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2010/11/20

龍馬伝 第46話 土佐の大勝負

慶応3年(1867年)9月、龍馬はついに土佐に戻った。目指すのは血を流さずに、徳川を政権の座から引きずり下ろすこと。そのためには土佐の大殿様、山内容堂を動かさなければならなかった。

土佐・高知城に1000丁のミニエー銃が運び込まれた。うず高く積まれた銃の木箱を目にした陽堂が、木箱の脇に控える後藤象二郎に尋ねる。
「なんじゃこれは?」
「最新式のミニエー銃1000丁にございます」
後藤が答える。
「大殿様、薩長は今にも幕府に攻めかかろうとしよります。戦になったら日本中が内乱となりましょう」
後藤は箱の1つを開けてミニエー銃を取り出し、容堂に差し出した。
「土佐が生き残るには、この武器が必要ながです!」
「後藤」
容堂が声を荒げる。
「その武器はどっちに向いて使う気や!」
後藤は答えに躊躇したが意を決し、正座して頭を下げた。
「恐れながら、徳川将軍家のご威光はもはやなく、人心は幕府から離れ、新しい世を望んじょります!」
容堂が憤然としてきびすを返し、去っていく。
「大殿様!お待ちくださいませ!」
後藤は容堂に追いすがる。
「大殿様にお目通りさせたい者がおるがです。坂本龍馬いう男でございます」
容堂は何も答えず、再び歩き始める。
「この1000丁の銃を持って来た男にございます!」
そう言った後藤に容堂は一瞬、振り返るが、また歩き出した。

別の間に控えていた龍馬のところに後藤が戻ってくると、ため息をついた。
「今日は諦めや、坂本。大殿様をそう容易うは動かせんがじゃ」
龍馬が後藤に訴えた。
「薩長はもう待ってくれんがです」
「わかちゅう」
「なんとしても大殿様にお会いできるよう、取り計ろうてつかあさい!」
「わかっちゅう!」
龍馬と後藤は下城した。

「誰かおりませんろうか?」
龍馬の実家に知らぬしわがれた男の声がする。
「お客さんじゃ、千野さん」
ぬか床をかき混ぜる乙女が千野に応対するように頼む。
「龍馬が戻ってきたぜよ!」
声の主は龍馬だった。
驚く乙女が恐る恐る玄関に出る。
笑顔の龍馬が立っていた。
「ただいま戻ってまいりました、乙女姉やん!」
「おまん……本当に龍馬かえ!」
乙女が破顔一笑して、両手で龍馬の頬を撫で回す。
「達者にしちょったか!」
龍馬は笑って乙女を抱くが、乙女の手に糠が自分の頬にべったりとついているのに気づき、臭いと乙女の手をどけだ。
次に龍馬は義姉に連れられてきた鶴井に挨拶した。
「おお!おまんが鶴井じゃの。手紙で知ちゅうぞ。春猪によう似ちゅう」
龍馬の兄・権平も駆け寄ってくる。
「お無沙汰しておりました、お兄さん」
春猪も子供を抱えてやってくる。
「春猪が子を抱えちゅう!」
龍馬が驚く。
乙女は龍馬を中へ入れた。

龍馬は継母・伊與の墓前で手を合わせた。
伊與は生前、後妻として来たけれども、幸せな一生だったと言っていたと権平に語っていた。おまんのことは最後まで心配しちょったけんどなと乙女が言う。

死ぬ間際、床に伏せる伊與がこぼしていた。
「母親らしいことは、何ちゃあできんかった……」
「何を言うですろうか、母上。龍馬はそんなことはこれっぱあも思っちゃあせん」
乙女はそうなだめた。

「家にも帰らず、勝手なことばかりしちょったわしをどうか許してつかあさい」
龍馬は伊與の位牌に頭を下げた。
「母上やち分かちゅう、龍馬の志は」
乙女が龍馬に言った。

お龍は今度土佐に帰ってきたときにみんなに会わせると、龍馬は約束すると、権平の前に正座し、今回土佐に帰ってきた理由を伝えた。
「実は、此度はわしは、大殿様にお願いをするために土佐に戻ってきたがやき」
「何を言いゆう」
耳を疑う権平。
「おまんが大殿様に会えるわけがないろう!」
乙女が何を馬鹿なという目で龍馬を見る。
龍馬が乙女を見返す。
「後藤象二郎様がお取り計らい下さるそうじゃ」
「後藤様!?」
乙女が呆気にとられる。
うなずく龍馬。
「藩のご参政と知り合いながか?龍馬さん」
千野が尋ねる。
「知り合いゆうか……同志いうかのぉ」
「同志!?」
権平が目を丸くする。
「龍馬叔父ちゃん、もしかして大出世したがか!」
春猪が子供の抱えて龍馬に寄ってくる。
「いやいや違うき、違うき。そういうわけではないがやき」
龍馬が笑いながら否定し、
「どこから話したらえいか……」
記憶をたどった。


ごめんくださいと玄関に女の声がする。

夜、岩崎家の家族を招いて坂本家で宴が催された。
踊るのはやはり弥太郎の父・弥次郎。
弥太郎の母・美和が龍馬にお酌しながら訊いた。
「弥太郎は、しっかり藩のお役に立っちゅうがですろうか?」
「もちろんじゃき」
龍馬が美和を見る。
「あいつが土佐商会を引っ張っちょりますき」
「そうかえ」
うなずく龍馬。美和には弥太郎が龍馬と仲違いしていることは言わなかった。
「けんど、図に乗っちゃせんろうか弥太郎は」
美和が龍馬に訊く。
「仕事ができるからゆうて、人様を見下すようなことをしたら、私が許さん!」
「それはたまには威張ることもあるかもしれんけんど、根は優しい男じゃき」
「けんどのう、坂本さん!」
酔った弥次郎が龍馬に話しかける。
「わしゃ弥太郎がそんなモンでは終わるとは思ちゃあせんぜよ」
「そんなこととはなんぜ!」
美和が弥次郎を諌める。
美和に構わず弥次郎が話を続ける。
「侍が商売するがは、えい。けんどそれが商人(あきんど)と同じではいかんがじゃき!」
弥次郎がふらつく。
「お父やん飲み過ぎや」
息子たちがふらつく弥次郎を支えようとすると、弥次郎はやかましいとその手を振り払った。
「自分が日本を支えるゆう気概を持たんと、侍ではないとのぉ!」
そう言い終えた弥次郎は千鳥足になって畳にヘタりこんだ。
龍馬はただ笑顔でうなずき、弥次郎の肩を叩いた。
「弥次郎さん、弥次郎さんの息子は自分いうもんをしっかり持っちゅう。弥太郎には弥太郎だけの生き方があるじゃき」
「それは褒め言葉かえ?」
弥次郎がとろんとした目で龍馬の顔を伺う。
「もちろんですき!」
「ほんならえい」
弥次郎が笑い、龍馬も笑った。
弥次郎はまた踊りだし、龍馬もそれに合わせて踊った。

龍馬の言ったとおり、弥太郎は己の道で成功すると決意していた。

弥太郎は夜一人、土佐商会に残って帳簿を開いていた。
「まだ仕事をしゆうがか、岩崎」
土佐商会に勤める土佐藩士、高橋と森田の2人が中に入ってきた。
弥太郎はそそくさと帳簿を片付ける。
「今日の取り引きに誤りはなかったか、見直しちょりました。何かお忘れ物ですろうか?」
弥太郎は荷物をまとめて出て2人を避けるように出ていこうとする。
「高橋様の机にも、森田様の机にも、何ちゃあ残っちょりませ……」
「その帳簿を見せてみいや」
弥太郎が拒むが、むしりとられた。
2人は行灯の近くに帳簿を持って行って中身を確かめる。帳簿の中身は土佐商会の仕事ではなかった。何をしていると問われた弥太郎は2人から帳簿を取り上げた。
「わしは自分で商売をしゆうがです。藩の金を使うわけではないですき。何ちゃあ悪いことではないですろう!」
弥太郎は出て行った。
「おんしを責めるつもりはないぜよ」
高橋が言った。
外に出ようとしていた弥太郎の足が止まる。
「わしら、おんしが土佐商会の主任を降ろされたことを、残念に思うちゅう」
「同じように思うちゅう者は実は他にもおるがじゃ」
森田が打ち明けた。
「今、世の中はおおきゅうかわろうとしゆう。これからは刀よりも算盤が役に立つ時代になるろう」
二人が弥太郎のもとに歩み寄ってきた。
「その仕事、わしらにも手伝わせてくれんかえ!」
「よろしゅうお願いします、岩崎さん!」
二人は頭を下げた。

その頃、土佐では藩の行く末について喧々囂々の議論が始まっていた。
それを後藤はキセルをふかしながら聞いていた。ある者はイギリスから最新式の武器を調達している薩長の相手では勝ち目がないと論じ、またある者は薩長と戦ってまで徳川を守る大義はないといい、さらに別の者はすでに徳川の世はもう終わりが見えていおり、今は、むしろ薩長に味方すべきじゃと訴えた。後藤は主戦論に傾く議論に苛立って立ち上がり、やかましいと怒鳴った。

龍馬が土佐に戻ってきたという噂は一晩で城下に広まった。
龍馬を慕う若い下士たちが、浜辺に来た龍馬のまわりに集まってきて質問を浴びせた。
「最新の銃、1000丁をお城に献上したゆうがは、ほんまかえ?」
「徳川と薩摩、どちらと戦うつもりぜよ?」
龍馬が答える。
「徳川じゃ」
歓声を挙げる若者たち。
「ついに幕府を倒す日が来たかえ!」
それを聞いて満足気な龍馬。
そこに上士たちが龍馬を捜しにやって来る。
「坂本龍馬ゆうがはどこにおるぜ!」

後藤象二郎が再び容堂と謁見する。
「城中が騒がしいようじゃあのぉ」
容堂が小姓に酒を持たせて入ってくる。
「大殿様!土佐藩ももう時代の流れに逆らうことはできんがです」
後藤が頭を下げたまま話し始める。
「坂本龍馬に会うて下さいませ」
後藤が顔を上げて容堂を見た。
「どういて、わしがあの男に会わんといかんがじゃ!」
容堂が怒る。

浜辺では上士たちが龍馬と下士たちのまわりを取り囲んでいた。
「おんし下士の分際で大殿様に意見する気かえ?」
「後藤様をたぶらかして、何を企んじゅう!」
「土佐藩を戦に巻き込む気かえ!」
龍馬は黙っている。
だが龍馬と一緒にいる下士たちが口をはさむ。
「徳川と薩長が戦を始めたら、土佐やて当然加わりますろう!」
「日和見は通用せんぜよ!」
と上士を挑発する。
上士たちはふざけるなと怒り、若い下士たちにひざまずけと命じた。
上士と下士の双方が互いを威嚇し始め、一触即発となると、
「やめや!」
龍馬が声を上げて喧嘩を止めた。

後藤が容堂に訴える。
「今の、この、この世の中の流れを作ったがは、坂本龍馬でございます。憎み合う薩長を結び付け、土佐と薩摩の盟約を取り持ったがは、あの男ながです!」
驚く容堂。

浜辺では龍馬が上士たちを見回すと、刀を鞘ごと腰から抜いて浜辺に正座した。
「それでえいがじゃ」
上士の一人が笑う。
「おんしらも、ひざまずかんかえ!」
他の上士たちにも若い下士たちに向かって怒鳴る。
下士の一人の堪忍袋の緒が切れて、刀を抜こうとする。
龍馬が高笑いする。
「下士が上士にひざまずく。土佐ではまだこればあ馬鹿馬鹿しいことをしゆうがかえ」
龍馬はひざまずいたまま、上士たちを見渡す。
なんじゃとと怒った上士たちが龍馬のもとに詰め寄ると、龍馬はすっと立ち上がり、目の前にいた上士の右手首を掴んで動きを封じた。

容堂が後藤に問うた。
「おんし、どういてそれを黙っちょった?」
後藤は黙っている。
しばし歯を食いしばり、答えるのをためらうような素振りを見せたが、最後には観念して打ち上けた。
「妬ましかったがです! 妬ましかったがです!」
後藤の目に涙が浮かぶ。
「下士の分際で、叔父上、吉田東洋様に認められ、脱藩者でありながら、次々と大事をなしとげていく坂本が妬ましかったがです!」

「わしが持って来た銃はのぉ、こうして……」
上士がやめろというを無視して、龍馬は掴んだ上士の右腕を両手で握りしめる。
「みんなが仲よう、手をつぐなための銃ぜよ!」
「離しや!」
上士は龍馬の手を力づくて引き離したものの、その勢いで砂浜に倒れこんだ。
「この振る舞いは決して許さんぜよ!」
上士たちはそう捨て台詞を吐いて、浜辺から去っていた。

後藤が涙声で容堂に訴える。
「大殿様! 坂本龍馬に会うて下さいませ!お願い申し上げます!」

太鼓の音が響く中、紅葉舞う土佐城の廊下を、紋付き袴姿の龍馬が進んでいく。
そして容堂がやって来る。
後藤象二郎は室内に控え、龍馬は庭の砂利の上に平伏して容堂を待った。
廊下を歩いてきた容堂が龍馬を見て立ち止まる。
「面を上げや」
平伏していた龍馬が顔を上げる。
「久しぶりじゃのぉ、坂本」
「5年ほど前、勝麟太郎先生の書生をやっていたとき、一度お目にかかって以来でございます」
「おんし、土佐の脱藩モノじゃあゆうことを隠して、わしに白々しい口を利いちょったのぉ」。
「大殿様、お願いがあります!」
龍馬が今一度頭を下げる。
「徳川慶喜公に政権の返上をお勧めする、大政奉還の建白書を書いてもらえませんろうか」
容堂が眉をひそめる。
「それは直訴かえ?」
「はい」
「直訴ゆうがは、受け入れられんかった時には、腹を切らんといかんがじゃ!」
腹を切るを聞いて、頭を伏せていた後藤がわずかに動揺する。
龍馬が顔を上げ、容堂を見据える。
「大殿様が戯れ言だとお思いになられたら、私はここで腹を切るがです」
容堂が笑いながら龍馬のもとを離れて、上座に座った。
「おんし、自分の戯れ言で、城下に騒ぎを起こしたのを忘れたかえ。吉田東洋を斬ったと大嘘をついたがが」
「あれは武市さんを助けたかったきです。武市さんは武士の鑑でした」
「あれに切腹を命じたがは、わしじゃ。おんしの仲間の下士たちを殺していったのも、わしじゃ。わしが憎うはないか坂本?」
容堂が遠く離れた龍馬に問うた。
「……憎いがです。下士が上士に虐げられちゅう、この土佐の有様が憎いがです!けんど……」
容堂は黙って聞いている。
「母は私に教えてくれました。憎しみからは何ちゃあ生まれんと!人を憎んでもどうにもならんがです。憎むべきは260年以上続いてきた、この国の古い仕組みじゃき!」
と龍馬が訴えて立ち上がる。
「無礼者!」
龍馬の脇に控えていた2人の藩士が龍馬を押さえる。
やめやと後藤が藩士を制し、容堂に詫びた。
藩士は龍馬から手を離した。
龍馬が容堂に歩み寄っていく。
「幕府も藩も、もう要らんがです。この国は新しゅう生まれ変わらんといかん。それが大政奉還ながです!」
「将軍も大名も消してしまうというがか!」
容堂が声を荒げる。
「はい……武士という身分も恐らくのうなってしまうがです」
「何じゃとぉ!」
藩士たちが騒ぐ。
「黙っちょりや!」
後藤が一喝する。
容堂が龍馬に問いただす。
「おんし、自分がどればあ、恐ろしいことを言いゆうか、分かっちゅうがか?」
龍馬が静かに答える。
「世の中が変わるゆうことは、突き詰めて考えたら、今わしが言うたようなことになるでしょう」
龍馬は袴の裾を払って後藤の横に正座すると、容堂に今一度頭を下げて訴えた。
「この国は武士が力で治めるのではのうて、志ある者が議論を尽くして治めていく国になるべきではないですろうか」
容堂は黙って聞いている。
龍馬は脇差を抜いて、容堂に向けて差し出し、船中八策を懐から出して脇差の横に置いた。
「ここに新しい日本の形が書かれてちょります。どうか、大殿様のご決断をお待ち致します」
容堂が立ち上がると、後藤が
「大殿様、ご決断を!」
と叫び、自分の脇差も差し出した。
「答えや坂本」
容堂が訊ねる。
「武士も大名ものうなってしもうた世の中に、何が残る?」
龍馬は頭を下げて答えない。
「何が残るがじゃ!」
容堂がもう一度問うた。
龍馬が顔を上げ、容堂を見た。
「日本人です」
龍馬がはっきりと答えた。
「異国と堂々と渡り合う、日本人が残るがです」
「刀をしまいや」
容堂が後藤と龍馬に命じる。二人は言われたとおり、畳に置かれた脇差を腰に戻した。
容堂は出て行った。

夜、実家で夕餉を食べる龍馬。
「うん……やっぱり坂本家のメシが一番じゃき」
「そうかえ。美味しいかえ」
乙女が喜ぶ。
少し離れたところでサボテンの手入れをしていた権平が頷く。
「そりゃそうじゃ。龍馬が生まれた家じゃきのぉ」
「けんど兄上、この家も何やら静かになったねや」
と龍馬が言う。
「そりゃ、みんな年をとったきじゃ」
乙女が笑う。
「父が亡くなられた年まであと5年ぜよ。もう長うはないのぉ」
権平が龍馬を見る。
「何を言われますろうか兄上。兄上はまだ何ちゃあ、もうろくしちゃあせんですき」
権平が龍馬のもとに寄ってくる。
「けんどわしが死んだら、この家は誰が守るがじゃ?」
乙女がそこに割って入る。
「そうじゃき、いっつも言いゆうろ。私がこの家を守るぞね」
権平が龍馬の前に座る。
「龍馬、坂本家の家督を継いでくれんかえ!」
「今、龍馬を止めるようなことを言うたら、いかんぞね!」
乙女が咎める。
「わかちゅう、わかちゅうけんど!」
と権平が食い下がる。
「待ってもらえませんろうか」
龍馬が権平に申し訳なさそうに言い、胡座から正座し直した。
「もうちょっとですき。もうちょっとでわしの大仕事が終わりますき。その時が来たら、わしは必ず、必ずこの家に戻って来ますき」
「ほんまかえ、龍馬?」
「はい。ほんじゃき、もうちっくと待ってつかあさい」
龍馬が権平に頼んだ。

皆が寝静まった後、龍馬はもの想いにふけりながら、縁側で酒を飲んでいた。
容堂もまた庭の前に座り、酒を盃に注ぐ。傍らには龍馬の船中八策があった。容堂の後には後藤象二郎が控えていた。容堂が盃を口に近づける手を止める。
「わしが大政奉還の建白書を出して、慶喜様の怒りを買うてしもうたら、この山内家はお取りつぶしになるかもしれん」
それに後藤が答える。
「大殿様がお覚悟をもって建白されるなら、それに異を唱える家臣ら土佐にはひとりもおりません」
容堂が盃を飲み干し、その盃を後藤に差し出した。後藤は両手でその盃を取ると、そこに容堂が酒を注いだ。後藤は容堂に一礼してその酒を飲むと、盃を容堂に返し、そこに酒を注いだ。
容堂が後藤を見て笑う。
「武士の世を終わらせるかえ」

翌日、容堂が建白書をしたためた。容堂は決意した。たかだか一藩を治めるにすぎん者が徳川将軍家に大政奉還を建白するというのは、途方も無いことであった。

土佐城。後藤と龍馬が座している。龍馬の前に容堂が上梓した建白書が置かれている。龍馬が容堂に頭をさげた。
「まっこと、ありがとうございます!」
「おんしが持ってきた鉄砲1000丁、土佐藩が九千両で買い上げちゃる」
と容堂は言い、こう付け加えた。
「けんどわしは、それを徳川様に向ける気はない。あくまでもこの土佐を守るためだけの武器じゃ」
「有難き幸せにございます!」
龍馬がまた頭を下げた。
容堂は立ち上がると龍馬のもとに歩み寄り、腰を降ろした。
「おんし、わしがこれを書くと、信じちょったのぉ。どういてじゃ?」
「それは……大殿様が武市半平太の牢に来られたと聞いたきです」
陽堂が一瞬眉をしかめる。
「大殿様は今のそのお姿のように、武市さんと同じ地べたに座られ、おまんはえい家来じゃったと……」
容堂の脳裏にその時の光景が蘇る。
「武市さんは涙を流して喜んじょりました」
龍馬が嗚咽を漏らす。
容堂は立ち上がり、その場を後にした。
龍馬と後藤が容堂の背中に向き直り、もう一度頭を下げた。
龍馬は建白書を手にとると、後藤を向いて頭を下げた。
「まっこと、ありがとうございました」
後藤は深く頷くと立ち上がり、座っている龍馬に右手を差し出した。
「後藤様……」
龍馬も立ち上がり、後藤の手を握った。二人は互いの手を強く握りしめた。

一仕事終えた龍馬が浜辺に置かれた漁船に乗り、海を見ていた。そこに乙女がやって来る。
「わしは明日、京ヘ発つがじゃ」
龍馬はそう言うと、船を飛び降り、大きく背伸びした。
「いよいよじゃ、いよいよ正念場ぜよ」
「龍馬……」
乙女が不安げな顔で龍馬を見る。
「命だけは大切にしいや。決して死んではいかんぞね!」
「姉やん……」
「おまんの周りは何だか敵ばかりのように思えて……私は心配でたまらんぞね」
龍馬が乙女に笑いかけ、心配そうな乙女の肩を抱く。
「何を言いゆう。何を言いゆうがじゃ、姉やん。大殿様はのぉ、わしの願いを聞いてくださったがじゃぞ。後藤様やち、今やわしの味方じゃ」
「そうじゃけんど……」
乙女の顔は晴れない。
「姉やん。わしはのぉ、この大仕事を成し遂げたら、蒸気船に乗って、お龍を連れて、この土佐に戻ってくるぜよ」
「え?」
乙女の顔がほころぶ。
「約束したろう。わしは一家みんなを連れて世界を見て回ると!覚えちゃせんかえ?」
「もちろん覚えちゅう!清国、印度!」
「そうじゃ」
龍馬が砂浜に棒切れで地図を描き出す。
「アフリカ!これがヨーロッパじゃ!」
「アメリカ!」
乙女も棒切れを拾い、砂浜に書き出す。
「アメリカはもっとでっかいぜよ!」
それを見て乙女が声を上げて笑う。
「わしが姉やんらに広い、広い世界を見せてやるき!」
龍馬が世界の大きさを示すように両手を大きく広げる。
「ありがとう……ありがとう、龍馬」
「出立は来年の春じゃ。それまで楽しみにまっちょり」
「楽しみじゃ。まっこと楽しみじゃ!」
「そうじゃのぉ!早よう春が来んかのう!」
「隙あり!」
乙女が手に持っていた棒切れで、海を眺めていた龍馬の尻を叩き、ケラケラと笑う。
「何をするがぜ、姉やん」
「龍馬、久しぶりにどうぜよ」
乙女が棒を竹刀のように構える。
「やるかえ」
龍馬も手に持っていた棒を構える。乙女がいやあと打ち込んでくる。龍馬の持っていた棒が折れた。
「何ちゅう力ぜよ」
「龍馬の負けじゃ!」
乙女が笑う。
二人はしばし子供の頃に戻って、二人の時間を楽しんだ。

龍馬に残された時は、40日しかなかった。

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コメント

予告編に石橋蓮司が映っちょりましたが、あれは誰ですろう。

baldhatterさん、どうもsun
予告に石橋蓮司がちらっと出てちょりましたが、どうやら永井尚志らしいです。

永井尚志ですかぁ。
『新選組!』のときは佐藤B作でした。ギャップありすぎます。

baldhatterさん、どうもsun
佐藤B作が『新選組!』に出ていたことすら忘れてました。

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