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« 19世紀風のイケメン侍を現代風に | トップページ | マチェーテを見ました ★★☆☆☆ »

2010/11/14

SPEC 戊(BO)の回 堕天刑事

いいです。今までは前振りですかといわんばかりの展開。ボケ役を演じていたゴリさん野々村課長が何らやかっこよかった。当麻は左手を失ってたんですね。見方が変わりました。

襲われて気絶していた瀬文と当麻が起き上がる。 当麻が片手でミネラルウォーターのペットボトルのキャップを外して水をラッパ飲みする。何か知ってるんじゃないかと瀬文に問われ、当麻は何も知らないと答え、こう付け加えた。
「私たち、気を付けないと消されるかもしれませんなぁ」
瀬文は苦笑した。

海野の診療室に、左手に包帯を巻いた一十一(ニノマエジュウイチ)が入ってくる。海野が里中梨花の診断書を記入しながらニノマエに、どうされましたかと訊く。手が火傷をしてとニノマエがその診断書を見ながら答えると、左手の包帯を取って海野に見せた。ほんとだと海野がニノマエの火傷を見た瞬間、ニノマエは時間を止めて、里中梨花の診断書を見る。
「四谷か……刑事のくせにいいとこ住んでんじゃん」
と診断書から住所を書き写し、時間停止を解除する。

次の瞬間、海野の前からニノマエは消えていた。

工事現場でフォークリフトで鉄骨を持ち上げていた操作員・谷山理(26)が突然、胸に痛みを覚えて操作を誤り、それで落ちてきた鉄骨に潰されて死んだ。

その記事を里中貢(さとなかみつぐ)が新聞で目にし、嫌なものでも見たかのようにゴミ箱に投げ捨てた。

焼き鳥屋の壁際に瀬文が直立不動で立っている。
「いつまでそこに立ってるの、迷惑なんだよ」
と焼き鳥を焼いている店主に言われたとき、里中貢が入ってくる。
「里中先輩!」
と瀬文が声をかける。
久しぶりと里中。
ごぶさた、しておりますと瀬文が最敬礼する。
「おまえずっと立って待ってたのか? こっちはやめた人間なんだから、そう堅苦しいことすんなって」
「はっ!」
と二人は座った。
瀬文と里中はおちょこを持つと
「命、捨てます」
を乾杯の音頭にして飲み始めた。
「懐かしいなあ、これ」
里中が笑う。瀬文は表情を変えずに一気に飲み干すと、お元気そうでなによりですと言った。元気だよと里中が返し、俺の元気の素、五歳になる愛娘・梨花の写真を見せた。
「結婚はいいぞ。お前も早いとこ刑事なんてやめて、家庭を持て」
里中が瀬文のおちょこに酒を注ぐ。
「変われば変わるもんですねえ。まさかのSIT随一の鬼軍曹が退官したからといって、そんなことを言い出すなんて」
「女房と出会って俺の人生は変わったよ。仕事ために命をかけるより、家族のために命をかけたくなった。今は南アフリカから宝石を輸入する会社に勤めている」
里中は瀬文に会社の名刺を渡した。

株式会社東風国際貿易 
貿易部 部長
里中貢

となっていた。
部長なら安泰ですねと言う瀬文を、いやいやと里中は否定する。捜査で命をなくすことはなくなったが、今度は海外出張ばっかりだと愚痴り、元SITが強盗にでもあったら洒落にならないからなと笑った。
「南アしよっとか、でありますね。南アフリカだけに」
と瀬文がドヤ顔で渾身のダジャレを言う。
「一皮むけたな、コノヤロウ」
里中が瀬文の坊主頭を撫でる。

シメの親子丼を頼んでおくかと里中が言うので、瀬文が店主に親子丼を2つ頼む。だが今、終わっちゃたよと店主。
「一人で11人前食べちゃったお客さんがいてさあ」
とその客の指差す。瀬文が振り返る。
食べていたのは案の定、当麻だった。
「うまいのか?」
瀬文が冷徹な口調で尋ねる。
「うまいっす」
と当麻が口に親子丼をほうばったまま答えると、当麻の首筋に瀬文の肘鉄が命中する。
当麻が顔を上げ、声の主が瀬文だとわかり、ここで何やってるんですかと驚く。
「親子丼、何杯食えば気が済むんだ?」
当麻がキレる。
「だからってなんすか? たくさん食べたら悪いんすか? 犯罪ですか? 何罪ですか? 高タンパク高カロリー取締罪ですか? そんなのカラスの勝手でしょ」
瀬文の無言の裏拳が当麻の顔面にヒットする。
里中が飛んできて、誰だこの子と瀬文に訊く。
瀬文が里中を塞ぐように当麻の前に立ちはだかり、知りませんとシラを切る。

結局、里中と当麻は意気投合したようで
「当麻ちゃん、またね~」
「お疲れサマンサです~」
里中と瀬文は当麻と焼き鳥屋の前で別れた。

「あの子、お似合いじゃないか」
里中が笑う。
「だとしたら、撃ち殺してください」
里中が交差点の前で立ち止まる。
「本気でさ、お前も考えてみろよ、普通の人生。普通の家庭の幸せってやつをさ」
瀬文の脳裏に、自分の目の前で銃弾に倒れ、今の意識が戻らない志村優作のことがよぎる。
「自分にはどうしても決着をつけたい事件が……」
「それの決着がつくまではやめられないか」
瀬文は黙って頷いた。
もう見舞いとか行くなと里中が言う。どうしてですかと瀬文が訊く。
「過去は過去、前を向いて生きていかねえと、お前の人生がヤベエからさ」
里中が瀬文の肩を掴んで笑いかけると、お疲れサマンサと言って瀬文と別れた。

病院。海野が点滴のパウチから何かを飲んでいる。そこに海野に呼ばれた美鈴がやってくる。用向きは兄・志村優作のことだった。事故からまもなく2か月、優作は脳死状態のままで、回復は難しいと海野は告げた。生命維持装置の取り外しを考えなけばならないかもしれないということだ。
「もう一度兄と話がしたいんです」
美鈴は海野に懇願した。
事件の日の朝、美玲は美大受験予備校を辞めるかどうかで兄の優作と大げんかして別れたままなのだった。
「一言でいい謝りたいんです。それだけなんです」

朝、ミショウに野々村係長がエレベーターで上がってくると、カツやらイカリングやウィンナーカレーの臭いが室内に充満している。朝からそんなモノを食べるなんて我々の世代では考えもしなかったけどねとため息をつく。当麻はそんな野々村係長の話を無視して、カレーにマヨネーズやふりかけを大量に投入し、バカうまと悦に浸る。
「天才は奇人と言うのは本当だねえ」
野々村係長が呆れる。
「ただの味音痴です。舌バカ」と瀬文。
「舌バカ上等。係長、雅ちゃん来ますよ」
と当麻が言うと、本当に雅がエレベーターで公安の人間を連れて上がってきた。野々村係長が慌てて指輪を外しにかかる。
(野々村係長の後ろにあるテレビ、2011年7月24日より視聴可ってアナログチューナー入ってないのか!)
雅ちゃんが野々村係長に昨日、プロポーズされたと教えると野々村係長はびっくりして誰にと尋ねるが、雅ちゃんは答えない。

ミショウにやってきたのは、警視庁公安部・公安第五課(ミショウの上位部局)秋元才三課長代理だった。野々村係長が敬礼で迎える。秋元は5人の第五課刑事の司法解剖鑑定書を机に置き、この1月の間に、公安の刑事が5人、次々と亡くなっていると
言った。
「殺されたってことですか?」
瀬文が訊いた。
「解剖の結果、死因はあくまで病死ということだ」
それぞれの司法解剖鑑定書には当人の写真が添付されていた。
「昨日の新聞に……公安の刑事でしたか」
と野々村係長。
里中も見たクレーン事故で死んだ谷山理だった。
5人とも極めて優秀な捜査官だったと秋元が答えた。
瀬文は司法解剖鑑定書に最敬礼した。
5人の死因はそれぞれ違い、しかも司法解剖鑑定書に偽造の疑いはなかった。
「ではやはり、たまたまということかもしれませんねえ。誠にお気の毒ではありますが」
野々村係長はこっそり腰のあたりに右手でグーを雅ちゃんに向けて作る。
雅ちゃんも左手でグーを作って応える。
だが秋元は偶然とは思っていない。
「たまたまであればいいが、これほどの短期間に5人だ。計画的な犯行だとすれば、公安への挑戦ともとれる」
カレーを食べていた当麻が司法解剖鑑定書にちらっと見る。
どういうことかと瀬文が秋元に尋ねる。
「病死に見せかけて、公安の刑事を次々と狙った殺人ですか?」
当麻はそう言うと、そんな馬鹿なと鼻で笑う。
「貴様!」
秋元が当麻に怒鳴る。
「お茶」
「あ、お茶。はいはい」
当麻が席を立って、お茶を注ぐ。
「まあこのバイトが馬鹿にしているように、我々もただの偶然だとは考えているが、念のため捜査してもらいたい」
「私、バイトじゃないっす。刑事です。公安のデカです」
当麻が抗議する。
「貴様が?」
「五人の潜入の目的と、潜入先は?」
と当麻が訊く。
野々村係長が余計なことをいう目で当麻を見る。
「捜査の内容に関しては一切機密だ。五人の病死についてのみ真相を究明してもらいたい」
「御意」
野々村係長が頭を下げた。

瀬文と当麻が検視官に話を聞いた。検視官はメロンを半分に割った金持ち食いをしている。字が汚くて読めないと当麻が文句を言う。
「不審な点なんてなかったよ」
検視官がメロンから顔を上げて、当麻を見る。
「俺たちも何かなにか必死に探したんだけどね」
検視官はまたメロンの採掘を再開した。
健康診断でも何も問題なかったんですよねと当麻が尋ねる。当麻は自分で言った「健康診断」に引っ掛かりを覚える。
「幸か不幸か他殺じゃないね。どう見ても自然だ」
お手間かけましたと瀬文が席を立つと、検視官は2人の前に出されたメロンを食べていいかと訊いてきた。
どうぞと瀬文が言うと当時に、嫌だと当麻がかぶせてきた。

野々村係長に捜査の進展を訊かれ、瀬文は不自然な点はなく、ただの偶然だと結論づけた。そうかご苦労さまと野々村係長が喜び、報告書にまとめてと言おうとしたろころ、当麻が疑問を呈した。
「ただの偶然にしては不思議な点が1つあります」
「なんだ?」
瀬文がいちゃもんをつけた当麻を睨む。
「健康診断をみんながみんな受けてるってことですよ」
「それがなんで不思議なの?僕もほら、ちゃんと受けたよ」
野々村係長が診断書を当麻に見せた。
「うわ、凄い。すでにだいぶ死んでますね」
「当麻、ホントのこと言うな」
瀬文が真顔で諌める。
ため息をつく野々村係長。
当麻がしらっと「ハムの切り方」という手帳を取り出す。(ハム=公(安)ね)それは公安の潜入捜査マニュアルだった。そんなトップシークレットのものをどこで手に入れたと野々村係長が慌てるが、当麻は無視してその手帳の一文を読み上げる。
「潜入捜査官は命令ある場合は暗号にて指示する。それ以外は潜入先のルーティーンに準じること」
「だからなんだ。要点だけを言え」
瀬文が苛立つ。
当麻は自分の推理を話す。
「この5人は別々の会社、職業に就いてます。健康診断の時期は各職場によって異なりますよね。ところがこの5人はこの1か月に全員が健康診断を受けている。つまり公安の暗号を知っている誰かが暗号を使用し、健康診断を受けさせ、何らかの罠をしかけた」
(暗号だと最初の3人は飛行船やトイレの張り紙で暗号だと気づいて、3人目で電光掲示板のアンコウっていうダジャレ攻撃も挟みつつ。潜入捜査官が訪れた健康診断車両のレントゲン検査の受付には、白い口ひげをたくわえた白衣の老人が座っている。)
「その罠は何なんだ?」
「分かりません。まったくの手詰まりです」
当麻はため息をついた。

そこに秋元課長代理が部下を数人連れて乗り込んでくる。
何すかおっさん、二度目?と当麻が言うのを無視して瀬文に訊いた。
「瀬文君、公安の超高度機密データベースにハッキングしたろ?」
瀬文が眉をひそめる。
「何すか、高度何とかデータベースって?」
「午前3時10分(ヒトマル)、貴様のIDでアクセスしてるだろ!」
今度は秋元の部下、峯岸が怒鳴った。
「知りません。自分はそんな技術もありませんし」
「そうですよ」
当麻が髪をいじりながら同調する。
「瀬文さんは肉体馬鹿で、そんな知能犯みたいなことはできません」
「とにかく来い」
峯岸が瀬文の脇を掴んで連れていこうとする。
「無駄なことはやめた方がいいですよ」
当麻が声を荒げる。
「無駄だと、貴様!」
「瀬文さんにハッキングの知識はありません。ということは瀬文さんのIDカードが誰かにコピーされたと考えた方がいい」
当麻はそう言い始めて歩き出し、当麻が峯岸に詰め寄った。
「その犯人は公安部の超高度機密データベースに侵入し、今、この瞬間にも、そのデータを使って何か犯罪を実行しようとしているはずです。ていうことは、その犯人を追った方がよくないですか」
「貴様の命令は受けない」
秋元が一蹴する。
「ちなみに、なんのデータが盗まれたんですか?」
と当麻に聞かれた秋元は咳払いして当麻から顔を背ける。
「機密に係わることは貴様らには教えられん」
(壁のポスター今回は「指名手配、恋愛バンパイア」=トワイライト・サーガをやってましたか)

「つまり私たちのこと信用できないってことですか?」
「貴様の不注意で」
秋元が瀬文を睨む。
「貴様のIDカードがコピーされ、我々の機密が盗まれた。これは事実だ!誰にコピーされたか心当たりはあるか」
「心当たりはありません」
瀬文が秋元を見る。
「貴様、嘘をつくとためにならんぞ」
峯岸が瀬文を脅す。
「感じ悪ッ!感じ悪ッ!感じ悪ッ!戦前か!特高か!」
当麻が秋元や峯岸にわめき立てる。
「うるせええ!貴様、八丈島勤務にしてやろうか」
峯岸が恫喝する。
当麻が一転、破顔一笑する。 
「エッ マジ? 行きたい、アシタバ大好き~ トビウオ食べたい」
はしゃぎ回る当麻に峯岸が切れて、拳銃を向ける。
瀬文が当麻を守ろうとするが、他の公安刑事に押さえ込まれる。
野々村係長がすうっと峯岸の前に現れて、峯岸の拳銃を握った腕を掴むと、当麻に向けられていた拳銃の銃口を自分の額に押し当てる。
「若造。そのへんにしておけ」
(渋いっす野々村係長!)
「この事件はミショウでケリをつける。貴様ら、とっとと出て行け!」
「ひとまず、お手並み拝見といきましょうか」
秋元とその部下は引き下がり、エレベーターで降りていった。

野々村係長が穏やかな口調で尋ねた。
「瀬文君、君のIDコピーをコピーした相手に心当たりはあるんだろ?」
瀬文は「命、捨てます」を乾杯の音頭にして酒を酌み交わした里中貢のことを思い出していた。
「詳しくは聞かんが、刑事に私情は禁物だ。そのことだけは忘れんでくれ」
捜査に行ってきますと言ってエレベーターに乗ろうとする瀬文を野々村係長は呼び止め、紙袋に拳銃(オートマチックとリボルバーの2丁)と予備弾を詰めて差し出して言った。
「頼む」
瀬文はその紙袋を受け取ってエレベーターに乗った。
「わたしも」
当麻がキャリーバッグを引いて瀬文の後を追う。
野々村係長が当麻を呼び止める。
「瀬文君のこと、頼むよ」
当麻は頷いて、エレベーターに乗ろうとするが、エレベーターはすでに降りていた。
「下ろしたら、上げろよ、瀬文のヤロウ!」
当麻はそのまま落ちた。

野々村係長が「公安部 公安第五課 未詳事件特別対策部」の看板を見上げる。
「老人たちがずっと閉ざし続けたパンドラの箱をついに開けるか、開けてしまうのかあ!」
「あ~ん」
いつものカフェで雅ちゃんにパフェを無理やり食べさせられる野々村係長。いつ結婚するの私たちと尋問される。僕は糖尿がと断ろうとするが、雅ちゃんは知ってるよ~と食べさせるのやめず、
「子供も大きくなってるんだよね~」
と笑い、クリームパフェ大盛りを2つ追加する。
やめてと泣いて懇願する野々村係長。

夜のCBC。厨房には店主がおらず、例のスペイン女・アラータが若い店員に保険入るかと勧めている。餃子を黙々と食べる瀬文の前には当麻が座り、瀬文をじっと見ている。
「瀬文さんがかばっている人って、先輩の里中さんですよね」
「違う」
「焼き鳥屋で瀬文さんがトイレに立ったときに、里中さんが瀬文さんのIDカードをコピーした。そしてそれを利用して公安の超高度機密データベースに侵入した」
「違う!」
「その目的って何なんすかね~」
「知らん」
「瀬文さんに嘘ついてまでって、よっぽどの事情を抱えてるんじゃないですか。だとしたら、すごい苦しいはず」
瀬文は何も答えない。
「先輩を救ってあげないとです」
瀬文が当麻を見て、注文する
「茹で5! 焼き5! ニンニクマックス!」
「あいよ!」
包帯ぐるぐる巻きの店主がロボコップみたいな動きで玄関から入ってくる。
「生きてたの!?」
驚くアラータ。
(保険金て、そういうことなのね。雅ちゃんもそうなのか?)
「わしは神の子だで」
店主が厨房に入ってきて、若い従業員にお前も一緒に働けと命じる。

照明のついていない暗い部屋、ノートパソコンで里中貢が通信している。
「ギャラは10万米ドル、もちろんキャッシュで払う」
と中国語で伝える。
「公安に奪われた民間人を一人奪還するだけのミッションだ」

里中貢のマンションを瀬文と当麻が訪れる。
貢はおらず、妻の小百合が出てきた。
瀬文はついで先日、先輩である貢とひさびさに飲んで、たまたま近くに来たので娘の顔を見に来たと装った。
「にんにく臭くないですか? ミカンどうぞ」
当麻が小百合にミカンを勧める。
「折角来ていただいたのにすみません。昨日から出張で」
小百合が謝る。
「南アフリカの方ですか?」
瀬文が尋ねる。
「ええ、キンバリーに」
キンバリーと聞いてテンションが上がる当麻。
それを相手にせず、ダイヤが採れる町ですねと瀬文が訊くと、小百合がそうだと頷いた。
「因みに、いつもの違う様子か何かありましたか?」
「何か主人が問題でも?」
「いえ……」
「キンバリー……」
またテンションが上がったまま当麻。

寝ている娘の梨花が小百合を呼ぶ。
小百合は席を離れて、顔の汗をタオルで拭う。
瀬文と当麻も様子を見に来る。
「めっちゃ子供欲しいっすね」
当麻が興奮気味に小鼻を広げ、梨花の顔をガン見する。
将来が楽しみですねと瀬文が言うと、小百合は梨花の枕元で突然、泣き出した。
「すいません、何か失礼なことを」
瀬文が慌てて謝る。
「この子、あとどれだけ生きられるか。ジェニファー氏病(架空ぽいです)なんです。心臓に脂が溜まって硬い石になって詰まってしまう病気なんです」
「それはいつ頃分かったんですか?」
当麻が訊く。
「つい最近なんです。1か月前、お医者さんに検査してもらったときには、何の問題もなかったのに……どうしてこんな急に……」
小百合は泣き崩れた。
「やだ私ったら……私がしっかりしなくちゃ。パパお仕事なんだから」

夜の高架下の歩道を黙って歩く瀬文を当麻が呼び止める。
「幸福なんて、砂の城より儚くて、脆いですよ。瀬文さんだって一瞬にして人生メチャクチャになったでしょ。」
「……お前はどうなんだ?」
当麻は地居聖からプロポーズされ、地居からもらった婚約指輪をはめたことを思い出す。次の瞬間、その甘い思い出は炎を前に倒れた自分のイメージにかき消される。当麻はニノマエを追い詰め、自分の左手と、倒れているニノマエの右手に手錠をかけた。ニノマエが不気味な笑みを浮かべて当麻を見る。次の瞬間、当麻の後ろで(ニノマエの仕掛けた?)大爆発が起る。当麻は気を失った。当麻が目覚めるとニノマエは消えており、目の前に婚約指輪をはめた左手がちぎれて落ちていた。
「失ってしまったものに思いを馳せても仕方ないです。私たち刑事が守るべきは他人の幸せです。今回は多分、里中さんの家族の幸せです」
「それは、俺が守る。当麻」
「はい」
「何か少しでもいい方法があったら、なんでもいいからあったら教えてくれ。頼む、この通りだ」
瀬文が当麻に頭を下げた。
「私情は禁物です。でも……はい」
当麻が頷いた。

ミショウで当麻は野々村係長のIDを使って公安のデータベースでハッキングして意外なことことが分かった。里中貢が警察を辞めたというのは嘘で実は、死んだ5人の潜入捜査官と同じミッションに従事していたのだった。なんのミッションまでかはわからないが、石油、穀物、レアメタルを牛耳る、歴史をも動かしてきた財閥に係わる捜査であった。あと里中貢は個人的に冷泉俊明についても調査していた。

里中が瀬文のIDを使って公安の超高度機密データベースにアクセスしていたことを考えると、里中はつまり二重スパイを働いていたことになる。だか目的はなんだろうかと野々村係長が考えを巡らせる。金か?もしかして誰かを人質を取られていたりして……

「人質! まさか……」
野々村係長の言葉を訊いた当麻の頭に突拍子も無い考えが浮かび、それが正しいかどうか確認するため、当麻は瀬文とともに里中の妻・小百合に会いに行った。
「ええ、確かに娘が検査を受けたのは1か月前です。それが何か?」
「どこで検査を?」
当麻が尋ねる。
「警察病院です。夜間診療で受け付けてくれたのが、そこだけだったもので」
「どんな先生だか覚えてますか?名前とか」
「先生は普通の人でした。ただ検査の人が白い口ひげをたくわえたお年寄りの方で、夜勤なのにと思ったんです」
「白い口ひげの老人……」
当麻が考えを巡らせる。
「それがどうした?」
瀬文が訊く。
「そのことについてご主人と話されました?」
当麻が小百合に尋ねる。
「そういえば……主人の方から突然、私に尋ねてきたんです。それからしばらく梨花のそばを離れなくて……3日後、梨花の具合が急に悪くなったんです」
当麻がソファに倒れこむ。

マンションのエレベータの前に立つ瀬文が当麻に言う。
「あれ、やっとけ」

ミショウで硯で墨を磨る当麻の手は重い。
「やだな今回……」
当麻は半紙に、暗号、公安、ジェニファー氏病、梨花などと書き、ちぎってバラマキ犯人を「いただく」と、ミショウの部屋を見渡した。
「ここも危ないか」

同じ頃、瀬文は中国人から傭兵仕事の情報を探っていた。そして中国の料理人と思しき男から、キャッシュ10万ドルで警察の証人保護施設から証人を拉致するミッションがあるという情報を手に入れた。最初、瀬文は男に2万円を壁越しに渡すが、男が突き返してきた。そこで今度は人民元を渡すと男は受け取って去っていった。(これからの世界における円のポジションを予感させるような)瀬文の携帯が鳴った。

若人で賑わう居酒屋にて、当麻、そして当麻に呼び出された瀬文と野々村係長が鶏鍋を囲んでいる(恐らく公安の盗聴防止かと)。
「これはあくまでも仮説です」
当麻が喋りだした。
「5人の捜査官を病死、しかも急死に至らしめ、梨花ちゃんを難病にした犯人は、病を処方するというSPECがあるんじゃないかと思うんです」
耳を疑う瀬文と野々村係長。
当麻は話を続ける。
「動物にはそもそも自然治癒力が備わっています。その昔には人間にもそういうSPECが備わっていたんじゃないかと思います」
「私が子供の頃は手当と言ってね、おふくろに手を当ててもらうだけで鼻血、腹痛、糞詰まりぐらいはホントに治ったもんだよ」
という野々村係長の話を無視して、当麻は瀬文に話をする。
「病を治すSPECというのは、人間の細胞を正常に戻す能力だと思うんです。もしそれが本当にあるなら、その逆もあるかもしれない」
「そんなこと聞いたことねえ」
瀬文は納得できない。
「しかし、もしそういうことができる人もいると考えれば、すべての辻褄が合うんです」
「どう合うの? あちッ」
身を乗り出した野々村係長の顔に鍋から熱い汁が飛んできた。
「つまり5人の公安の刑事に検診の通知を送り、何者かがターゲットに検診と称し、病を処方する。そして5人の刑事は死に至った完璧な病死として。恐らく5人の捜査官の死は、里中さんを脅すためのものです」
「何のために?」
と瀬文。
「目的は里中さんを使っての冷泉俊明の拉致・誘拐」
と当麻が答える。彼女は秋元課長代理のPCから「2 779 2」というコードを見つけ、それをSearchマップに入力して検索していた。それが示す場所はマンション「シャンポール山手」。重要証人や要人を匿う保護施設だった。
「元SITの里中さんは冷泉を拉致しにやってくる。必ず」
と当麻。
「アチッ!」
緊迫した雰囲気の中、またも野々村係長の顔に鍋の汁が飛ぶ。

「ラミパスラミパスルルルル~」
シャンポール山手に匿われている冷泉が流し台に水を張り、レモンをどっさり入れて、何も履いていない右足を突っ込みながら、レモンを囓み、眼を閉じて念じる。
「ラミパスラミパスルルルル~ラミパスラミパスルルルル~」
そしてカッと目を見開いた。
「運命の時が来た!キター!サンタモーニカ~♫ サンタクロースぅ♫ 三蔵法師ぃ♫ 三角四角ぅ♫」
と陽気に歌いながら、右足を上げたまま飛び跳ねているところに津田が特上寿司を持って入ってくる。
「うれしいのか?」
冷泉が固まる。
「お前、今日誕生日だろ。特上寿司を買ってきた食えよ」
「あれ、今日俺の誕生日でしたっけ?」
「そうだよ。違ったっけ?食え食え」
津田がちゃぶ台に寿司を置く。
冷泉が寿司の袋を見て眉をしかめて、ちゃぶ台に座る。
「クラクラ寿司?」
「うん。こっからこっちがお前、こっからこっちが俺」
津田が自分側と冷泉側で食べる範囲を割り箸で示す。
「何か入れてんじゃないですか?」
冷泉が津田に疑いの目を向ける。
「入れてねえよ、人聞きの悪いなあ」
冷泉が寿司の180度回転させて、津田の食べる寿司を自分の側にする。
「あっ」
津田が驚く。
もう一度冷泉は寿司を逆回転させてもとに戻す。
津田が満足気に笑う。
冷泉が鉄火巻を頬張る。
「あれ? お前、醤油付けないの?」
「醤油なし派です」
へえと津田が醤油の袋を口で開ける。
「うまい」
と冷泉が喜ぶ。
「津田さんって意外と優しいんですね」
「あのなあ、お前全然気がついてないかもしんないけど、俺たちはお前をずっと守ってきたんだぞ」
「誰からですか?」
「お前の能力を利用しようとしているやつらだよ」
冷泉の顔から笑が消える。
「こっから出てみ。どっかの連中がお前を確保する。するとだ、その連中に敵対する連中がどうすると思う? よってたかってお前を殺しに来るぞ」
「俺を狙ってるのは誰ですか?」
「……早く食えよ。イクラ食え。一番高いんだから」
「イクラ好きです」
冷泉がイクラを口に運んで咀嚼する。それを津田がじっと見ている。
「ぐふぅ」
冷泉が顔をしかめる。
「こっち側か……」
やはり津田は薬を盛っていた。
冷泉が倒れて、気を失った。
「ちょろいな」
と津田が言う。

突然、マンション山手の監視ルームの電源が切られ、セキュリティーシステムがダウンする。外部への電話も切られた。
夜陰に紛れて、里中率いるCQB装備の傭兵部隊がマンション山手へ近づく。
「突入された……」
冷泉が横たわったままの暗い部屋の中で津田が呟き、拳銃の遊底(スライド)を引いて薬室(チャンバー)に弾を入れる。
301号室に里中がサブマシンガン(MP5K)を構えて突入する。
だがそこはタダの会議室だった。
瀬文が里中に跳びかかって倒し、里中が持っていたサブマシンガンを蹴り飛ばして、拳銃を向けるが、今度は里中に拳銃を蹴り飛ばされてしまい、押さえ込みにかかる。しかし里中が抵抗して形勢は逆転、里中は瀬文の両足をもって振り回してテーブルに叩きつける。テーブルに落ちた瀬文はつかさず腰からリボルバーを抜いて里中に向ける。
同時に里中も拳銃を抜いて瀬文に向けた。
互いの銃口が互いの顔を狙っている。
「時間がない。冷泉の居場所を教えてもらおう」
と里中。
「先輩に俺が撃てますか?」
「もちろん撃つ」
「命、捨てます」
「捨てねえよ!」
声を荒げる里中。
「お前も子供を持てばわかる。さあ、冷泉の居場所を教えろ」
「できません」
「子供の命がかかってるんだ。頼む」
「……俺は刑事です。あんたも刑事だろうが!」
そこに傭兵が入ってきて瀬文を撃つ。
瀬文が隠れる。里中が傭兵たちに撤退を命じる。
マンションの下に警察の特殊部隊が到着し、里中たちは包囲された。
「全員、銃を捨てろ」
瀬文が二階から里中たちに拳銃を向ける。
傭兵たちはすぐに手を上げた。
里中が瀬文に銃を向ける。
「観念しなさい」
野々村係長が里中に言う。
里中が拳銃を地面においた。
「瀬文、俺の負けだ」
「里中さん、教えてください。里中さんは誰に脅されてるんですか?」
里中は黙って瀬文を見ている。
「もしかして、梨花ちゃんに病を処方され、それをネタに脅されてるんじゃないですか?」
「なぜそれを?」
「やはり……」
当麻が里中に尋ねる。
「病を処方した奴は誰なんですか? 名前を教えてください」
里中は一瞬考え、瀬文を見上げた。
「そいつの名前は……」
と里中が言った瞬間、里中の左胸に銃弾が突き刺さり、血しぶきが飛ぶ。
里中はその場に倒れた。
「先輩!」
瀬文が二階から飛び降り、里中のもとに駆け寄る。
里中は呻き、息絶えた。
瀬文は死んだ里中を前に、なす術もなく震え、号泣した。

一台の小型車が首都高を走っている。
「ふう、ヤバかったなあ」
と運転席の津田が言う。
後部座席では袋詰めになっている冷泉が暴れている。
「てか囮のための未詳がパンドラの箱に手をかけやがって……いっそ消しちゃうか」

霊安室に安置された里中の横に瀬文と当麻が立っている。
所持品の拳銃、帽子、腕時計、結婚指輪、血まみれの家族の写真が2枚、机に置かれている。
「奥さんに連絡してきます」
当麻が部屋から出ていこうとドアを開けると、外に立っていた野々村係長が入ってきてドアに鍵をかける。
「潜入捜査官の死は公にできない」
「じゃあご家族には?」
「このまま荼毘に付し、南アフリカで事故に遭ったとか、嘘の口実をでっち上げるんだろ」
瀬文が言う。
「奥さんや梨花ちゃんは、遺体に遭えないんですか?」
瀬文は何も言わず、霊安室を出て行った。
「この亡骸に奥さんとお嬢さんを会わせても、ショックが大きくなるだけだろう。残酷すぎる事実は伏せておいた方がいい。私たちがなすべきことは他にある」
野々村係長は死んだ里中に敬礼した。
当麻が里中の血まみれの家族写真に目を遣る。

薄暗い夜明け間近の警視庁の屋上に瀬文が立っている。瀬文は銃撃戦で里中に助けられたことを思い出していた。
「動けません。置いていってください」
瀬文が里中に言う。
「バカヤロウ、仲間は決して見捨てねえ、それがSITだ」
里中が瀬文を立たせると、瀬文を抱えて後退する。

瀬文の後ろに当麻がやって来て座る。
「死は常にそこにある……」
瀬文が当麻に言う。
「里中先輩の死は、罪に似合った罰だ。だたし、里中先輩の妻や娘さんに罪はない。俺は命をかけても2人の幸せは守る。梨花ちゃんの命を必ず救う」
払暁の雲間から朝日が覗く。
「私情は禁物です」
淡い朝日に当麻の顔が照らされる。
「でも……はい」

シリアスな方向に話が展開してきました。

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