チャンドラーの「ロング・グッドバイ」
「ロング・グッドバイ」は、レイモンド・チャンドラーの「長いお別れ(清水俊二訳)」を村上春樹が翻訳しなおした物ですが、紀伊国屋に平積みされていたで買ってみました。
村上春樹とか全然読みませんが、
マーロウはかっこいい。いいやつだ。
こういう文章は好きです、このシニカルで冷めて乾いた感じが、たまりません。
私はスツールを降りて、そこで彼女を待った。彼女は誘いを無視するかもしれないし、しないかもしれない。べつにどちらでもいい。このセックスしか頭にない国であっても、ときには色事とは無縁に、男女がただ顔を合わせて会話をすることはできるはずだ。(224ページ)
チャンドラーはアメリカ社会が嫌いなんじゃないかと思います。
小説の季節は夏らしく、北海道なのに30度になった時にちょうど読んでいたので、なんか良かったです。
ギムレットが何度も話に出てきます。
第52章の最後:
「ギムレットを飲むには少し早すぎるね」
これで読者はニヤリとするわけですよ。
最後の箇所を清水俊二訳と比較してみたのですが、全然違います。
清水俊二版:
やがて、足音がかすかになり、ついに聞こえてなくなった。私はそれでも、耳をかたむけていた。なんのためだったのだろう。彼が引き返してきて、私を説き伏せ、気持を変えさせることを望んだのであろうか。しかし彼は戻ってこなかった。
村上春樹版:
足音は時間をかけて遠ざかり、やがて沈黙の中に吸い込まれた。それでも私は耳を澄ませていた。何のために?彼がふと歩を止めて振り向き、引き返してきて、私が抱えているこの胸のつかえを取り払ってくれるひとことを口にすることを求めていたのか?いや、そんなことは起こらなかった。
英語(調べてみました):
After a while they (his steps) got faint, then they got silent. I kept on listening anyway. What for? Did I want him to stop suddenly snd turn and come back and talk me out of the way I felt? Well, he didn't...
もうちょっと前に戻って第50の最後もちょっと違います。
清水俊二版:
こんなとき、フランス語にはいい言葉がある。フランス人はどんなことにもうまい言葉を持っていて、その言葉はいつも正しかった。
さよならをいうのはわずかのあいだ死ぬことだ。
村上春樹版:
フランス人はこんな場にふさわしいひとことを持っている。フランス人というのはいかなるときもその場にふさわしいひとことを持っており、どれもがうまくつぼにはまる。
さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ。
英語(調べてみました):
The french have a phrase for it. The bastards have a phrase for everything and they always right.
To say goodbye is to die a little.
これはアメリカで40年代に流行った歌(Everytime we say goodbye (I die a little) )が元になっているとか:
離れるのは少し死ぬことだ。それは
愛するもののために死ぬことだ。
どこでもいつでも、人は
自分の一部を残して去っていく
あまり文学がわからないので、この解説を読んでやっと腑に落ちました。
マーロウって人間くさい。
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The Long Goodbye は良いです。
オリジナルは読んだことがありましたが、訳本はどっちも未読です。
矢作俊彦の『The Wrong Goodbye』なんてのもありますね。タイトルだけで楽しそう。
投稿: baldhatter | 2007/06/14 18:08
baldhatterさん、どうも♪
原書とは、さすがです!
やはり原文には勝てないと思いますが、
翻訳物も味わいがありますよ。
投稿: 竹花です。 | 2007/06/14 19:07