を重ねる殺人鬼が誕生した理由は12章の「殺人犯の横顔」に書いてあります。とにかく屈折した人間像です。あれは屈折するなというすごい状況で育ったのです。スターリンの圧政が生み出したといっても過言ではありません。
ウクライナ人だった両親はスターリンの弾圧を受けて強制収容所に送られて食べ物もろくない環境で生まれたそうです。栄養失調が原因と考えられる水頭症の兆候があり、それが原因してか早濡だったそうです(うまく勃起しないそうです)。しかも母親が癇癪もちでそうとう抑圧されていたようです。
彼が性的興奮を得られるのは他人を虐待している姿みたいです。劣等感と抑圧の反動でしょう。頭脳は良いほうですが、劣等感が強すぎて人間関係の構築、とくに人の上に立つことはできない。彼は勃起しない性器の代わりにナイフで刺すという行動に出たのだそうです。不能に対するコンプレックスもある。馬鹿にされて殺したという話もチカチーロ自身がしています。
個人的な解釈ですが、自我があるので抑圧を突破しようとする。それが人が死ぬ姿(死んだ姿)を見て興奮するということに結びついていると思います。
日本でも同じような家庭環境は起こりうるでしょう。口をふさいで苦しむ姿に興奮するという少年の事件があったと思うのですが、それもこのチカチーロに似ているのではないでしょうか。
ソ連でこんな危ない人間が53人も殺せたのには、ソ連社会特有の「ことなかれ主義」があったと筆者は言っています。家族でもまずいことには蓋をしておこうという姿勢です。
昨今の日本で起こる事件の背景と似てる気がします。他人事ではないと思いました。
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