タイムスクープハンター サバイバル!戦火の女たち
このシリーズの戦場モノは外しません。今回は火縄銃による狙撃戦。いうなれば戦国時代の「山猫は眠らない」
吉乃役の本橋由香っていう女優さん、「激走戦隊カーレンジャー」で志乃原菜摘役をやったそうな。ヨシノつながり。
1589年5月9日、上野国(現在の群馬)。
身を隠すように山に分け入る女たち。彼女たちが帰る場所はすでにない。時は戦国。敵軍の総攻撃を受け、命からがら城より脱出してきたのだ。数時間前に起きた城攻めは壮絶であり、正室、お遥の方は城主の夫を失った。
夜になり、お遥の方と侍女の吉乃とお鶴が、焚き火を囲んでいると、彼女たちを守る原田四郎右衛門が慌ててやって来て火に土をかけて消し始める。獣が来るかもしないし、火がないと怖いからやめて欲しいとお遥の方は懇願するが、四郎右衛門は火を消した。暗闇の中、どこに敵が潜んでいるかわからない。むやみに火を焚くのは危険すぎるのだ。暗闇の中で、彼女たちは夜を明かさねばならなかった。
そして夜が明け、一行はお遥の方の故郷を目指して出発した。
先導するのは原田四郎右衛門、落城した城主の家臣である。彼の任務は城主の妻、お遥の方を安全な生まれ故郷の領地まで連れて行くことであった。彼には1丁の火縄銃を携えていた。これにお遥の方の命が託されていた。
不甲斐ない、お遥の方はそう言うと目を伏せた。皆、命を捨てて戦っているのに。われは一人生き延びている。
落城が迫る中、お遥の方は自害しようとした。だが城主からお遥の方への生き延びよと命を受けた侍女の吉乃がそれを止めた。
城攻めは地獄絵図であった。お鶴が語る。
鉄砲の弾や弓矢がおびただしい数飛んできて、隣にいた側仕えに鉄砲玉が命中して、ビクンってしたかと思ったら、口の端から血を吐いて死んでしまって……
壮絶な城攻めての中、命からがら逃げてきた一行が持っているのは、僅かな食料と四郎右衛門が持つ鉄砲1丁であった。目指す領地までは先が長い。乱世ゆえ道中何が起こるかわからない、四郎右衛門は最悪の事態を考えて、侍女たちに鉄砲の撃ち方を教えた。
まず腰の袋から早合(装填をスムーズに行なうために弾丸と火薬をあらかじめ詰めた小包)銃口に入れ、カルカ(棒)で押し込む、火蓋を開き、火皿に口薬(点火薬)を入れて火蓋を閉じる。そして火の点いた火縄先を火挟(ひばさみ)に差し込む。再び火蓋を開け(火蓋を切る)、引き金をひくと、玉が発射される。
ヨーロッパから伝わった火縄銃は1543年の伝来以来、10年間のうちに日本全国に広まった。最初に模倣したものが作られたのが種子島だったことから種子島とも呼ばれた。戦国時代末期には20万丁の火縄銃が日本にあったと推定されている。
※余談 鉄砲の火薬を作るには硝石が必要だったのですが、日本では産出されず中国からの輸入に頼っており、それを牛耳っていたのがイエスズ会だったとか(厠のそばの土から抽出する方法もありましたけどね。ヨモギに尿をふりまいて作るという秘技もあったとか)
お遥の方の故郷への最短ルートには敵軍が潜んでいる可能性がある、四郎右衛門は、かなり遠回りになるものの危険の少ない山越えのルートを選んだ。だが山道を登る一行を銃声が襲う。
敵じゃ、四郎右衛門は叫び、急いで山道の脇の崖の下にお遥の方たちを伏せさせる。
またも銃声が一行を襲う。
笹薮に腹ばいになった四郎右衛門が、火縄銃を銃声がした山の上の方へ向ける。発砲音がしたのは50メートルほど先。だがどこから撃ってきているの正確な位置はわからない。
山の斜面に火縄銃でこちらを狙う雑兵の姿が見えた。四郎右衛門が応射する。火縄銃が火を吹いた。山の斜面にいた雑兵が身を隠した。
雑兵が位置を変えてまた撃ってきた。
四郎右衛門が再び玉を込めると、上半身を上げて雑兵を狙い撃ちした。
雑兵は銃弾を受けて、坂を転がり落ちていく。
だが次の瞬間、空を切る音とともに一本の矢が四郎右衛門の左胸を貫通する。即死だった。死んだ四郎右衛門の体が崖を滑り落ちる。
叫び声を上げるお遥の方とお鶴。
敵はひとりだけではなかった。
吉乃はひとり崖から山の上を見回しながら、左腕をお鶴に向け、種子島を持ってこいと言った。
繰り返し矢が飛んでくる。
泣きわめくお鶴に吉乃が催促する。
吉乃はお鶴から火縄銃を貰い受けると、銃口に早合を込めて火縄を差し込む。そして引き金を引いた。
初めての発砲。吉乃の体に大きな衝撃が走る。
玉が当たらなかった。
坂の上に弓を構えた雑兵が姿をあらわす。
早合!と叫ぶ吉乃。
敵の矢が容赦なく次々と飛んでくる。
再び吉乃は発砲するが、慣れない鉄砲のためなかなか命中しない。
吉乃は再度玉を込めると、矢の合間を縫って照準を合わせる。そして引き金を引いた。弓兵は絶叫して倒れた。ついにその弾丸が敵の体をとらえたのだ。
吉乃が死んだ四郎右衛門から具足を外す。そして死んだ敵からも具足と弓をはぎ取った。
襲ってきたのは野武士と思われる。山や森などに隠れ、追い剥ぎなどを行なう武装した農民である。戦国時代は武将たちが華やかに活躍するばかりではない。合戦の背後には、雑兵による略奪や暴行が横行していた。非力な女性だけでの道行きは常に危険と隣り合わせであった。
だが彼女たちに悲しんでいる暇はない。身を守るため、奪った具足を身につけて武装する。三人は四郎右衛門の骸に手を合わせて、先を急いだ。
女性たちがもっとも恐れていたのは「人取り」であった。戦の混乱に乗じて、女性や子供が生け捕りにされることが多かった。捕まった人々は人身売買の対象となってしまう。(通常2貫文(30万)、戦の直後は人取りが多く25文(4千円))それを商売とする者もおり、海外に売られることも珍しくなかった。
また夜が来た。
お遥の方が立ち止まり、座り込んだ。もう止めましょうと。
お鶴が言う。お遥の方様も私たちも体力の限界だし、四郎右衛門はもういない。私たちだけでなにをするの?
私たちだけでお方様を守ってご生国までお連れするのと吉乃。
私たちだけでお方様を守りきれるの?とお鶴が泣き言をいう。
お守りするの。吉乃が声を荒らげる。なんでいつも諦めるの!生き延びなければいけないの!
お遥の方が立ち上がって吉乃に言った。もうよいのじゃ。われひとり生き延びることなぞ、望んでおらぬ。これ以上、お前らに辛い思いのさせるのはわれも心苦しい。
お遥の方は自害を決意した。
女たちは懐刀を手にした。だがここで異変が起こる。
お遥の方が吐き気を催して、うずくまった。
お遥の方がうずくまった泣いた。
彼女は身ごもっていたのだ。
お遥の方は自害するのをやめた。代々続く血筋をここで絶やすわけにはいかなかった。命をつなぐため彼女たちは生き延びなければならなかった。
夜が開けた。雨が降っている。
敵兵や人取りから逃れるために、彼女たちはさらに険しい森を通っていく。突然彼女たちの歩みが止まる。森の先に人影が見える。戦に便乗して村で略奪を繰り返す雑兵が刀を握り、村の男を座らせていた。村人は命乞いをするが、雑兵は容赦なく村人の胸を刺した。
その刹那、雑兵が彼女たちに気づいたのか、森の方に向かって歩いてくる。女たちが必死に逃げる。雑兵は追いかけてくる。
吉乃とお鶴は逃げきることができたが、お遥の方がいない。二人があたりを探しまわると、森の先の民家にお遥の方が連れさられるのが見えた。人取りである。彼女たちに躊躇している時間はなかった。森を抜け、その民家へと急いだ。
民家の近くの畦に伏せる吉乃とお鶴。吉乃は民家の戸が閉じられ、あたりの安全を確認すると、さらに民家に近づいていった。お鶴が危ないと吉乃を制止するが、吉乃はお鶴の言葉に耳をかさず、お遥の方を救おうと、火縄銃を手に腰をかがめて民家へと歩み寄っていく。
もしもの時に備えて、お鶴が火縄銃に弾を込めると、吉乃の方に銃を向ける。
家へと慎重に近づいていく吉乃の背後に、男が近づいていく。だが吉乃は気づいていない。お鶴が男に向けて火縄銃の引き金を引く。だが玉が発射されない。雨のために着火に失敗したらしい。
吉乃と男が取っ組み合いになる。お鶴が急いで再び銃に新しい火薬を仕込む。男が吉乃から銃を取り上げようとして、おもわず吉乃が引き金を引いてしまう。銃声が響き、民家に入った先程の雑兵が刀を手にして現れた。お鶴が必死に火縄銃を構えて引き金を引く。銃声にひるんだ雑兵は民家へと引き下がった。その隙に吉乃も取っ組みあっていた男を突き倒し、お鶴のもとへと走り出す。男は刀を抜いて吉乃をあとを追ってくる。
お鶴が地べたに伏せたまま再び玉を装填する。そして銃口を男に向けて発砲した。弾丸は男の腹部に命中し、その場に男は倒れた。だが次の瞬間、民家からの銃撃が二人を襲う。よほど慣れているのか、ものすごい速さで玉を装填して撃ってくる。
お鶴は弾切れになった。銃撃の中、吉乃が早合の入った袋をお鶴の方に投げるが届かず、道の真中に落ちた。お鶴は発砲の合間を縫って袋を取ろうと道に飛び出したところを狙われ、足を撃たれる。吉乃がお鶴を抱えて火縄銃のところまで戻ってくる。敵の狙撃が容赦なく二人に浴びせられる。
袋に入っている早合はあと1つ。
雑兵はお遥の方を戸口へを連れ出し、首元に刀を突きつけて叫んだ。こいつがどうなってもいいのか!おい、聞いてんのか!
吉乃が銃を撃てるかとお鶴に確認する。お鶴が頷くと、吉乃は弓を手にとってあたりを警戒しながら、腰をかがめてもう一度民家への接近を試みる。そして民家の窓辺の下にたどり着く。火縄銃で民家を狙うお鶴の息遣いが荒くなる。吉乃は弓の弦に矢をかけると、立ち上がって窓の中へ撃ち込んだ。
お遥の方が窓から出てきた。喜んで抱き合う吉乃とお遥の方。決死の救出作戦は成功した。お鶴も二人のもとへと向かう。そして三人が安堵したのもつかの間、矢の刺さった雑兵が刀を振りかざし、奇声をあげながら突進してくる。悲鳴をあげるお遥の方。お鶴が迷わず雑兵に最後の一撃をお見舞いする。雑兵は銃弾を腹にくらい、地べたに倒れた。
戦いは終わった。
山を越えると、雨が上がり、あたりは穏やかな日差しと空気に包まれていた。
林を抜けた小高い丘から、山々が見えた。
鍬形山です。
お遥の方が前方の山を指さした。その山の麓に入れ目指す領地があった。彼女たちにやっと安堵の表情が見えた。
この時代、女性たちが戦ったという言い伝えが数多くある。例えば1541年伊予国の鶴姫は討死した兄に代わって、出陣し敵軍を撃退したという。他にも勇敢に敵に立ち向かった女性の例は多い。しかしそこで共に戦ったであろう侍女や身分の低い女性たちの名前が記録に残っていることはない。
来週は駕籠かき!
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