タイムスクープハンター 石つぶて 紛争調停人
烏帽子を取材していた沢嶋雄一は騒乱に巻き込まれ、急遽それを取材することになりました。まるで戦場カメラマン。今回は「医僧」なみに凄みがありました。飛んでくる石の怖いこと。
室町時代の社会では喧嘩や刃傷沙汰は日常茶飯事だったとか。そりゃ戦国時代も起こります。
時代は1410年11月5日、若狭国。投石を繰り返す男たち。その日、普段は静かな町が騒乱状態に陥っていた。きっかけは朝方に起きた、ほんの些細な喧嘩であった。偶然にも沢嶋はその一部始終をカメラに収めていた。
沢嶋は烏帽子をかぶり、街中を歩く町人の八幡屋勘兵衛を取材していた。烏帽子に触ろうとすると嫌がった。烏帽子はステータスであり、成人男子の証であった。
その後ろでは邸宅の壁に小便をする男がいた。農民の惣吉郎だ。
あんなところでションベンしてやがると八幡屋は失笑する。そして沢嶋が取材を続けようとすると、惣吉郎が今笑っただろと因縁をつけてきて、謝れと詰め寄る。
八幡屋はこんなところで小便をしているからだと当然だと、取り合わず歩き去ろうとする。無礼だろうと八幡屋に掴みかかる。謝らないと言い張る八幡屋に怒りを抑えきれなくなった惣吉郎が八幡屋の頭を叩くと、烏帽子が頭からはずれて地面に転がった。
何をするんだと八幡屋は烏帽子を拾い上げて頭にかぶると、惣吉郎に突進してその首を掴み、壁に叩きつけた。喧嘩が始まった。当時、頭をさらすことは裸にされることと同じくらい屈辱的なことであったのだ。
そこに偶然、八幡屋の知り合いの弥三郎が通りかかり、喧嘩を仲裁した。喧嘩はおさまかったかに思われた。だがすぐに惣吉郎が村人を連れて戻ってきた。弥三郎は仲裁を試みる。沢嶋が弥三郎になぜ仲裁に入るのか理由を尋ねた。
誰かがやらねばならぬ。わしは昔から見てみぬフリは出来ぬたちでな。このところあちこちで諍いが絶えぬからな。それでも手負いですめばよいが、時には死人が出たりする。諍いは大概、些細なことで起こる。笑ったの、笑われたの。頭を下げたの、下げないの。左様なことで人が大勢死んでいる。
当人同士だけで済まぬのじゃと弥三郎が続ける。喧嘩と見るや加勢が来る。同業、身内、近隣、わずかでも縁があればまるで待っておったかのように暴れだす者が次々現れるんじゃ。侍同士だと斬り合いに、そうでないと印地じゃ。
印地とは石礫(いしつぶて)を投げ合う合戦であった。そうなると収拾がつかなくなるのだ。弥三郎の息子も4年前のつぶて合戦に巻き込まれて命を落としていた。
印地にならぬように一刻も早く手を打たんとなと、弥三郎は惣吉郎のところへ急いだ。そうして惣吉郎に会い、中人(仲裁役)になりたいと申し出た。室町時代の社会は法律が整っておらず、第三者が仲裁役を努める慣習が生まれた。
弥三郎は惣吉郎に、腹が立つのはわかるが、人というのは一度頭に血がのぼったら引込みがつかなくなると、そのあたりを斟酌して矛を収めてくれぬかと頼む。惣吉郎が弥三郎の顔を立てやらんとなと納得し、弥三郎がこれから八幡屋に話してくると言い、喧嘩の仲裁が成立したかと思われたその時、八幡屋たちが惣吉郎たちに石を投げてきた。
やめるんじゃ!と通りに飛び出て体を張って投石を止めようとするが効果はない。
投石はエスカレートしていく。無数の石が飛び交い、負傷者が出てくる。中には石もっこ(投石器)を使うものも現れた。飛んできた石の一つが沢嶋の頭を直撃する。カメラが横倒しになる。八幡屋側の新九郎が石もっこで投げられた石を頭に受けて意識を失った。仲間に家の中へと運ばれる。
惣吉郎の側はさらに仲間を集めて、数を増やしている。こっちも人を集めようと言う者を弥三郎がやめろと諌める。だがその者は、もともと非は惣吉郎にある、やるからには勝たねばならぬと言い張った。
是も非もない、勝ち負けもない、これ以上続けたら負傷者が増え、次には死人が出るぞと弥三郎は語気を強めた。八幡屋も事が大きくなったことを深刻に受け止めていた。
弥三郎は八幡屋に謝る事を勧める。だがそれは八幡屋のプライドが許さない。ならば解死人(加害者側から被害者側に対して謝罪の意を表す代理人)を差し出すことを提案した。それは出来ないと、八幡屋は逆に仲間を集め始めた。
日が沈んで夜になっても合戦は続いた。
一度火がついた争いは、そう簡単に消せるものではない。最初は小さな火種がいつの間にか大きくなり、合戦に変貌していく。諍いが進んだ段階では、きっかけはどうでもよくなり、ただ争いに参加することに意味を見出していく。それゆえに恐ろしいのだ。
夜更けになってもまだ投石はつづいていた。
弥三郎は気を失っていた新九郎の看病を続けていた。痛みがわかれば、ちいとはわしの話も身に沁みる。痛みを覚えて、初めて知る事もあるのじゃ。お主も知ったであろうと新九郎を見ながら言った。
身をはった諍いとはいつもそうなんじゃ。終わってから、やっと恐ろしいものだと気がつくんじゃ。意義のないものじゃったと悟るんじゃ。争いごとを繰り返しても、そこからは何も生み出しはせぬ。あの者どもは何も知ろうとせんのじゃ。
されど中途でやめるわけにはいかんじゃろ、と伏せていた新九郎が起き上がる。
そこよ、と弥三郎が新九郎の肩を叩く。そこでやめるか、やめぬかが各々の器量よ。
過去のつぶて合戦で息子を失った男の言葉であった。
弥三郎は最後の賭けに出た。新九郎を解死人にして惣吉郎に側に差し出して争いをやめようというのだ。
弥三郎は惣吉郎に、八幡屋側は惣吉郎の側が投石をやめれば、この争いをやめてもよいと言っていると嘘をついた。それを疑う惣吉郎に弥三郎は解死人の新九郎を差し出した。争いをやめさせるなら、まず投石をやめさせろと惣吉郎が言う。承知したと弥三郎は夜の闇に消えていった。
そして十分ほどたって酒の瓶を持った弥三郎が町まで戻ってきて、八幡屋のもとへ行くと、惣吉郎が詫びの印に酒をよこしてきたと嘘をつき、酒の瓶を手渡した。そして、この事はお主とここにおる者だけとの内儀にしてもらえぬかと頼んだ。
和平のためには手段を選ばない。できるだけ早く最小限に争いを食い止める。弥三郎の目的はただ、それだけだった。
八幡屋が酒を受け取った直後、弥三郎の頭にどこからともなく飛んできたつぶてが当たって倒れた。八幡屋はつぶてやめを叫んだ。両肩を支えられて弥三郎は運ばれていった。幸い気を失っただけで大事には至らなかった。
意識を回復した弥三郎は頭の怪我を忘れて、双方を行き来して停戦協定をまとめあげ、20時間におよんだ騒乱は収束した。
<つぶて合戦のとき、盾を持ってるヤツがいます>
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