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2010/11/27

龍馬伝 第47話 大政奉還

果たして大政奉還は成るか?龍馬は運命の刻を迎えていた。

ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃないか!
慶応3年(1867年)10月、京都の町は混乱していた。
「なんぜこれは?」
京都に着いた龍馬はその光景に驚愕した。空からお札が降ってきたと、奇妙な化粧をした京の人々が通りに繰り出して踊り狂っていた。
「世の中の先が見えんようになって、みんなヤケになっとんのや」
龍馬に同行してきた陸奥が顔をしかめる。

そして徳川幕府も同じように混乱していた。

後藤象二郎が京都の二条城に赴き、老中・板倉勝静に謁見した。
「土佐より急用とは一体何事じゃ?」
「山内容堂公より徳川慶喜公への建白書を預かって参りました」
後藤が容堂のしたためた建白書を板倉に差し出した。
「大政奉還の建白書にございます」

建白書はすぐに板倉より慶喜に渡された。
それを読み始めた慶喜の読む手が震えだし、腹の底からわくような声でうめいた。
「政権を帝にお返しせよだとぉ」
慶喜は幕閣を集めた。大政奉還の建白書について話し合うためであった。
「如何に上様のご盟友といえど、山内容堂は許せん!」
小栗上野介が激昂する。
「薩長に怯え、政権を手放すなど言語道断にござりまする!」
板倉も反対した。
だが、こうした意見に一人反対する者があった。幕府若年寄格・永井玄蕃頭である。
「容堂公は世の中の流れを読むことに長けております。今、政権に固執すれば徳川は滅ぶと忠告なされておるのでは?」
「政権を返上したからと言って、徳川が無事で済むとなぜ言える!」
板倉が永井に言い返す。
「薩長と戦をすると申すか!」
「おう!」
板倉が答える。
「徳川七百万石の力、見せつけてやるわ!」
「黙れぇええ!」
今まで黙っていた慶喜が苛立った声を上げ、立ち上がると、幕閣たちの間にわけいった。
「しばらく黙っておれ……」
慶喜は考えを巡らせた。

京都の土佐藩邸。龍馬は後藤の帰りを待っていた。江戸城から帰っていた後藤が帰ってくると、後藤に建白書に対する幕府からの返答について尋ねた。
「一つもない!」
そう答える後藤の声には悔しさがん滲んていた。
後藤が座ると、その前に龍馬も座って懇願した。
「山内容堂公から政権を帝にお返し申せと言われて、幕府の中は大騒動になっちゅうはず。なんとか、なんとかもう一押しできませんろうか」
「そりゃわしやち、そう思うちゅう。けんどこっから先は慶喜公がお決めになることぜよ。わしらは待つしかないがじゃ」
後藤はため息をついた。

その頃、長崎では、弥太郎が土佐商会に勤めながら、その裏で新しい仲間たちとミニエー銃9000丁の取り引きを密かに進めていた。
弥太郎は周りの目を盗んで、帳面を持って田所の前に座ると、小声で訊いた。
「銃の売れ具合はどうぜ?田所さん」
「上々ぜよ」
田所が口角を上げた。
「どこの藩も最新式のミニエー銃を欲しがりゆう」
「よし!」
弥太郎は帳面をパシッと叩いて、土佐商会を出て行き、その足で引田屋に向かった。弥太郎が満面の笑みを浮かべて、得意げにタバコをふかす。
「わしの読みどおりじゃ!」
そこには、弥太郎が銃の調達資金を借りている大浦慶と小曽根乾堂、それにグラバーとオールトが同席していた。
「みんな、戦の準備を進めゆうぜよ」
「岩崎さんは戦になって欲しかとね?」
お慶が皮肉交じりに尋ねる。
「戦が起こったら、わしゃ儲かる。おまんらも、わしに貸したミニエー銃9000丁の代金、倍になって戻って来る。みんな万々歳ぜよ!」
弥太郎は両手を広げて、笑った。
オールトは頷いているものの、グラバー、乾堂、お慶は冷ややかな視線を弥太郎に向けている。
「ばってん、大政奉還とかいう動きもあると聞いとります」
と浮かれている弥太郎に乾堂が水をさす。弥太郎が動揺する。
「坂本さんが動いとるとでしょう?」
お慶が弥太郎に意味ありげに訊く。
「坂本さんは、山内容堂公に大政奉還の建白書ば書かせたとか」
乾堂がお慶を見る。お慶が容堂に大げさに頷く。
「坂本さんには勝算があるのです」
グラバーは弥太郎を無視して、乾堂とお慶と頷きあう。
「うるさい!」
弥太郎が怒鳴り声を上げて席を立つ。
「なんぜ!坂本、坂本と!あいつに何ができるがじゃ!」
「薩長ば結ばせたじゃなかですか!」
お慶が言い返す。
「所詮、そこまでじゃき」
弥太郎が吐き捨てる。
「徳川様を動かすら、そんな大それたことができるわけがないろう!」
「いやいや、ばってん」
乾堂は立ち上がり、弥太郎を指差す。
「坂本さんの行動力を、あなたは身近で見てきたはずです」
「あん人の底知れんところもね」
とお慶。
「Exactly」
グラバーがワイングラスをお慶に向けて乾杯のジェスチャーをする。

そして龍馬の行動力が底知れないことを示すことが、また起る。

新撰組に護られた籠が京都の通りを進んでいると、警護の先頭を行く新撰組の隊士(沖田総司?)が刀に手をかけて立ち止まった。籠の前に龍馬が現れたのだ。
龍馬は通りに正座し、頭を下げた。
「永井玄蕃頭様に、聞いて頂きたいことがございます」
「そこをどけ無礼者」
土方歳三が進み出てくる。
龍馬が顔を上げ、新撰組の隊士たちを見た。
「土佐藩士、坂本龍馬にございます」
それを聞き、隊士たちが刀を抜く。そこには新撰組隊長・近藤勇もいた。
龍馬は怯まず、話を続けた。
「土佐の山内容堂公に大政奉還の建白をお願いしたがは、わたくしにございます」
「坂本ォ!」
沖田が龍馬に斬りかかる、続いて土方が飛び出してきて龍馬を襲うが、龍馬は二人の刀をかわすと立ち上がって、自分は刀を抜かずに、沖田の刀を握る手を掴み、沖田の切っ先を、刀を振りかぶった土方の喉元に向けた。
「永井様、話を聞いてつかあさい!」
龍馬が叫ぶ。
「坂本ォ!」
土方が怒鳴る。
「やめい!」
永井が制し、土方と沖田が刀を降ろす。龍馬も沖田の腕を離した。永井は籠から降りると、龍馬の元へ歩み寄って尋ねた。
「容堂公に建白書を書かせたのか?」

龍馬は永井の邸宅に招かれた。龍馬の周りには永井を守る侍たちが座している。
「話を聞こう」
永井が龍馬の前に腰を下ろすと、龍馬が話を始めた。
「わたくしの師である勝麟太郎先生は、永井様の弟子じゃったと聞いちょります。永井様は、神戸村の海軍操練所よりも9年も早く、長崎に海軍伝習所をお作りになられたお方じゃと」
龍馬がここで話を止める。
「続けよ」
と永井が命じると、龍馬はまた話し始めた。
「その海軍操練所で学んだことの中に、大嵐に遭うたときに船長が取るべき行動がございました。何よりも優先させるべきは船や積荷ではのうて、船客、船員の命であると」
「何が言いたい?」
永井が眉をひそめる。
「徳川幕府という船は、異国に狙われ、薩長に攻めいられようとしゆう今、まさに大嵐の真っ只中。徳川慶喜公が取るべき行動は徳川家のお人らをお守りすることではないですろうか」
「大政奉還が船長の役目だと申すか?」
「永井様ッ!」
龍馬が、ばッと畳に手をつき、座ったまま前に進み出る。咄嗟に龍馬の周りの侍たちが片足を立て、刀に手をかける。龍馬は永井に訴えた。
「徳川慶喜公のご決断は、百年後、二百年後の日本の将来の姿を決めるご決断にございます。どうか、どうか日本の将来を考えてもらえませんですろうか」
龍馬の真剣な眼差しが永井をとらえる。
永井は龍馬を見据えたまま立ち上がり、龍馬のもとへ歩み寄ると、
「出て行け」
とうめくように呟くと、きびすを返した。
龍馬は永井の背中に頭を下げて、出て行った。
永井は去りゆく龍馬を一瞥して、龍馬の言葉を反芻した。

長崎の海援隊本部に弥太郎が不貞腐れた顔でやってきた。そして荷造りをしている隊士たちを横目で見て、
「菜種油に軍鶏。こんまい商売をしゆうねや、海援隊は」
と毒づいた。
「何しにきたがじゃ、弥太郎」
沢村惣之丞が嫌そうな口ぶりで訊いた。
「龍馬は今、どこへ行っちゅう?」
「お前、主任を降ろされて、何やら内職をしよるらしいのぉ」
惣之丞は弥太郎の問いには答えず、階段を登っていく。
「龍馬は何をしゆう?」
「小曽根さんから聞いたがじゃ、おまんがあっちこっちの藩に銃を売りゆうと」
二階から惣之丞は弥太郎を見下ろした。
「教えや!」
痺れを切らした弥太郎が怒鳴る。荷造りをしていた隊士たちの手が止まる。
「おまんは何のために商売をしゆう?」
惣之丞は机に座り、扇子であおぎながら、書類を読む。
「何?」
弥太郎を馬鹿らしいと笑う。
「何のための金儲けぜ?」
「決まっちゅうろうが、日本一の大金持ちになるためぜよ!それがどういた?」
「こんまいのぉ」
惣之丞は弥太郎に言われたことを言い返した。
「こんまい?」
弥太郎が眉を上げる。
惣之丞が誇らしげな顔をする。
「わしらが金儲けをするがは、龍馬に思う存分動いてもらうためやき」
惣之丞が立ち上がり、下にいる弥太郎を見た。
「龍馬は今、京におるがじゃ。大政奉還の総仕上げにかかりゆう」
「龍馬さんは必ず大政奉還を成し遂げるぜよ!」
高松太郎が弥太郎に言う。
「ほんじゃきわしらは、武器には手を出さんがじゃ」
と惣之丞が弥太郎を見る。
弥太郎は黙っている。
「仕事じゃみんな!」
惣之丞がそう言うと、隊士たちは荷造りをまた始めた。

夕暮れの二条城。軒先に座る慶喜の背中に永井玄蕃頭が語りかける。
「容堂公は徳川のことを思うてくださればこそ、建白書を書かれたのではないでしょうか」
憔悴した面持ちの慶喜は、黙って手のひらを見つめたり、庭に目を遣ったりする。
「上様、道は一つしかございません。大政奉還をせねば、戦になってしまうのです」
慶喜は何も答えない。永井が今一度居住まいを正して、
「上様!」
と訴え、慶喜に決断を促した。
慶喜は静かに立ち上がった。
「京におるすべての藩を集めろ」

中岡慎太郎が龍馬の隠れ家に息を切らせて飛び込んできた。そして二階に駆け上がり、そこに寝そべっていた龍馬を呼んだ。
「明日、各藩の重役が二条城に集まる」
「なんじゃとぉ!」
驚く龍馬。
「恐らくその時、大政奉還の建白も却下されるじゃろう。ついに戦が始まるがぜ」

京・薩摩藩邸。小松帯刀が二条城から来た書状を読んでいる。帯刀の周りには大久保利通や西郷吉之助がいる。帯刀が言う。
「慶喜公は一同を集めて、宣言する気じゃ。大政奉還はせんち」
それを聞いて西郷が笑う。
「じゃれば、戦ごあんどな。薩摩で待っちょう兵に出陣を出しもんそ」
薩摩が動いた。

長州・下関でも木戸貫治が武力倒幕に向けて出陣の準備を進めていた。

中岡慎太郎が龍馬に促す。
「西郷さんとの約束通り、土佐も兵を挙げや」
龍馬は黙っている。
「わしは戦がしたいわけではないぜよ。けんどのう、徳川を倒すには戦以外にはないがじゃ!」
そう言うと中岡は階段を降りて行った。
「中岡!」
龍馬は引き止めたが、中岡はそれを無視して出て行った。龍馬は机にあった本などをどけて、後藤象二郎宛の手紙を急ぎ書き送った。
「後藤様、戦だけはなんとしてでも避けんといけません。明日、徳川慶喜公が大政奉還を拒まれたなら、わたくしはすんぐに長崎の海援隊を上京させ、慶喜公を斬るがじゃき」
将軍を斬るとの龍馬の言葉に後藤は驚き、思わず立ち上がった。
「上様一人の命で日本が救われるやったら、躊躇のう、それを選びますき。後藤様も、どうぞそのお覚悟で会議に望んでつかあさい」
後藤は龍馬の手紙を握りしめ、歯を食いしばった。

青く月が輝く夜。長崎商会に残っている田所たちが諸藩への銃の売買について話し合っていた。それを聞きながら弥太郎は軒先に立っていた。
「鳥取藩はもっと安うしてくれと言っちょります」
「もう値引きはせん!1丁8両ぜよ」
「高うても必ず買うき。戦が近づいちゅうきのぉ」

弥太郎の脳裏にグラバーの声が蘇る。
「坂本さんには勝算があるのです」
高松太郎は言った。
「龍馬さんは必ず大政奉還を成し遂げるぜよ」
お慶が言った。
「坂本さんが動いとるとでしょ」
惣之丞が言った。
「それじゃき、わしらは武器には手を出さんがじゃ」
その時一流の風が吹き、弥太郎ははッとして顔を上げ、月を見上げた。
「みんな」
今まで黙っていた弥太郎が口を開いた。
「明日のうちに全部の銃を売ってしまうぞ」
「全部?!」
田所が驚く。
「何が何でも売るがじゃ!」
弥太郎が振り返る。
「ええかえ!全部じゃぞ!」

そして慶応3年(1867年10月13日)10月13日、ついにその日がやってきた。二条城・二の丸御殿大広間に在京40藩の重役が集められた。その中に後藤象二郎や小松帯刀もいた。慶喜が入ってくると、重役たちは頭を下げた。
「面を上げい」
慶喜が座りる。
「土佐藩の山内容堂が大政奉還を建白してきた。政権を帝にお返し奉り、幕府を終わらせよという趣旨じゃ。皆に問いたい」
そう言うと前に控える重役を見回した。
「もしこれに我が応じるというなら、皆は何とする?」
永井が伏せていた目を上げて慶喜を見る。
老中の板倉が慌て、
「上様!」
と声を上げ、
同じく老中・小栗上野介が
「何を仰せられます!」
慶喜を制しようとする。
「わしは、皆の意見が聞きたいのじゃ!」
慶喜が二人に怒鳴ると、もう一度静かに諸藩の重役たちに問うた。
「徳川家は大政をお返し奉ってもよいと思うか?」
徳川が大政奉還などしないと高を括っていた小松帯刀の目は泳ぎ、動揺を隠せない。重役たちは押し黙っている。
やがて一人の重役が頭を下げて声を上げた。
「上様!恐れながらそのような重要なお尋ねを、我が一存でお答えすることはできかねます!」
「答えられぬ?」
慶喜がいらだちをにじませた声で呟いた。
別の藩の重役もそれに続いた。
「私も即答できかねますゆえ、国許に帰って、協議の上、改めて言上いたします」
「手前も国許に帰り、相談して参ります」
諸藩の重役が相次いで判断を保留する中、ついに後藤象二郎が声を上げた。
「上様!私は大政奉還なさるべき時と存じます!」
慶喜が立ち上がった。
帯刀が双眸を見開いた。
「今、帝に政をお返しなされれば、これはまさに大英断!異国からの侵略を防ぎ……」
そう話す後藤のそばに慶喜が近づいてきて、後藤の前で膝を折る。
「薩長のと戦も防ぐことができましょう!徳川慶喜公の名前は、日本を救うた英雄として未来永劫歴史に刻まれることになります」
慶喜が後藤の胸倉を掴んで後藤の顔を見た。後藤が懇願する。
「上様!ご英断を」
慶喜は後藤を突き飛ばし、周りを見回す。
「もうよい。もうよい。皆下がれ……下がれ!」
諸藩の重役たちはそそくさと出て行った。ひとり残った大広間に慶喜ははたりと座り、考え込んだ。


「慶喜公は会議の途中で人払いをされたそうじゃ」
土佐藩邸から駆けてきた千屋寅之助が龍馬に伝えた。
「人払いをされた!?」
陸奥が驚く。
「土佐藩邸で聞いたがじゃき、間違いないろう」
龍馬の顔が曇る。
「後藤様は?」
「後藤様だけは、慶喜公にはっきりと大政奉還を勧めたそうじゃき」
「それで慶喜公は決断されたんか?」
陸奥が答えを急かす。
「それは分からん。まだ分からんがじゃ!」
龍馬は目を閉じて考え込んだ。

夜。龍馬は藤吉に世界地図を見せている。
「ええか、これが世界じゃ」
「これが……へえ」
藤吉が感嘆の声を漏らす。
龍馬が地図で日本を指さす。
「ほんで、これが日本じゃ」
「これ……こんなちっちゃいのが?」
「ああ」
龍馬が頷く。
「ほんでのぉ、船で陸地が見えん、沖に出たら、自分らのことは星で調べるがじゃ」
「星どすか?」
釈然としない藤吉。
龍馬が寅之助に六分儀を貸してくれと頼む。
「ようそんなにのんびりしてられるのぉ」
寅之助は呆れながら、六分儀を取りに行った。
「まったくや」
と陸奥。それを聞いて龍馬が笑う。
「何を言いゆう。わしらがやるべきことは、全部やったろう。今更、ジタバタしたち仕方がないろう」
龍馬は寅之助が持ってきた六分儀を受け取ると、外に出て夜空を見上げ、北極星を捜し、
「あの星じゃ藤吉」
北極星を指さした。
「あの星で、自分らの場所を探すがじゃ」
龍馬は藤吉に六分儀を渡し、
「あれじゃ」
と北極星を指で示す。
「ああ!」
藤吉が喜ぶ。
「見えます!星、見えます!」
「あの星が教えてくれるがじゃ!早う船出したいのぉ」
龍馬は北極星を見上げながら、呟いた。
「船出?」
「新しい船で、新しい海にじゃ」
龍馬が自分たちが潜んでいる家屋に立てかけてあった梯子を登り、瓦屋根に腰掛ける。
「土佐におる兄上、姉上、ほんで乙女姉やん、お龍、もちろん、長崎におる海援隊の仲間もみんな、みんな一緒にのぉ」
龍馬が期待に胸をふくらませて夜空を見上げる。
「どんな世界が広がっちゅうかのぉ。まっこと楽しみぜよ」
寅之助と陸奥も夜空を見上げた。
「あの……」
藤吉がためらいがちに口を開く。
「わても一緒に連れてっておくれやす」
龍馬が笑う。
「もちろんおまんも一緒じゃ藤吉」
藤吉も笑った。陸奥と寅之助も笑った。龍馬が屋根に仰向けになって夜空を見る。
寅之助がまた空を見上げる。
「まっこと綺麗な星空ぜよ」

龍馬は部屋に戻ると、風呂敷から木で作った不恰好な船を模型を眺めた。
「懐かしいのぉ」
それは江戸にいた頃、初めて黒船を見た衝撃に突き動かされて作ったものだった。これがすべての始まりであった。そして龍馬は自分で描いた黒船の写生を畳に広げた。
そのまま龍馬は眠りに落ちた。夢の中で、龍馬は遠く世界に広がる海を見ていた。

朝。床をトントンと叩く音がする。
散らかった部屋で寝ていた龍馬が、その音に目を覚ますと、
「よお」
龍馬を呼ぶ男の声がする。寝ぼけ眼で起き上がった龍馬はその男を見て、目を丸くし、腰を抜かした。
「うわっ……勝先生!」
「久しぶりだなぁ、龍馬」
勝麟太郎がため息をつきながら、龍馬の前に腰を下ろした。
「どういて……」
龍馬が勝に訊いた。
「薩長のと戦はどうなるんだって、江戸の連中がヤキモキしてるからよ、こっそりと京都の町まで様子を見に来たのよ。そしたら昨日の騒ぎだ。やれやれだよ」
「いやあ、まっことご無沙汰しよりました。先生」
龍馬が慌てて部屋を片付ける。
「お元気そうで何よりでございます」
龍馬が改めて挨拶した。
「元気じゃねえよ、おめえ」
勝が渋い顔をする。
「は?」
「ほら!面洗ってこいよ、ほら。話があるんだよ、早く!」
勝が龍馬の顔に手ぬぐいを投げる。
「はい!」
龍馬はその手ぬぐいを持って、急いで部屋を出て行った。
「いやあ、けんど先生、まっことお元気そうで」
階段を降りた龍馬は、たらいにはってあった水をヒシャクですくって飲んだ。
「よお」
勝も階段を降りてきた。
「山内容堂公に建白書を書かせたのは、おめえさんだってなぁ」
龍馬が水の滴った顔を上げて勝を見た。龍馬の顔から笑顔は消えていた。
「永井玄蕃頭様から話は聞いた。まあ恐らくそんなとこだろうと、察しはついてたがよ」
「先生、徳川幕府の役目はもう終わったがですき」
「気安く言ってくれるんじゃねえよ。おい。今はおいらとおめえさんは、敵(かたき)同士なんだぜ」
「かたき!?」
龍馬が驚く。
「冗談だよ」
勝が龍馬の肩をポンと叩く。胸をなで下ろす龍馬。
「おめえさんがよ、徳川を残そうと頑張ってくれてるってのは、おいらよぉ~く分かってる。だがよ、幕府をなくすってのはよ、容易なこっちゃねえ」
勝が首を振る。
「幕府には2万からの人間がいる。上様がもし大政奉還をご決意なされば、そいつらのほとんどが役目を失うことになる」
「先生……一言言うてもえいですろうか?」
「何でい?」
「そんなことら、どうでもことえいですろう。大政奉還が成ったら、帝をてっぺんに頂き、あとは、下も上ものうなるがじゃき」
龍馬が勝を向く。
「役目を失うてしもうた2万人の人らも、仕事をしたらえい。商人や職人や百姓らと、おんなじように自分の食い扶持は自分で稼いだらえいがじゃき。そうですろう先生!」
勝が高笑いする。
合点がいかずきょとんとする龍馬。
「ああ!言ってくれるねえ!だがよ、筋は一本ピシッと通ってる」
と龍馬を笑って見ていた勝の眼差しが真剣になる。
「だが1つだけ条件がある。上様が大政奉還をご決意なさるということは、すさまじき勇気と覚悟のうえのことである。ゆえに徳川将軍を敗軍の将としてぞんざいに扱うことは、おいらが決して許さねえ」
そして勝は龍馬に尋ねた。
「薩長を抑えられるかい?」
龍馬は勝の目を見据えた。
「はい。命に懸けて」
「うん!」
勝は強く頷いた。

「坂本さん!」
「龍馬さん!」
男2人が呼ぶ声がする。
「刺客だ!逃げねえ!」
勝が急いで出て行く。
声の主は、陸奥と寅之助だった。
「どういたがおまんら?」
龍馬は陸奥にそう訊きながら、勝がどこに行ったのかとあたりを見回す。
「慶喜公が……大政奉還を決めましたわぁ!」
陸奥が大声で叫んだ。藤吉が永井玄蕃頭の屋敷の者に行って聞いてきたのだった。
放心状態の龍馬。道に出た勝もそれを聞いてあ然とする。
「やったがじゃ!」
寅之助が歓喜の声を上げる。
龍馬が何度も深く頷く。
「ようご決断された……慶喜公はようご決断された」
龍馬は陸奥や寅之助と肩を抱いて泣き出した。
「やったのぉ……わしらの夢が叶うたぜよ……」
「坂本龍馬!」
出て行った勝が戻ってきた。
「大した野郎だよ。たった一人でこれだけの大仕事をやってのけた!」
「先生……」
龍馬が泣き顔で勝の方を向く。
勝が笑う。
「けんど先生、一人じゃないがです」
と龍馬が言う。
「わしらみんなあで、やったことですき!」

龍馬は通りに出ると、顔を上げた。晴れた朝の空が広がっていた。
「夜明けじゃ……新しい……新しい日本の夜明けぜよ!」
龍馬は空に向かって両拳を振り上げ、力のかぎり叫んだ。

慶応3年10月14日、ついに徳川幕府が終焉を迎えた。

その知らせは長崎の海援隊本部にも伝えられた。
惣之丞が叫ぶ。
「大政奉還じゃ!」
他の隊士たちも歓喜の叫びを上げた。

弥太郎は土佐商会で大政奉還の知らせを読むと、驚愕に顔を歪め、膝を落として泣き出した。
「負けた……また負けじゃ……」

「ほんまに成し遂げるとは、なんちゅう男じゃ龍馬」
京・土佐藩邸で大政奉還の知らせを聞いた中岡慎太郎が笑う。
逆に中岡の横に座る西郷は怒りを湛えている。
「中岡はん、坂本どんを生かしちょったとは、間違いごわした」
はッとして中岡が立ち上がった。
パイプをふかる大久保利通の目には殺意が宿っていた。

長州の木戸貫治も大政奉還の知らせを受けた。
「一体誰が慶喜をたぶらかしたんじゃ!」
木戸のそばにいた者は怒り狂い、椅子を蹴り飛ばした。
「坂本君……」
木戸が冷ややかな声で呟いた。

二条城。
「なぜ……こんなことになってしまったのじゃ……」
慶喜がうめく。
「薩長が手を組み。土佐が寝返ったからにございます」
小栗上野介が答えた。
「そのすべてに関わった者がおると聞いております。土佐の藩士、坂本龍馬!」
そう言う板倉の声には憎しみがこもっていた。
「坂本……龍馬」
慶喜が噛み締めるようにその名を口にした。

京の町では人々がええじゃないかと踊り狂っていた。
龍馬が叫ぶ。
「徳川様が政を帝に返上されたがじゃ!」
その直後、悲鳴が起こり、踊りが止み、人々で埋め尽くされていた通りが急に開けた。
「幕府が終わっただと?」
そこには新撰組を連れた近藤勇が立っていた。近藤勇の先には龍馬がいた。近藤たちが腰をかがめ、刀に手をやる。龍馬のそばにいた陸奥と寅之助も刀の柄を握る。
「坂本ォ!お前!」
近藤が抜刀する。陸奥たちも刀を構える。
悲鳴が起る。
「待ちねえ!」
勝麟太郎が間に割って入る。
「よぉよぉよぉ!おめえさんら、おいらの面を知ってるかい?」
勝が自分の顔を新撰組に向けて、自分の顔を指差す。
「おいらの面知ってるかい!幕臣・勝麟太郎安房守である!おめえたちがやろうとしていることは、上様のご決断を蔑ろにすることである!分かってんのかい!」
勝が怒鳴る。
「坂本龍馬を斬ることは、おいらが許さねえ!」
勝は両手を広げて新撰組の前に立ちはだかった。
龍馬が前に進み出る。
「近藤さん、もう人斬りはやめにせんかえ。これからの日本は大きゅう変わるがじゃき。わしらと一緒に新しい日本を作らんかえ」
「新しい日本だぁ?」
近藤が龍馬を睨む。龍馬は近藤に頷いた。
近藤は刀を納めると、踵を返して去っていった。新撰組の隊士たちも近藤に続いて戻っていた。
新選組が姿を消すと、どこからともなくええじゃないかの歌声が聞こえてきた。人々はええじゃないかとまた踊り始めた。
「先生」
龍馬が勝を呼んだ。
「何でい?」
「大政奉還はわしの夢でした。戦をせんと世の中を変える大仕事じゃ。確かに大政奉還は成ったがじゃき。けんど……それだけでは人々の暮らしは変わらん!これからじゃ、すべてはこれからながじゃき!」
「馬鹿野郎!」
勝が怒鳴る。
「そんなことは……分かりきってることだよ!」
勝が龍馬の肩を叩いた。
「おめえさんは、おいらの幕府をぶっ壊した。いやさ、700年続いた侍の世の中を終わらせたんだ。ここからがいよいよ、おめえさんの勝負のしどころよ!」
勝は腕の見せ所をいう風に腕を叩いた。
そして龍馬に微笑んだ。
「さあて坂本、おめえさん、一体これから、何するんでい?」
龍馬は笑った。
「なあ坂本」
「はッ」
「また会おうぜ!」
勝は額に手をかざし、龍馬に海軍式の敬礼をした。
「はい!」
龍馬は答え、去っていく勝に頭を下げた。

弥太郎が小曽根乾堂と大浦慶の前に大金の入った箱を置いた。驚くお慶。
「ミニエー銃9000丁の代金じゃ」
そう言う弥太郎の顔は暗い。
「よう売り抜けましたたい。大政奉還の知らせの来る前に」
乾堂が弥太郎を見て、大金が入った箱に手を置いた。
「やっぱい坂本様ば信じたんとですね。岩崎さんは」
とお慶。

「その通りじゃった」
弥太郎はその時のことを回顧する。
「わしは龍馬を信じてしもうたがじゃ」

弥太郎は儲かった金が入った袋を握り、庭の大岩に登ると空に向かって叫んだ。
「待っちょれよ。待っちょれよ、龍馬!」

京都。陸奥が龍馬に京都を出るように促す。
「大政奉還は成ったがじゃき。はよ逃げなあかん」
龍馬は陸奥を無視して机に向かって、何かに取り憑かれたように筆を走らせる。
「坂本さん!」
陸奥が呼びかける。
「そんなことはわかっちゅう」
龍馬は立ち上がり、書き上げたものを広げて、陸奥と寅之助を見た。
「わしにはまだ、やらんといかんことがあるがじゃ」
そしてまた机に向かうと、一心不乱に書き始めた。

竜馬暗殺まであと1月。

そして次回最終回。

勝麟太郎が再登場。いいですね、勝。大政奉還の回にうってつけでした。
「おめえさんは、おいらの幕府をぶっ壊した。いやさ、700年続いた侍の世の中を終わらせたんだ。ここからがいよいよ、おめえさんの勝負のしどころよ!」
って武田鉄矢だからいい。前回の近藤正臣と今回の武田鉄矢はいい仕事してます。

前回、龍馬は下士という制度の本丸である容堂を屈服させ、今回は武家が支配するアンシャンレジーム(旧体制)のボスである慶喜に大政奉還をさせて、武家社会ぶっ壊すという、最初に投げたテーマを最終回あたりでちゃんと達成するストーリー展開は大河としては珍しいのではないかと。

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コメント

いよいよ今夜、最終回大河ドラマとしてはあれこれ言われましたが、新撰組!以来。見廻組でシオンも出るのですでにドキドキしてます(福山雅治、やるなぁ)。この約1年間、見れなかった時はここで確認させていただきました。どうもありがとうございます。
ではワクワクしながら始まるのを待ちます。

がきょうさん、どうもsun
龍馬伝を超える大河は、当分ないかもしれないと思った次第です。
SIONって人出てましたね。

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