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2010/11/22

SPEC 第6話 己(KI)の回 「病の処方箋」

犯人は1話から出ている安田顕だったか!

何者かに狙撃されて死んだ里中貢の葬式に、瀬文、当麻、野々村係長が弔問に訪れ、合わせる。(当麻が合掌するとき、包帯巻かれている左腕が右手より下がっていて、右手と合っていない。つまり左手がないことを示す動作としていいです)

通夜が終わり、当麻たちが葬式会場から出てくると、里中の娘・梨花がひとりテーブルに座って本を読んでいた。当麻が梨花のもとにいき、手に何を持っているのかと訊いた。
「アフリカの石。パパに貰ったの」
梨花が答える。
「そうか。じゃあ、金かダイヤが入ってるかもね」
「ほんとう?」
「うん」
当麻が笑いかけた。

瀬文、当麻、野々村係長の三人が夜の歩道橋を歩いていると、瀬文がふと立ち止まり、呟いた。
「なんて俺は無力なんだ」
「暗ッ」
と当麻。
「てか梨花ちゃんを救う大事な仕事が残ってます」
「わかってる」
「しかし警察系のヤツ、私たち以外はホントに誰も来てませんでしたね」
「(里中は)公安の刑事だからしたかない」
野々村係長が言う。
「里中さんの奥さんには何て言ったんすか?」
当麻が野々村係長に訊く。
「南アフリカの警察から警視庁に連絡があり、キンバリーのホテルで火災に遭い、焼死したことになっている」
(前回も言ってましたが、狙撃で死んだというのを隠すためにすぐに火葬したので、こういう言い訳になるんでしょうね)
ため息をつく当麻。
「生きている間は本人が家族に嘘。死んだら国家ぐるみで嘘。一人の人間の一生をこんだけメチャクチャにして、守るべきものって何なんですかね?」
「それが分からないようなら、刑事はやめたほうがいいな」
野々村係長が歩道橋から見える街の灯りに目を遣った。
「この街の灯り一つに一つの家族があり、一つの幸せがある。それを私ら刑事は命がけで守っている。命をかける価値がある。古いって言われるかもしれんがね、私はそう思っている」
と言い野々村係長は当麻を向いた。
「でも死んだらすべて終わりです」
「そんなことはない」
野々村係長は強く否定した。
「里中くんの死は我々に大きな意味を残しているよ。分からんかね?」
当麻も瀬文も黙っている。
「魑魅魍魎(ちみもうりょう)どもが隠蔽してきた真実を私たちが白日のもとにさらすチャンスだよ」
野々村係長が瀬文と当麻を見る。
「瀬文くん、当麻くん、我々未詳はちっぽけな存在だ。いつもみ消されるか分からん。だからこそ、心臓が息の根を止めるまで、真実に向かってひた走れ!それが刑事だ」

「いちいち、うっせえなあ。糞にたかハエどもがよ」
赤色に照らされる部屋で津田が携帯をいじり、焼きイカにかぶりつく。

同じ夜。学生服の一 十一(ニノマエ ジュウイチ)が猫に餌を与え、それを嬉しそうに眺めていた。ふと腕時計を見て焦った。
「やばい、母さんに叱られる。じゃあな!」
と猫に行って走りだすと、姿が消えた(時間を止めたのか?)。

里中貢の初七日に瀬文と当麻が偶然を装って里中のマンションを訪れた。突然お邪魔して申し訳ないと瀬文が貢の妻の小百合に詫びると、小百合もこちからからお伺いしようとかと思っていたと言う。
「どうされました?」
当麻が小百合に訊ねる。
「どうしても夫の死が腑に落ちないです」
「といいますと?」
「今回の出張の前、なんだかいつもと違って、あふれていた本も捨ててあって、いろんな主人の荷物が整理されていたんです……まるで何かを覚悟していたみたいに」
小百合は整理された本棚を見ていた。
「なのに事故で死んだなんて……信じられません」
瀬文と当麻は真相を言わず、黙って聞いている。
「一緒に暮らし始めて6年になりますけど、考えれば考えるほどおかしいんです」
「あの……」
当麻がいたたまれず、本当のことを言いそうになるが、それを瀬文が止める。
「里中先輩は火災事故でお亡くなりになりました。これは事実です。向こうの検死報告書も確認しました」
「そうですよね……つまらないことを申し上げました」
小百合が瀬文に頭を下げる。
「夫が生前、よく困ったことがあったら、瀬文さんを頼るようにと申しておりましたので、甘えてしまったのかもしれません」
瀬文は何も言えず頭を下げる。

小百合の携帯が鳴る。娘の梨花の容態が急変したことを知らせる病院からの電話だった。小百合はバッグを持って病院へ向かう。瀬文もでは一緒に出ていこうと言うが、当麻が里中のマンションを調べさせてもらえないかと小百合に頼む。瀬文が当麻を諌める。小百合は当麻にマンションの合鍵を渡し、よろしくお願いしますと頭を下げてマンションを出て行った。

「どういうつもりだ?」
瀬文が苛立った声で当麻に訊ねる。
「私は真実を知りたいだけですよ」
当麻が本棚を調べる。
「ていうか、瀬文さんこそ、どういうつもりですか?里中さんの死因を、いけしゃあしゃあと隠蔽しちゃったりして」
「奥さんがムキになっていろいろと調べ始めたらどうする?調べられたら困る奴らが奥さんと子供を狙うかもしれん。それを分かって言ってんだろうな?」
「うっせえ、この隠蔽野郎!」
当麻が瀬文に怒鳴る。
「なんだのこと、この魚顔!」
瀬文が怒鳴り返す。
ビクっとする当麻。
「魚顔ってあだ名だったんだ。超ウケる」
瀬文が吹き出し、
「サカナちゃん、サカナちゃん」
と当麻を挑発する。
当麻が切れ、
「ギョギョ!」
と叫ぶと瀬文の喉に蹴りを食らわせる。その勢いで瀬文が戸棚に倒れこむ。本棚から本が瀬文に落ちてくる。瀬文が当麻をやったなという目で睨み、落ちてきた本を次々と投げつける。
自分に投げつけれた数々の本を当麻はスーパー速読術で読んでいき、最後の1冊を掴んだ。
「いただきました」
当麻に本を投げようとしていた瀬文の左手が止まる。
「これ片付けたの里中さんじゃないですね」
「なぜ分かる?」
瀬文が本を投げるポーズのまま当麻に訊ねる。
当麻が瀬文に本の最後を見せる。
「このへんの本、古く見えるけど、つい最近印刷されたものばかりです」
瀬文は左手に持った本はそのままに、当麻がから見せられた本を右手に掴んで確かめる。どれも初版は十年前だが、本自体は2010年に印刷されたものだった。
「多分、誰かが里中さんの持ち物を片っ端から押収して、かわりに新しいものを置いていったんでしょう」
「誰が?」
「誰がやったか知りませんが、何か証拠やメッセージが残されると、とても困る集団。しかもかなり大掛かりです。逆に言うと、里中さんはその証拠やメッセージを残そうとしたはずです」
当麻がソファに腰掛ける。
「この攻防ハンパないっすもんね」
「どこに? どこに残した?」
「わかりませんよ。まあ、でもこの部屋の中でしょうね」
「そんなこと偉そうに言うな」
瀬文は立ち上がって部屋を探し始める。
その間、当麻は小百合が出したお茶を飲んではゲップを繰り返す。
「お前なあ、ちょっとは捜せよ」
瀬文が当麻に苛立つ。
「プロの家探しを見てたんですよ」
当麻が平然と言う。
「こうして見ると、この部屋のありとあらゆるところを捜していくんですね」
「そりゃそうだろ」
瀬文が袖についた埃を払う。
「だったら、里中さんはこの部屋に何も置かないですね」
瀬文がキレて、当麻の両頬を掴む。当麻の頬が潰れてアヒル口になる。
「お前がここにあると言ったんじゃねえかッ!」
「まあまあ、じゃあここでクイズです」
とアヒル口の当麻が言う。
「この部屋にいつもあるけど、今はここにないものな~んだ?」
「知るかッ」
瀬文が当麻の頬から手を離す。
潰されていた頬を撫でる当麻。
「奥さんがいるときは家捜しできないから、ここにある。でも奥さんがいないときは家捜しされちゃうから、そん時はここにはないもの……」
当麻は閃いた。

当麻と瀬文が梨花が入院している病院へ行く。小百合は梨花の病室にいた。梨花は酸素マスクをつけた状態でベッドに寝ていた。瀬文が小百合に梨花の容態を訊く。
「今は少し落ち着きました」
小百合が答える。
「でもいつ何があっても、おかしくないから、急いで手術したほうがいいと言われて、今専門のお医者さんを捜してもらっています」
小百合がを寝ている梨花を見る。枕元には、ライオンの人形と里中が渡したアフリカの石が置いてあった。
「そうですか」
瀬文が神妙な顔になる。
当麻はそれより小百合のバッグの中身が気になって仕方がない。
「こんなときにあれですが、奥さんちょっといいですか?」
「はい?」
「失礼なんですが、かばんの中、見せてもらってもいいですか?」
「かばん? いいですけど、何のために?」
「里中さんの遺品が入っているはずなんですよ」
「遺品? 特には……」
小百合と首をかしげ、バッグを持ち上げると、当麻がそれをひったくって、中身をテーブルにおくと中を漁り始める。
「ゲッ」
驚いた小百合が変な声を発し、瀬文に頭を下げる。
当麻が小百合の財布に入っていたカード類をテーブルにぶちまける。そしてACQUAのカードを手に取る。
「おッ、ACQUAのカードだ。私もここで髪、切ってもらってるんですよ。お揃いっすね、お揃い」
当麻が笑って小百合を見る。瀬文が紙袋を持った左手で当麻の後頭部を殴る。
「本題に入れ」
「もう見つかりましたよ」
当麻が立ち上がる。
「ご主人は相当、本好きだったみたいですね」
「ええ、割とまとめ買いしてはザーッと一気に読むタイプで」
小百合が頷く。
「本にお金を惜しまないタイプだ。じゃあこれは?」
当麻が小百合に里中貢の図書館カードを見せる。
「主人の図書館カードです。延滞していた本をかわりに返しておいてくれと言われて」
と小百合。
「わざわざ図書館から借りてきたと」
当麻がドヤ顔で瀬文を見る。
「頼まれたのはいつですか?」
瀬文が小百合に尋ねる。
「最後に出張に出る以前の夜です」
驚いた瀬文が当麻を向く。
「その本のタイトル、何だったか覚えてますか?」
当麻が訊いた。

図書館に来た瀬文と当麻がその本を探す。タイトルは「歴史的意識の変遷を読み解く」。瀬文が探していた本を見つける。当麻は先に見つけられて舌打ちする。
「この本のどこかに……」
瀬文が本をくまなく調べてみるが、何も出てこない。業を煮やした当麻が瀬文の後頭部に空手チョップをお見舞いし、その本を取り上げると、本の表紙の裏を指でなぞった。
当麻は感触の違いに気がついた。そしてキャリーバッグからカッターを取り出し、本の表紙の裏に刃を差し込んで剥がした。そこにはminiSDカードが貼りつけられていた。

miniSDカードをノートパソコンにつなぐ。カードにはデータフォルダーがあった。その1つ"ad321d9"を当麻がクリックして開く。
「そんなまさか……」
驚く当麻。
この2人の様子を後ろから見つめる老夫婦がいた。

当麻は「未詳」に戻ってきて、そのデータをデスクトップパソコンで開いた。野々村係長がこれは何かと当麻に訊いた。それは里中が公安の超高度機密データベースから盗んだ情報だった。
「里中さんはすごい深いところまで侵入して盗んでますね」
当麻が別のデータをクリックする。
「これは何?」
野々村係長がまた訊いた。
「SPEC HOLDERのリストです」
「え?!」
驚く野々村係長。

リストには
予知能力を持つ者 冷泉 俊明
念動力を持つ者 古戸 久子
超聴覚能力を持つ者 桂 小次郎
時間を止める能力を持つ者 一 十一

そして「病を治す能力を持つ者」もいたが、氏名もすべて不明だった。
当麻が呟く。
「里中さんは病を処方されてジェニファー氏病に罹ってしまった梨花ちゃんのために、こうつを必死に捜してたんでしょうね」
「いたらいいけどね、そんな神様みたいな人」
と野々村係長。
「いたら、大騒ぎになって結構な噂になっちゃてるよ」
「やっぱいないっすかね」
「いないよ。ねえ、瀬文くん?」
野々村係長が瀬文に同意を求める。
「ええ」
瀬文が頷きながら、海野医師が神の手を持つ男に会ったことがあると言っていたのを思い出していた。瀬文が未詳から出て行く。どこに行くのかと野々村係長が訊くと、殺された5人の公安捜査員の健康診断に関わったと思われる医師の情報を集めてくると言った。
PCの画面を見ながら当麻が呟く。
「てか、このデータ、どこの誰が作ったんですかね?」
瀬文の足が止まる。
「てか、我々「未詳」の他にすでにSPEC HOLDERに向き合っていた部署が随分と前からあったってことなんじゃないですかね? どう思います?」
当麻が野々村係長に意見を求める。
「う~ん……かもね~」
と野々村係長。
「そんなことより、まずは目の前の命を救うことだ」
瀬文はエレベーターに乗り込んだ。
「かもね~」
と呟く野々村係長。

(当麻が見ているSPEC HOLDERのリストの「自動書記能力を持つ者 西荻 弓絵」ってSPECの脚本やってる人でしょ。超性交能力を持つ者 日高貴士、念動力を持つ者 ブリ爺さんってのも気になります。)

病を処方する能力を持つ者の氏名や住所は不明となっていたが、注記に「Ø」とのみ書かれていた。

レストラン。海野医師の前には輪切りのピクルスを並べたオムライスがある。海野は真ん中の2枚のピクルスをフォークで突き刺して口に運ぶ。噛むと同時にその強烈な酸味に顔をしかめた。
「すいません」
瀬文がやってきた。
「まさか瀬文さんから連絡いただけるとは」
海野は前の席に座るように手招きした。
瀬文が海野の前に座る。
「何かいい情報でもあったのかと思ったんですが……」
「ありません。万が一あったとしても、職務上知りえたことは教えられない」
「志村さんを救う情報だけは共有したいと思っただけなんですがね」
海野は、オムライスのピクルスがなくなったところにスプーンを差し込んで、ケチャップライスをほじくるようにして取り、口に入れた。
瀬文はその間、黙っている。
「まあいいや。あなたから頼まれた健康診断のカルテ、調べてみました」
海野がテーブルの下から診断書を瀬文に渡す。
「やはり、健康診断時と死亡時の所見の間には、かなり超自然的というか、不自然は隔たりがあると思いました」
「病を処方するSPECは存在するということですか?」
瀬文が口を開いた。
「そこは、科学者としては、ハイとは言い難いというか……まあ、ただ病を治癒する超能力があると言われている以上、その逆があっておかしくはないのかと……」
海野が瀬文を見た。
「ちょっと医者仲間にメールで情報を集めてみたんです。そしたら医学部時代の同級生の織田(おりた)というヤツが妙な噂のある医者を知っていると……」
「妙な噂?」
瀬文が身を乗り出した。

瀬文は海野とともに、ナイツの埴宣之に似た、天津堂大学付属病院に勤める内科医・織田剛という医者に会いに行った。
「宮崎洋介という検査技師ですね。何かと問題が多くてね。この男なんですが」
織田は瀬文に集合写真を見せて、宮崎を指さす。
それは梨花を検査した人は、白い口ひげをたくわえた、お年寄りの方という小百合の証言と合致した。
「この宮崎という医者が起こした問題というのは?」
瀬文が織田に尋ねる。
「金や、女や、売薬、色々あったんですが、一番は不審死が必ず起るってことなんです」
「不審死?
「ええ」
「原因は?」
「分かりません」
織田は首を振った。
「病を処方してるんじゃないかと冗談で言われてましたが」
織田は瀬文の後ろのベッドに腰掛ける海野をちらっと見てから、視線を瀬文に戻した。
瀬文と海野が顔を見合わせた。

Ø」で悩んでいる当麻。
「1-1=ゼロ」
と書いてみたものの、違うと唸る。
「ゼロは何か他の呼び方があるのかもしれないよ」
「おお~さすが係長」
「そこで珍名辞典、ジャーン」
係長が当麻に手に持っていた珍名辞典を見せる。
「おお!」
喜ぶ当麻。
そこに電話がかかってくる。
野々村係長が取ろうとして、当麻に先をこされて悔しがる。
電話の主は地居だった。
「なんで電話してくるわけ?」
当麻が怒る。
「君に聞きたいことがあるって人がいて」
「いまそれどころじゃないんで」
当麻が電話を切ろうとすると、地居が慌てる
「いやいや、志村美鈴さんて知ってる? お兄さんがSITの銃撃戦で……」

瀬文と海野は警察病院に戻って、海野の部屋のパソコンで宮崎洋介の情報を見た。確かに織田医師の言ったとおりの情報が載っていた。
「早速、これらの病院に当たってみます」
瀬文が海野に言う。
「なんでも言ってください」
海野が宮崎の情報をプリントアウトする。
「ちなみに」
プリンターの前に立つ海野に瀬文が尋ねる。
「病を処方した人間なら、その病を治癒できますか?」
(これ海野のSPECに対する問いになってますね)
「さあ……でもそんな都合のいい話は期待しないほうがいいかもしれませんね」
「あの……」
瀬文がまた別の質問をする。
「先生が前に話した病を治す人間の話、あれ本当ですか?」
海野がプリンターから出てきた宮崎の情報を渡し、机に座った。
「僕が中2の時の話です」
海野が話し始めた。
「自転車でスピードを出しすぎてね。ガードレールにぶつかって右手の手のひらを半分切断したんです。当時、僕は坂本龍一が大好きでピアニストになりたかった。幼心に夢破れてね。そんなある日……」
坂本龍一の「BEAUTY」のジャケットのポスターだらけのCDショップで、少年海野は鼻に小指を突っ込まれて、持ち上げられた。そして海野がくしゃみをすると男は去っていった。
「……まあピアニストをやる才能は残念ながらなかったが、そこそこに外科医にはなれた。その男の人のおかげです」
海野が無意識にケガした右手を左手で揉む。
「自分も治してもらいました」
と瀬文が打ち明ける。最初に接触したSPEC HOLDERの脇の豪速球で肩を負傷したが、その後、鉄道のアンダーバスで女性に躰を当たられて治ったのだった。
「会ったんですか?」
海野が立ち上がり、瀬文に詰め寄る。
海野の視線を避けるように、瀬文は海野に背を向ける。
「自分の場合は女でしたが、本当にケガが治ったんです。誰に言っても信じてもらえないと思うのですが」
海野の部屋の電話が鳴る。海野が電話に出る。
「はい……分かりました……私でよければ是非」
と電話を置き、瀬文に振り返った。
「すいません。緊急のオペが入ってしまって……明日のオペなので、今からカンファレンスに行かなければなりません」
「大丈夫です。この手で病を処方する医師を捕まえてきます」
「健闘を祈ります」
瀬文が海野に頭を下げて出て行った。海野は瀬文が出て行くのを見送ると、机に戻り、パソコンの画面に映っている「聖クレッシェンド病院」から送信された「明日のオペ/クランケのデータ」のメールを開く。それを見て海野は、不気味な笑みを浮かべ、親指の爪をじわりと噛んだ。

夜の「未詳」。
「入りま~す」
雅ちゃんが地居と美鈴を連れてエレベーターで上がってくる。
「志村美鈴さんと、その彼氏がやぼ用とのことでお見えです。それでは張り切ってどうぞ!」
野々村係長が結婚指輪を指から力任せに引き抜き、満面の笑みを浮かべて雅ちゃんに手を振る。
地居が美鈴を紹介しようと、
「彼女が予備校のバイトで一緒の……」
と言ったところで、当麻が美玲に
「あなたが志村美鈴さんですね」
と先回りする。
「ええ」
美鈴が頷く。
「お兄さんの事件の件、伺っていました」
美鈴は驚くが、平静を装って黙っている。
当麻はいつになく冷静ながら穏やかな口調で話を続けた。
「私が言うのは何ですが、あなたのお兄さん、瀬文に撃たれたんじゃない。それだけは信じてあげてほしい」
「何を根拠に?」
美鈴が言い返す。
「いつか、その真犯人を捕まえて、あなたに説明して見せます」
美鈴が当麻から目を逸らし、野々村係長に顔を向ける。
「あの……」
「何でしょう?」
野々村係長が美鈴に笑顔を作る。
美鈴が野々村に尋ねる。
「病を手で触れただけで治すことができる人は、本当にいるんでしょうか?」
野々村係長は驚いて当麻を見る。当麻も少なからず動揺する。
美鈴は、その人物を瀬文たちが捜しているとも知らず、話を続ける。
「たとえば、兄のような植物状態の人間を元通りにできる、神の手を持つ人が……」
「いるわけないって言ったんだけどね」
地居が美鈴の話に割って入る。
「その話は誰が?」
当麻が訊く。
「兄の担当の先生が……」
美鈴が訝しげに答える。
「名前は?」
「警察病院に勤めている海野先生です」
「知ってる?」
地居が当麻に尋ねる。
「直接は知らない」
「公安なら何か情報を持ってるんじゃないかって、その先生が」
と美鈴が言う。
「どうなの?」
地居が当麻に訊く。
当麻が美鈴を見据える。
「私たちも捜査してます。お伝えできることがあれば、お伝えします」
「何も教えていただけないということですか」
美鈴が席を立った。
当麻は座ったまま、何も答えない。
美鈴が帰り際に、ふと当麻のパソコンを見る。画面には大きなメモがいくつか貼られ、「病を処方する医者」、「公安の刑事」、「連続不審死」、「里中貢」と書かれていた。
まずいと察した野々村係長が作り笑顔で、机に手をついてメモを見ている美鈴のもとにやって来る。
「まま、ちょっと今日は遅いのでまた改めて。我々も急に言われましても、分からないことばかりで……」
「分かりました」
美鈴が机から離れようとしたとき、PCに接続されていた里中のminiSDカードに不意に指を触れる。指を通してminiSDカードからヴィジョンが美鈴の脳に流入する。美鈴は慌てて「未詳」から出て行った。
「後で電話する」
地居がエレベーターに乗り際に当麻に言う。
「電話するな」
当麻が憮然と拒否る。
「後で電話する」
雅ちゃんが野々村係長に言う。
「キュン!」
と両腕を上げて喜ぶ野々村係長。

同じ頃、瀬文は海野から渡された資料を頼りに大昭病院の事務長、坂本将俊に会い行き、宮崎洋介について尋ねた。
「宮崎先生は3か月前に辞めています」
坂本は瀬文に言った。
「何かあったんですか?」
と瀬文。
「それが……」
坂本が瀬文から顔を背けた。

「未詳」のホワイトボードに、零、王と書かれている。
「他にゼロと解釈できる名前は……」
野々村係長が独り言を言っていると、電話が鳴る。瀬文からの電話だった。
どうしたと野々村係長が訊くと、「当麻に代わってくださいと瀬文は言った。一生懸命捜査に貢献していると思っているのに、完全にスルーされて落胆するする野々村係長が当麻に電話を回す。
「宮崎洋介というフリーの医師が最後に勤めた四夜の大昭病院で、先月の末にオリエンタル電力の前田会長が急性心不全で亡くなっているらしい。裏を取ってくれ」
当麻が電話を顎と肩に挟んだまま検索する。
「確かに四夜の大昭病院で亡くなってます」
「今から宮崎のマンションを急襲する」
と夜道を急ぎ足で歩く瀬文。
「私も行きましょうか?」
当麻が立ち上がる。
「もう宮崎のマンション、表だよ」

瀬文はドアの鍵を外して宮崎のマンションに入る。
もぬけの殻だった。というか家具も何も無い状態だった。
「どなたでですか?」
突然男の声がする。
瀬文が驚いて振り向く。
玄関に買い物帰りの初老の男が立っていた。
「失礼、警察の者です」
瀬文が玄関に戻って、警察手帳とIDを男に見せた。
「おお、わしゃ隣のもんだけど」
と男は言う。
「宮崎さんなら、2週間前に亡くなったよ」
「え?」
男がベランダを指さす。
「そこの窓から飛び降り自殺だよ」

瀬文が「未詳」に戻ってくると、すでに野々村係長が帰っており、当麻も見当たらない。瀬文は自分の机に座ると、俯いて深い溜息をつきた。そこにドンとデカい煮込みうどんが鍋ごと置かれる。うわっと驚く瀬文。うわーと当麻が低いテンションで返す。
「突然、びっくりするだろ」
瀬文が動揺する。
「突然はそっちでしょう」
と当麻が言い返す。
「こっちはここでずっと待ってたんだから」
当麻のパソコンの前にはたくさんのメモが散らばっている。
「死んでたよ宮崎」
瀬文が落胆まじりに呟いた。
「みたいっすね。電話の後で調べました」
「真相はすべて闇の中だ」
「闇に沈む真実もあれば、光さす真実もありますって。まッ、うどん食いなっせ」
当麻がコンロから自分の巨大煮込みうどんの鍋をペンチで掴む。
「なんだその自信」
「向こうも必死なんすよ。真実を闇に沈め続けるのは相当体力要ると思うんすよね」
当麻がペンチで掴んだ煮込みうどんの鍋を瀬文の前の席に置いて座る。
「向こうも全部の真実を沈めきれないはず。一瞬でも浮かび上がった真実を絶対に逃さず、白日のもとに引きずり出すのが私たちの仕事です」
当麻が瀬文を見る。
「だからそのために体力をつけてください」
当麻が髪をかき上げて、うどんを食べ始める。
瀬文も当麻の言うとおりだと感じ入って、うどんを食べ始めるが
「まずい……」
「あ?」
「塩っぱい、酸っぱい、そのくせ甘ったるい」
「何だとコラァ!表出ろコノヤロー!」
当麻が目を剥いて怒って立ち上がり、瀬文のところまで来る。そしてニコッと笑ったかと思うと、瀬文の顔を煮込みうどんに押しつけた。
「アチぃーだろ、コノヤロウ!ブス!」
瀬文が飛び跳ねる。その勢いで汁が当麻に当たる。
「熱いだろ、コノヤロー、せっかく、作ってやったんだから、食えよお前!」
「こんなの食えるか、この味オンチが!」
瀬文が当麻に跳びかかり、首もとに肘鉄を乱れ撃つ。

朝。野々村係長が出勤してくる。当麻と瀬文は徹夜だった。
「おはヨークシャーテリアなんつって、二人とも頑張ってるね」
瀬文は何も答えず、腕時計を見ている。
「おはようサンテレビ」
当麻がダジャレで返す。
「もうそんな時間かぁ」
当麻はキャリーバッグからおもむろに蜂蜜のボトルを取り出すと、立ち上がって一気飲みした。
その光景に戦く野々村係長。
「糖尿病なら即死だね」
瀬文が腕時計を見ながら、呟く。
「そろそろ梨花ちゃんのオペの時間だな。大丈夫かな」
「大丈夫だよ、執刀医は警察病院の海野先生らしいから」
と野々村係長が言う(どこでその情報を仕入れたのか?)。
「海野先生?」
瀬文が不安気に野々村係長を見る。
当麻は海野と聞き、メモ用紙にUNNOの文字を同じ場所に書くと、「Ø」になった。
「ふっ、なんつって」
当麻が笑う。
「なんで海野先生なんですか?」
瀬文が野々村係長に尋ねる。
「あの人は日本で何本かの指に入る心臓外科医なんだよ」
野々村係長が電気ポットに水を入れながら答える。
「特に小児科の分野では世界トップクラスの有名な医者なんだよ」
「えッ、凄い。瀬文さん、大丈夫っすよ」
当麻がパソコンの画面を食い入るように見ている。
「ジェニファー氏病の子供での症例が日本で7例。全部海野先生なんだぁ」
当麻が感心する。
「子供での症例は日本でしかなく、海野先生の論文と術式は世界のスタンダードになってるぐらいなんですって」
「そうか」
瀬文が胸をなで下ろす。
「よかったっすね」
「ああ」
「信じて待てばダイジョウブイだ」
野々村係長がVサインを出す。
「他にも…」
当麻が意気揚々と海野の功績を読み上げる。
「子供にしか罹らないとされているソンガンホ病の成人症例(どんな韓国男優の病気だ!)、キーマ症例の子供での症例は日本だけなんですが……」
当麻の顔が突然曇る。
「すべて海野先生の論文と……」
「どうした?」
瀬文が尋ねる。
「海野先生の症例。全部、珍しいんすよね」
当麻が眉をしかめ、検索を始める。
「それだけ優秀ってことだよ」
野々村係長が言う。
「だったらいいんですけどね……」
当麻が検索結果を待つ。
当麻が調べたところ、ジェニファー氏病とキーマ病は大人にしか罹らないといわれていて、その逆にソンガンホ病じゃ子供の病気とされている。そしてこの3つの病気の例外のすべてが日本でのみ、発症していて、すべて海野医師の患者だった。
当麻がメモに目を落とす。そこには戯れに書いた「Ø」の文字。

当麻が慌てて宮崎の資料のプリントアウトを見返し、瀬文に尋ねる。
「この宮崎の資料、誰に貰いました?」
「海野先生だ」
当麻が急いでパソコンに戻ってキーを叩く。
「四谷の大昭病院には、坂本将俊という事務長は実在しません」
「え?」
瀬文が当麻のパソコンを覗き込む。
「海野先生の同級生に織田剛という医者はいません」
当麻が瀬文に海野から貰ったプリントアウトを見せる。
「全部が全部、海野先生が仕掛けたトラップです」
「何のために?」
「病を処方する医者が、宮崎洋介だと瀬文さんに思わせるために」
瀬文がプリントアウトを当麻から取って、今一度読み返す。
「どういうことだ?全部が海野が仕組んだダミーってことか?」
「はい」
と当麻が頷く。
「病を処方する医者は海野先生だったんです。梨花ちゃんが危ない」
その時すでに梨花は麻酔で寝かされ、すでに手術室に向かっていた。
「海野はオペマニアですよ」
当麻が言う。
「難病を次々と処方しては、実験的オペを繰り返す究極のマッドサイエンティストです」
瀬文はいつもの紙袋と当麻のキャリーバッグを掴むと走り出した。
「小百合さんに電話して、ただちに海野の手術をやめさせろッ!」
キャリーバッグを肩に担ぐ瀬文が当麻に指示する。
「わかってますよ」
当麻が小百合の携帯に連絡する。
瀬文がタクシーを捕まえる。
小百合と連絡が取れた。当麻が小百合に忠告する。
「もしもし小百合さんですか。海野には近づかないでください」
だが小百合の前に看護婦が来て、電話を辞めるようにジェスチャーしたため、小百合は看護婦に集中していて、当麻の忠告を聞き取れなかった。
「今病院の中なので後でお願いします」
小百合は電話を切った。
「クッソ!後でじゃおせーんだよ。ボケ!」
当麻がタクシーに左後部座席に乗る。
「どけ!」
瀬文がキャリーバッグで当麻を右に押しやり、自分が座る席を確保する。

警察病院の更衣室。オペの準備が出来たと看護婦が海野に伝えにくる。手術服に着替えた海野がオペ室に向かおうとしたとき、美鈴が現れた。
「なぜ君がここに?」
海野が訊いた。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だよ」
そう言って美鈴の脇を抜けようとする海野を、美鈴が止める。
「もうこれ以上、人殺しはやめてください」
美鈴が海野に訴える。
「はあ?」
海野が何を馬鹿なという笑いを浮かべる。
美鈴は真剣な眼差しで海野を見つめる。
「私、本当は先生が病を治してくれる超能力者じゃないかって思ってました。神の手を持つ医者は先生のことかと」
「何言ってるんだい。僕はただの医者だよ」
「違います。本当は病を処方する医者ですよね?」
そう言って海野を見る美鈴の目には侮蔑の念がこもっている。
「誰がそんなことを?」
「里中さんです。里中さんの遺品に、そのときのヴィジョンが残ってた。先生は私の兄の事件にもかかわってるんじゃないですか?だから先生は私に兄のヴィジョンのことについて、何度も聞いたんじゃないですか?」
海野の顔から笑顔が消えた。
海野は美鈴を羽交い絞めにすると、ロッカーに美鈴を押しつけた。
「騒ぐと死ぬよ」
怯える美鈴の耳元で海野が囁く。
「病を処方するのはね、簡単なんだ。まず全体をスキャンして弱っている部分を探す。それから額を当てて適切な病を……」
海野が前髪をかき上げ、自分の額を美鈴の額に近づけていく。それは夜間外来で来た里中梨花にしたのと同じだった。
突然、更衣室のドアが開き、息を切らせて当麻と一緒に入ってきた瀬文が海野に銃を向ける。
「手を離せ!じゃないと撃つ」
「おやおや、穏やかならないな」
美鈴が海野から離れて瀬文の後ろに隠れる。
当麻が海野に訊く。
「5人の刑事を殺し、梨花ちゃんにジェニファー氏病を処方したのはあなたですね?」
「何か証拠でもあるんですか?あったら教えて~」
海野がせせら笑う。
「やらしいな」
当麻が吐き捨てる。
「この国は法治国家だからね。まあ、凡人を取り締まるだけの時代遅れの法。法廷で裁判官が納得するだけの立派な証拠がなければ、あんたたちは何もできない。そうでしょ?」
海野はソファに腰掛けて、嘲るように当麻たちを見る。
瀬文が海野に銃口を向けたまま海野に詰め寄る。
「現行犯でっちあげて、この場で射殺してやるよ」
「堺雅人のジョーカーか?」
当麻がつかさずツッコむ。
「みんな忘れてるよ!」
(私は覚えてます。堺雅人の同僚の刑事を殺した犯人は鹿賀丈史じゃなくて大杉漣でした)
「俺はテレビは見ねえ!」
と瀬文。
そこに看護婦が飛び込んでくる。
咄嗟に瀬文が銃を下ろし、直立不動の姿勢ととる。
「先生、何をしてるんですか!急いでください。容態が急変してます」
海野が傲慢な眼差しで瀬文に問いかける。
「どうします?僕なら助けられるけど?」
瀬文は顔を紅潮させながら、しばし直立不動で海野を見下ろしていたが、
「行け!」
瀬文が顎で海野にドアを指した。
海野が立ち上がって瀬文に顔を近づける。
「命令するんだ。土下座してお願いされてもいいくらいなんだけどなぁ」
瀬文が海野を睨む。
「あの子に、もしものことがあったら、てめえの命はないからな」
「あの子には何の罪もない。必ず助けますよ。医者としてのプライドと良心を賭けて」
海野が真剣な眼差しで瀬文に言うと、更衣室を出て行った。

手術室の前。瀬文、当麻、美鈴が長椅子に腰掛けている。瀬文はずっと手術室のドアを見つめている。当麻が美鈴に自分たちが更衣室に行く前に、何を海野と話していたかと訊いた。
「別に」
「何か知ってることがあれば教えてください」
当麻が言う。美鈴のコートのポケットから着信音がする。
「携帯!」
当麻が美鈴に携帯の電源が入っているのを注意する。
「病院内でOKのPHSです」
何だとコノヤロウという顔をする当麻。
美鈴がPHSに出る。
看護婦が1人、手術室のドアから出てくる。
瀬文が立ち上がって手術の結果を尋ねた。
看護婦が困った顔をする。
「私のほうからは……ドクターに聞いてください」
「海野先生は?」
当麻が看護婦に訊く。
「最後の縫合を任せて、先に出られましたけど」
手術室には別の出口もあったのだ。
「やられた……」
瀬文が顔を真っ赤にして出口に向かおうとすると、美鈴が瀬文を呼び止めて、PHSを差し出す。
「海野先生からです」
瀬文がPHSに出る。
「貴様、逃げやがったな」
「逃げてませんよ。悪いことはしてませんもん」
海野はレストランのカウンター席に座っていた。ステーキに添えてあった焼けたピクルスを海野がフォークで刺して口に運ぶ。

海野の携帯の番号がPHSに表示されている。瀬文が背広の内ポケットから携帯を出す。
「あっ携帯は」
当麻が瀬文に注意する。
「海野の携帯の発信元を照会する」
「病院は携帯NGダーメ、ダーメ」
と当麻が大声で言う。
瀬文は携帯を内ポケットにしまうと、左手に持っている紙袋にボールペンで海野の携帯番号を書き写してPHSを美鈴に返すと、当麻を一瞬睨んで外へ急ぎ、携帯の発信元を捜してくれと携帯に怒鳴った。
当麻が美鈴のPHSを借りる。
「海野さん、お伺いしたいことがあります」
「なんですか?」
海野がステーキを切っている。その右後のテーブル席では、老夫婦が食事をしている。当麻たちが里中の本を探すために行った図書館で二人を監視していたのと同じ老夫婦だった。
「海野さんは命を救うのがお仕事ですよね。なのになぜ、病を処方するんですか?病を処方し、手当もせず見殺しにして楽しんでいる。医者として最低だよ!」
「病を処方するのは我々の生命を守るためだ。いわば正当防衛ですよ」
海野が穏やかに諭す。
「え?」
「治安って言葉、ご存知ですか?より多数の国民の安全を守るために、利益に相反する存在を取り締まり、ときには刑に処す。一見聞こえはいいが、要は体制による暴力支配だ」
合点がいかない当麻。
「我々はマイノリティーだ」
海野が話を続ける。
「体制による暴力には能力で対抗する。さもないと我々の妻や、子供たちさえも狙われる。殺される」
「そんな馬鹿なこと……あるわけない」
当麻が呟いた。
「真実にたどりつけなくて、何が刑事だ。君こそ刑事として最低だ」
当麻は何も言い返せない。
海野が右手に握ったステーキナイフをしみじみと見る。
「僕だって医者を続けたかった。医者はいい。人の生命を救える。当麻さん、僕だって、生命を救うSPECが欲しかったですよ。ただ才能ってのは、自分が望むものと一致しない」
海野が最後に言った。
「神は残酷だ」
レストランのドアが開く音がする。
黒服の男が海野の後ろを取り囲む。
海野はしずかに背広の内ポケットから扇子を出して開く。
「僕はただでは殺されないぞ。君たちを最も苦しい病に取り込んでやる」
海野の携帯が切れた。
「もしもし!」
当麻が声を荒げる。
返答はない。
当麻がリダイヤルする。
電波の届かないところにおられるか、電源が入っていないためかかりませんというアナウンスが聞こえ、当麻はPHSを下ろした。
手術室のドアが開き、ストレッチャーに乗せられた梨花が出てくる。
手術待合室から小百合が出てきて、麻酔でまだ寝ている梨花の顔を心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですよ」
看護婦が小百合に言う。
「ありがとうございました。ありがとうございました」
小百合が看護婦に泣きながら何度も深々と頭をさげる。
小百合が当麻のところに駆け寄ってくる。
「梨花、助かりました。おかげさまで……ありがとうございます」
「よかったです」
当麻が笑う。ストレッチャーに乗せられた梨花が小百合とともに病室に戻っていく。当麻は二人を見送ると、ありがとうと言って。美鈴にPHSを返した。
美鈴が当麻に疑いの眼差しを向ける。
「あなたも本当は向こう側の人間なんでしょう?」
怪訝な顔をする当麻に美鈴が不敵な笑顔を見せる。
「嘘をついても無駄よ。わたしにはなんでもわかるの。触ればね」
美鈴が当麻に触ろうと左手を出すが、当麻に避けられた。今度はしっかり当麻の右肩をに掴みかかった。美鈴の左手が当麻の右肩を捉えた瞬間、美鈴にヴィジョンが流れ込む。

SPEC庚(KOU)ヘ。

今回のエンディングは日本語です。

前半の当麻と野々村係長の会話:
「生きている間は本人が家族に嘘。死んだら国家ぐるみで嘘。一人の人間の一生をこんだけメチャクチャにして、守るべきものって何なんですかね?」
「それが分からないようなら、刑事はやめたほうがいいな。この街の灯り一つに一つの家族があり、一つの幸せがある。それを私ら刑事は命がけで守っている。命をかける価値がある。古いって言われるかもしれんがね、私はそう思っている」

と後半最後の海野の話
「治安って言葉、ご存知ですか?より多数の国民の安全を守るために、利益に相反する存在を取り締まり、ときには刑に処す。一見聞こえはいいが、要は体制による暴力支配だ。我々はマイノリティーだ。体制による暴力には能力で対抗する。さもないと我々の妻や、子供たちさえも狙われる。殺される」

ともに真逆の話ですが、「逆もまた真なり」で面白いです。

海野の:
「僕だって医者を続けたかった。医者はいい。人の生命を救える。当麻さん、僕だって、生命を救うSPECが欲しかったですよ。ただ才能ってのは、自分が望むものと一致しない。神は残酷だ」
これも悲哀がにじみ出ていていいですね。

余談:「BEAUTY」は好きなアルバムですが、大学の時に秋元康に似た人に聞かせたら「ふざけてるのか」と言われました。顔の趣味は関係あるのかも。

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