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2010/11/29

SPEC 庚(COU)の回 覚悟知真

覚悟知真:温故知新の連想でしょうか。

里中梨花が海野医師の手術を受けた警察病院。
「あなたも本当は向こう側の人間なんでしょ?」
と志村美鈴が言われ、怪訝な顔をする当麻。
「わたしにはなんでも分かる。触ればね」
美鈴が当麻の右肩を掴んだ。
当麻ヴィジョンが美鈴に流れ込む。

「何これ?」
美鈴が当麻から手を放し、見たものに戸惑う。
「何をしたの?」
当麻が訊く。
「あなたの中のビジョンを見たの」
「ヴィジョン?どんな?」
「何も……」
美鈴が見たのは焼け焦げた巨大な物体。それは餃子だった。
「ホントに空っぽな女」
美鈴が吐き捨て、当麻の右手から携帯をひったくって去っていく。
その時、夕暮れの川べりで子犬に手を差し伸べる、ランドセルを背負った小学生のイメージが浮かぶ。
「サイコメトリング……」
当麻が去っていく美鈴の背中を見つめる。
「当麻!」
電話をしていた瀬文が戻ってくる。
「海野の居場所がわかった!」
瀬文と当麻が海野がいたレストランに向かった。

だが2人がレストランに着いたときには、もう海野の姿はなかった。瀬文が警察のIDを見せ、1時間くらい前に騒ぎがなかったかとウェイトレスに訊いた。
「さあ?」
ウェイトレスは首を傾げる。
「こいつなんですけど」
当麻がウェイトレスに海野の写真を見せた。
「ああ」
ウェイトレスは頷いた。
「でも騒ぎはなかったですよ。ご友人が6名いらしゃって、皆さんでステーキ食べられて、和やかにお帰りになりました」
「和やかに?」
当麻が訝る。
「ええ至極上機嫌で。あっそうそう、ちょっとすいません」
ウェイトレスが何かを思い出してレジに行く。
「帰りにね、ここに財布の残り全額入れて帰られました」
それは「子供の難病を救え:愛の募金」の透明な箱だった。海野の名が書かれたメシ屋の会員カードが扇子とともに入っていた。その扇子を当麻が取って広げる。
「せんせいありがとう」
と子供の字でクレヨンで書かれていた。
当麻は海野が電話で言っていた言葉を思い出した。
「医者はいい。人の生命を救える。僕だって生命を救うSPECが欲しかったですよ。ただ才能ってのは自分が望むものと一致しない。神は残酷だ」
「これ、もらっていいっすか?」
当麻が扇子を見つめながら、ウェイトレスに訊いた。

「ゴミだよ、それ」
当麻が包帯に差し込んでいる扇子に、瀬文が侮蔑の眼差しを向ける。
「犯罪者に気持ち入れてんじゃねえぞ。そいつは人殺しだ」
「ただの人殺しじゃないっす」
当麻が言い返す。
「何か彼らなりに目的があって人を殺していた。しかもかなり大がかりな組織の犯罪です」
「何が言いたい!?」
瀬文が当麻のもったいぶった言い方に苛立つ。
「いやね、仮に組織の構成員がもし1千万人を超えるような話なら、今起こっているのは犯罪ではなく戦争……もしくはカワメイってことかな、なんつって」
瀬文が何も言わず当麻を凝視する。
「革命だろ」
ギクッとする当麻。
「おまえ本当に京大か?」
「噛んだだけでしょ!」
「妄想は一人でやってろ。俺は今、目の前の事件を確実に追う」
瀬文が当麻を置いて歩き出す。
「妄想じゃないかもですよ」
当麻が言う。
瀬文がまだ言うかという顔をして、当麻に振り返る。
「大体、歴史のターニングポイントはいつも静かに私たちの真横をかすめていく。誰かがそのことに気がついたときには、すでに手遅れなんす」
「俺は学者じゃねえ。刑事だ」
瀬文はそう言うと当麻を置いていった。
「私だって刑事だよ」
当麻は口を尖らせ、瀬文を追いかける。

「もうすぐ入試だよ」
警察病院で昏睡状態がつづく志村に美鈴が話しかける。壁には美鈴が描いた志村のスケッチが何枚か置いてある。
「来年はなんとか行けるかも、芸大」
昏睡状態の志村は何も答えない。
「なんとか言いなよ、むかつくなあ」
美鈴が何を言おうと、志村はうんともすんとも言わない。
「ずっとこうやって寝てると、殺されちゃうんだからね、病院に」

川里医師が志村の病室にやってきて美鈴を呼ぶ。海野が病を処方した公安捜査員の死因特定を行った医師だった。
「ちょっといいですか」
「来たよ、ほら」
美鈴が志村を見た。

夜。瀬文が大きなビニール袋を提げて歩いている。袋の中身は途中で買った栄養ドリンク「元気者」12本入りのケース。橋の欄干に美鈴が座っていた。美鈴は瀬文が帰ってくるのを待っていた。
「何かあった?」
瀬文が美鈴に尋ねる。
「一応言っておこうと思って。来週兄が死ぬことになりました」
「え?!」
驚く瀬文。

「ご本人のためにも先のことを考えませんか」
病院で川里が一枚の書類を美鈴に差し出した。尊厳死同意書であった。
「それは治療をやめて、死なせるということですか?」
美鈴が訊いた。
「今週いっぱいまでは警察が労災以外の医療費を負担していますが、いつまでもいうわけには……ということらしいです。本当にお気の毒ですが……」

「金の問題なら俺がなんとかする」
瀬文が言う。
「個室代、保険外の薬代、おむつ代その他諸々、一日少なくとも3万として、月約90万ですよ!払えますか!?」
美鈴が瀬文に食って掛かる。
瀬文は何も言えず、黙っている。
「じゃあ」
と美鈴と瀬文に別れを告げた。そして数歩歩くと振り返り、瀬文を睨みつけた。
「警察って人は殺すけど、誰も助けてくれないんですね」

「12時ぴったりでいなくなっちゃうんだって」
雅ちゃんが野々村係長と一緒に行列に並ぶ。
「だから新宿のシンデレラ」
「う~ん、大丈夫かな。てか門限大丈夫なの?」
野々村係長が雅ちゃんに訊く。
「やだ~光(こお)っちたら!今日はお・泊・り」
小悪魔的な笑みを浮かべた雅ちゃんが、大きなバッグを持ち上げて野々村係長を小突く。
「キャン!」
野々村係長が子犬のように喜び、うーんと唸る。
2人が待ってる間に時は過ぎ、12時5分以前になってようやく順番が回ってくる。
「私たち結婚できますかね?」
雅ちゃんが訊いた。
「では、あなたの心をサトリます!」
ロリータ服の星慧(ホシ・サトリ)が両手の親指と人差し指で四角いフレームを作って、その中から二人を覗く。どん引きしている野々村係長とは裏腹に、期待に胸をふくらませる雅ちゃん。
「野々村さんは奥さんを別れることはできないでしょう」
サトリが予言する。
「なんで私の名前を!」
野々村係長がうろたえる。
サトリがフフフと笑う。
「だって私はサトリだから」
「けど……」
野々村係長が顔をしかめる。
「光っちひどい!」
雅ちゃんが怒って立ち上がる。
「もういい。わたしから別れてあげる!」
雅ちゃんは野々村係長の頬を引っ叩いて去っていった。
「ちょっと……雅ちゃん!」
野々村係長が雅ちゃんを追いかけるが、雅ちゃんはそれを無視して歩いて行ってしまう。野々村係長はサトリのところに戻ってくる。
「あんた、そういうことを……痛い」
野々村係長が雅ちゃんに叩かれた頬を押さえる。
「っていきなり言うってのは、どうよ?!」
「大丈夫。雅ちゃんにはもう若い男性の影が」
「なんで雅ちゃんって名前まで……って若い男性!?」
野々村係長は目を丸くし、急に締め付けられるような痛みを胸に感じて手で押さえた。
「相手の名前も分かりますよ。その人の名は猪俣宗次」
「あいつか~」
「鑑定料は3万円ですが、あなたの運気を上げるためこのブレスレットをお勧めします」
サトリは「パワーストーン・ブレスレット(TBSショップでは売っておりません)を見せた。
「17万100円になります」
渋い顔をする野々村係長。
「あっ12時だ。閉店ですよ」

夜の街を彷徨う瀬文。頭の中で美鈴の声が響いている。
「それは治療をやめて、死なせるということですか?」
「警察って人は殺すけど、誰も助けてくれないんですね」

瀬文は五反田駅近くの交差点の横断歩道を歩いていて、誰かと肩がぶつかった。そして線路下のアンダーパスを歩いていたとき、女性にぶつかって骨折した肩が治ったのを思い出し、そのアンダーパスへと駆け出した。
「どこにいる?」
瀬文がアンダーパスに行ったが人影はなかった。
「どこだぁ!」
瀬文は誰もいないアンダーパスに向かって叫んだ。

翌日。瀬文は「未詳」に来るやいなや、持ってきた紙袋を机に投げて当麻のパソコンに向かい、マウスをクリックした。画面に巨大餃子の壁紙が現れる。
「あいつ、ロックもかけずに……」
画面から「SPEC HOLDER」のファイルを開き、「病を治す能力を持つ者」を探した。だが名前、住所、生年月日、性別、すべて不明になっていた。数件の報告例はあるが、情報の信憑性は不明とされていた。
「どこを、どう探せばいいんだ!」
瀬文は当麻の机の横にあったゴミ箱を力任せに蹴った。
「何をお探しで?」
当麻が蜂蜜を手に持って、瀬文の後ろに立っている。
「うわっ!」
瀬文が驚く。その声に当麻も驚く。
「いたのか」
「ずっといましたよ」
「何を探してたんですか?病を治す人間のデータですか?」
当麻がコップに蜂蜜を大量にぶち込む。
「志村さん、近々強制尊厳死になるんですね。会議を盗聴してて知りました。何とかしないとですよね」
「何か手はあるのか?」
瀬文が訊く。
当麻が待ってましたとばかりにパソコンに向かい、話しだす。
「この里中さんの残したデータなんですけどね。冷泉さんについてメモが書き加えられてるんですよ。里中さんは冷泉さんの霊能力を認めてたみたいです」

メモに書かれていたのは:
○金が好き。
○金に汚い。
○1000万円出せば教えてくれるか?

「もしかしたら、冷泉奪還の折に買収して予言を頼もうとしてたんじゃないですか」
「予言?予言で病を治す人間の居場所が分かるわけがない」
「私なら、こう頼みます。病を治す人間の出没する時と場所を予言してくれって」
「なるほど……」
「ここは一か八か冷泉さんを捜してみましょう。美鈴ちゃんと志村さんのためにも」
「一か八かじゃねえ」
瀬文が天井を見上げる。
「冷泉を拉致しているヤツが、こん中のどこかにいるはずだ。必ず冷泉を見つけ出す」
「はい」
当麻が頷く。

「どうした?具合でも悪いのか?」
白いコンクリートを打っただけの壁際に体育座りしている冷泉に津田が尋ねる。
「何かが起きる」
と冷泉。
「引越し。分かっちゃった?凄いねえ~」
津田が笑いながら、七輪で餅を焼いている。
「今度は安全。誰にも知らせてない保護施設だから」
「またですか!?」
苛立った冷泉が立ち上がる。
「いい加減、元の生活に戻してください!いつまで人の自由を奪えば気が済むんですか!」
「あら~やだ~、詐欺罪でちゃんと立件してブタ箱にブチ込んでもいいんだぜ。本名・鈴木俊明さんよ」
津田が凄む。
「あんた1998年からキトサン入り健康食品なんかをマルチで売ってボロ儲けしてたろ?おじさん知ってんだ。買ってたし」
津田がマイルドセブン・ワンにライターで火をつける。
「毎度あり」
そう呟いて冷泉はまた力なく座り込む。
「まッ、インチキな詐欺師時代の方が、なまじ本当の霊能者なんかよりも気楽でよかったんじゃねえか?」
体育座りの冷泉は何も答えず、紙皿から焼いた餅を掴んで食べる。
「醤油つけないの?」
津田が冷泉の背中で笑う。
冷泉は醤油をつけず、海苔だけ巻いて食べる。

「この中のどこかに……」
瀬文と当麻が「未詳」でパソコン画面を見ている。
エレベーターで上がってくる。エレベータの床に野々村係長がへたれ込んでいる。
「あ~猪俣か……若い方がいいのか。てか誰の子?ああ知らないことの方が幸せだな」
「教えましょっか?」
若い女の声がする。
野々村係長がびっくりして、その女を指をさした。
「誰だ?」
瀬文がエレベーターの方を見る。
「はじめまして。私、新宿のシンデレラことサトリです」
サトリが瀬文と当麻に自己紹介する。
「今、超人気の占い師ですよね」
と当麻。
「なぜここに!?」
野々村係長が訊く。
「今日は、公安に理由もなく拉致されている、哀れな霊能者の冷泉さんを奪還することを宣言しに来ました!」
サトリは満面の笑みでVサインを出す。
「何!?」
と瀬文。
「痛い……」
サトリが首筋を手で押さえる。
それをじっと黙って見ている当麻。サトリが両手でフレームを作り、決めポーズをする。
「あなたの心をサトリますぅ」
固まる「未詳」の三人。
「頭のおかしなガキが何でよりによって冷泉だよって思いました?」
サトリが瀬文に尋ねる。
一瞬動揺した瀬文の右眉が上がる。
「思ったんだ」
と当麻が勝ち誇ったような顔を瀬文に近づける。。
「瀬文ってホント単純バカだなって、当麻さんの頭ん中も丸見えですよ」
とサトリが言う。瀬文が当麻に怒りの目を向ける。当麻は瀬文から視線をそらす。
「一(ニノマエ)のといきさつも見えますよ。やだ~グロイ」
そう言われた当麻がサトリを睨み、
「うんにゃろ~!」
サトリに突進するが、サトリに避けられ、サトリの後ろにあったロッカーに顔面から衝突する。
「だから、あなたが私を捕まえようって考えた瞬間、分かっちゃうんだもん、無理無理」
「むかつく!」
当麻が悔しがる。
「二人とも冷泉さんを捜してるんだ?でどこにいると思います?当ててみてください」
サトリが当麻と瀬文を見て、瀬文と目が合った。
「瀬文さん、何も考えちゃだめ!」
「え?」
サトリが笑う。
「サトリました」
瀬文は訳が分からず、目を白黒させる。
当麻が怒り顔で瀬文に詰め寄る。
「瀬文さん、今、何を考えました」
「え?」
「正直に言ってください」
「さっき調べた冷泉が保護されていそうな場所を……」
「やられた……」
当麻が振り返る。すでにサトリは姿を消していた。
「サトリはそれを読みに来たんですよ」
「まさか」
「まさかじゃねえよ」
当麻がパソコンに戻る。
「これを見てください」
当麻がサトリについての検索結果を瀬文と野々村係長に見せる。サトリは恐ろしく当たるとネットでは評判になっていた。テレビ番組にも出演してた(「藤沢文香」と「ガチひろし」って「藤原紀香」と「ネコひろし」か?披露宴には祝「菅直人」(正義党の幹事長)って花が来てます。「ガチひろし」と「ガチたけし」は「ガチ家」というコンビらしい)。
「くだらん、こんな芸能人のゴシップなんて調べただけだろ。さっきも特に大したこと言ってない」
そう言う瀬文は明らかに動揺している。
「彼女は本物だよ。人の心を読む能力を持っている」
野々村係長は真剣な顔をして、手首にはめたパワーストーンのブレスレットを撫でた。
「係長、何で突然断定すんすか?」
と瀬文が訊く。
ギクッとする係長。
「サトリは本気で冷泉さんを狙ってます」
ポーズを決めているサトリのネット画像を見ながら、当麻が呟いた。

警視庁の外。ピンクのラインストーンゴテゴテの携帯で、サトリが「ボス」に英語で電話を掛ける。サトリのコードネームは「サティ」。(昔あったスーパーか)
「冷泉が居そうな場所がわかったわ」

「ヤバイですよ」
当麻が瀬文を見る。

夜のベイブリッジを青いバンが走る。中には津田と冷泉が座っている。津田はミカンをほうばると、心配げな顔をした冷泉を一瞥して、
「あッ、公安の内部にね、変な女が来たんだってさ」
とまたミカンを口に入れた。冷泉は何かに怯えて汗ばんでいる。
「そうピリピリするなよ。食べるか?」
津田は冷泉にミカンを差し出した。冷泉はミカンに目もくれず、齧りかけのレモンを右手に持ったまま前をじっと見ている。
「うまいのに……」
津田はみかんを引っ込めた。
「何か嫌な予感がする。化け物があちこちで動き出すような」
冷泉が手に持っていたレモンを握りしめる。
「ゾンビがゾロゾロか」
津田が笑う。
「笑い事じゃない!」
冷泉が怒鳴る。
「真っ先に犠牲になるのはあんただよ」
「そこをさぁ、あんたの力で何とかしてよ」
津田が冗談めかして言い、またミカンをほうばる。
突然、後部座席から若い女の笑い声がする。
津田と冷泉が後ろを振り返る。
「ところがそうはいかないんですよ。私がいる限り」
さっきまで誰もいなかった後部座席に、サトリが座っていた。
「いつの間に……」
と津田が呟くと、サトリが傲然と答える。
「簡単なことです。津田さんが、どの車に乗ろうかと思ったかサトルくらい」
津田がジャケット拳銃を抜いてサトリに向ける。サトリはまだ余裕しゃくしゃくとばかりに笑っている。
「そうくると思って、とっくに弾なんか抜いてありますもん。ほらね」
サトリはバッグから銃弾を取り出して津田に見せると、床にばらまいた。
「またいつの間にって、今、思いました?」
津田はサトリに拳銃を向けている。
「こりゃかなわんって、今、思いました?」
津田が拳銃の弾倉を抜いて確かめると、確かに弾がすべて抜かれていた。津田は驚きの目でサトリを見た。サトリから笑顔が消えた。
「わたしには勝てねえんだよ」
冷泉がはッとする。バンが急ブレーキをかけて止まる。津田が前を向くと、運転手が振り返り、津田に向けて拳銃を撃った。津田がシートから崩れ落ちる。冷泉が悲鳴を上げる。運転手は津田を道路に投げ捨てると、またバンを走らせた。
道路に横たわる津田が薄れる意識の中で呟いた。
「冷泉、死ぬなよ……」

未詳のソファに座り、大きなヘッドフォンをした当麻がパッと目を開くと立ち上がり、無線機からヘッドフォンのコードを抜いた。
「冷泉がやっぱ、強奪されたみたいですね。公安部の上の人たちが騒いでます」
野々村係長が不安気に訊く。
「当麻くん、それどこ盗聴してるの?」
「警視庁の超極秘連絡網回線です」
「え!?」
野々村係長が驚く。
「バレたら逮捕されちゃうよ」
当麻が紙に何かをメモりはじめる。
「私たちに情報を流さないヤツつらが悪いんですよ」

恐らく警視庁のどこか、2つの鳳凰が置かれた秘密の部屋。
「ヤベエなあ」
男Aが言う(零課の幹部Aらしいです)。
「大丈夫です、手は打ちました」
と男B(これも零課の幹部?)
「中野の面子、潰されるんじゃねえぞ」(中野は「公安」のことでしょう。CIAをラングレーというのと同じ)
「言われるまでもありません」
2人が座るテーブルにはマイルドセブン・ワンとライトが置かれていた(2人の声も椎名桔平のようで、津田はクローンか何か?)。

鹿浜と猪俣たち捜査一課の刑事が、銃撃事件があったとの通報を受けて津田が倒れていた場所に急行するが、人影はなかった。鹿浜が道路に落ちていた血を見つける。そこに馬場管理官から電話が入る。
「すまん、通報はイタズラだったようだ」
「いや、管理官これは何かありますよ」
「何も見るな、聞くな、喋るな」
「ハッ」
と答える鹿山。馬場に言われて鹿浜は事件を知らぬ存ぜぬを決め込むのだと猪俣は気づき、鹿浜に訊いた。
「そういや鹿山さん、定年まであとどれくらいじゃったっけ?」
「あと5年だ」
「そりゃ大事じゃね。わしゃまだ32年もある。32年もすっとぼけた猿芝居なんてできんわ。わしゃデカじゃねん」
「おれだってデカだよ……」
鹿浜がため息混じりに呟いた。

未詳の電話が鳴る。
「盗聴がバレた!」
野々村係長が慌てて電話を取る。
「大丈夫です。困ったときの下請け押しつけの電話です」
と当麻がまだ何かを書いている。
「はい!」
と電話に答える野々村係長は明らかにホッとしている。
当麻がヘッドフォンを外してパソコンに向かい、警視庁の車両ナンバー照会を開くと、
「車両ナンバーは……品川 800 ヘ 86-20(ハロフロ)」
と打ち込み、
(サトリの子がハロプロだからですか!敢えてAKBじゃないのがグッドジョブです。)
「これをNシステムと連動させて写真をば」
Nシステム起動ボタンをクリックする。Nシステムが撮影した写真が画面に現れる。青いバンの助手席にサトリが座っている。
「間違いない」
当麻が舌打ちする。

英語で当麻が悪態をつく
「悪魔のクソまみれ●●●野郎が。▼▼の穴に逮捕状を■■こんでやる」
すると瀬文も英語で
「手錠は俺にかけさせろ」

(恐らく)
Son of a Bitch! I'm gonna shove bench(?) warrent right up your ass
Let me slap the cuff on her

「それで……」
当麻がまた別のシステムを開く。
「何だこれ?」
瀬文が訊く。
「何か撃たれた刑事がいて、その刑事がGPS携帯を車内に仕掛けてるらしんですよ。その携帯番号から現在位置を割り出します」
津田はミカンの中に携帯を忍ばせておいたのだった。
「お前、凄いな」
瀬文がそう言うと、当麻はニヤリと口角を上げた。
「いや、サトリだけじゃ……いくら何でも、詳細をもうちょっと教えていただかないと」
野々村係長はまだ押しつけの電話に対応している。その間に当麻たちはサトリと冷泉の居場所を特定しかけていた。画面に赤い点が点滅する。
「まッ、場所はこれで概ね絞り込める」
「よし行くぞ」
瀬文がエレベーターに向かう。
「待ってください」
当麻が瀬文を止める。
「何だ!?」
瀬文が足を止める。
「サトリの能力を封じる何かを見つけないと、あっさりと逃げられますよ」
「そもそもサトリは何が目的なんだ?ヤツらは何者なんだ?」
「何者かは分かりません。ただまあ目的は、資源を巡る覇権争いですな」
当麻がパソコンを打ち始める。
「資源?」
「分かりやすく言うとですね、金融や資源で世界を支配してきた大メジャーの一部は、Human Resourcesつまり、才能あふれる人材を資源とみなして、取り込み始めています。科学者、技術者、スポーツ選手とかね」
「さらに分からん」
と瀬文。
「SPEC HOLDERなんぞは、人的資源の超レア物件ですからね。下手するとその覇権争いが次の世界地図を書き換えるかもしれません……やっと出た」
当麻はホシ・サトリの運転免許証を見つけた。
「よくもまあ、ご丁寧に過去を消しまくりやがって」
「何のデータが出たんだ?」
「瀬文さん、冴えてますね。くだらないデータですよ」
当麻が瀬文にプリントアウトを見せた。
「交通違反の記録がやっとでした」
「この住所を当たれば、何か手がかりになる証言が出てくるかも知れん……」
瀬文がその紙を持って出ていこうとするが、また当麻に止められる。
「その住所デタラメっすよ。山梨とか静岡とかっすもん。占いしてる新宿から、12時に出ておウチに帰れまへん」
「こっちは被害届ですね」
もう一枚のプリントアウトを当麻が取り上げる。11月2日の大阪発―新宿行きの深夜バスで、追突事故に遭い、ムチ打ち。
「いちいち参考にならん」
瀬文が毒づく。
「チクショー、サトリに勝つ方法……」
当麻は瀬文を突き飛ばし、キャリーバッグを引いて書道をする机に向かい、習字の準備を始める。野々村係長はまだ電話している。
「ヒントは? ヒントダメ?いや、あんた、サトリ捜してこいって、だけじゃさあ」

当麻が筆を握って半紙に「サトリ」と書き始める。次に「新宿のシンデレラ」、「星慧」、「首のギブス」、「心を読む」、

「もうちょいヒント」
電話に向かって野々村係長が懇願する。

当麻は何枚か「心を読む」と書いて、筆を置いた。
「ダメだ。要素が少なすぎる」
「ならやるな」
瀬文がつっこむ。
当麻は瀬文の持っていたサトリに関する情報のプリントアウトをもぎ取ると、すでに書いた半紙に重ねて足で踏んで引き千切り、
「行け~」
と天井にぶちまけた。
「ヤケクソかよ」
瀬文が当麻に冷ややかな目を向ける。
「頂きました」
「ホントか?」
瀬文が確認する。当麻はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、また半紙に向かう。そして筆を握り、
「サトリを倒すには」
と半紙の右半分に書いたところで後ろを見た。
瀬文が立っていた。
当麻が筆を置き、今まで書いていた半紙を握り潰した。
「何してんだよ!?」
瀬文が慌てる。
「そっちこそ何見てんだよ」
当麻が瀬文に食って掛かる。当麻と瀬文が睨み合う。

野々村係長はまだ電話していて。
「星慧って名前なの?すげえヒント、サンキュー、サンキュー」
と笑って、ふと睨み合う当麻たちを見て訊いた。
「なんで散らかってるの?」

暗い部屋。冷泉がドアを力づくで開けようとするが、無理だった。
「監禁かよ」
冷泉はドアを悔しげに叩いた。突然、後ろでライトが点灯する。そこには1台のパソコンがあった。パソコンの画面にはパソコンに向かう冷泉が映っていた。冷泉が上を見上げると、ビデオカメラが起動していた。
「誰かいるのか?」
冷泉が訊いてみた。
「何のつもりだ!」
冷泉が叫ぶ。
「お前らは誰だ!」
すると室内にピンクの照明がついた。冷泉が周りを見回す。天井の高いその部屋の中心には青い布で覆われた、何か巨大なものが立っている。
「そろそろ私が恋しくなりました?」
サトリの声がして、冷泉が振り返る。階段からサトリが降りてきた。
「んな訳ねえ……か。大の男が動揺しちゃって」
サトリは冷泉の心を読んだ。
「では、あなたを誘拐した理由をお話しします」
「どうせ、株とか投資だろ」
冷泉が皮肉交じりに言う。
サトリが嘲るように笑う。
「そんな、チョロい話じゃないですよ。世界各国の要人の寿命を予言して欲しいんです」
サトリは世界の重要人物帳を見せた。
「サブアトラスを書き換えるには、この人たちの寿命を書き換えるのが一番なんですって」
「書き換える?殺すということだろ、断る!」
と冷泉。
「断れませんよ。ボスはあなたを購入するために、すでに5千万ドル支払ってるんですから」
「購入?」
冷泉が眉をひそめる。
「誰が俺を買い、誰が俺を売ったんだ?」
サトリは後ろを向くと、部屋の中心にあった巨大な何かから青い布を剥ぎ取った。それは無数に積み上げられたレモンの山だった。たじろく冷泉。サトリが冷泉にレモンを差し出す。
「お仕事しないと、あなた殺されちゃいますよ」
冷泉はサトリからレモンをもぎ取ると、しっぽを噛みちぎって吐き捨てて果汁を啜った。
「最大呪文……テクマクマヤコン。テクマクマヤコン……無敵にな~れ!」
「何それ」
サトリが嘲る。
(テクマクマヤコンを知らんのか!ひみつのアッコちゃんだぞ!この非国民め!)
冷泉に何かや宿り、サトリを指さした。
「無想転生!すなわち貴様の技はすべて見切った」(北斗神拳の究極奥義!)
「は?」
サトリが訝る。すると冷泉はレモンの投げ捨ると、手を合わせて僧侶のように座り、お経を唱えるように
「カーレンダーよーりーはーやーく、シャツのーそーでーぐーちー」
と口ずさみ始める。
「お経で無心の境地に潜ったわけね。根競べってことね」
サトリはレモンの山から、レモンを1つ取って気がついた。冷泉が唱えているのは、お経じゃなくて、AKB48の「ポニーテールとシュシュ」。サトリが怒る。
「AKBかよ!ハロプロにしろよ!」

「当麻、まだか!」
瀬文が苛立つ。
「ちょっと待ってください」
「何やってんだよ!」
「経費の精算ですよ」
「精算?」
当麻が散らかした半紙を掃除する野々村係長が聞き返す。
「ふざけんなよ」
じれる瀬文が当麻に食って掛かる。
「ふざけてませんよ。病院代とかリハビリ代とか、バカになりませんからね」
当麻がパチパチと計算機を打つ。
「それより、この後どうすんだって聞いてんだ」
瀬文のこめかみに青筋が立つ。
「あ~集中してんのにムカツクなあ。こっちはタイミング計ってんだよ」
と当麻が声を荒げる。
「タイミングだと!?お前がはした金の清算中に冷泉が殺されたら、どうすんだ!?」
「今、突っ込んでも、絶対勝てねえよ」
「じゃあどうすんだ!説明しろ!」
「言わねえよ」
二人の言い争いを渋い顔で野々村係長が聞いている。瀬文が怒鳴る。
「人の命が懸かってんだ!言え!」
「あんたにプランを話したら、そのスカスカな脳みそから、奪還プランがサトラレたらどうすんだよ!志村さんを助けたいんだろハゲ!」
そう言われて瀬文は冷静さを取り戻し、
「ハゲじゃねえ……ちょっと頭を冷やしてくる」
と小さな声で呟いて当麻に背を向け、外に出て行った。

志村の病室に瀬文が銀だこの袋を持って入ってくる。
瀬文は、目覚めることのない志村の枕元に座ると、あの事件の前のことを思い出した。あの突入の直前、瀬文は志村に訊いた。
「終わったら、何が食いたい?」
「銀だこの、さっぱりおろし天つゆねぎだこが食べたいっす」
瀬文が志村に誓う。
「俺が必ずお前を救う。お前も自分を諦めるな」
それをドアの外から美鈴が聞いていた。

瀬文が「未詳」に戻ってきた。
野々村係長はピーポ君の人形を抱えて寝ていた。
「遅えよ」
当麻が机に、ゴツイ傍受用無線機を積み上げていく。
「すまん」
瀬文は謝った。

「いつだってーゆーめーは、とおーくにみーえるー」
冷泉は額に汗を浮かべてお経のようにAKBの歌を唱え続けていた。歌は「RIVER」に変わっていた。
「いい加減諦めてくださいよ」
そう言うサトリの顔にはどこなく疲れが見える。
「ほら、悪いようにはしませんから」
レモンと紙とペンを冷泉に差し出す。
「うわ!」
冷泉はそれを払いのけ、「RIVER」を詠唱し続ける。
「きみのーめのーまえにー!」
冷泉は一段と大きな声で唱える。
「人間の集中力なんて、そう長くは続きしませんよ」
というサトリの声をはねのけるように、冷泉は声をさらに張り上げる。
「あ~あ、眠くなっちゃった」
サトリがカプセル型のソファに横になって目を閉じた。

「SITがまもなく現場に到着するようです」
ヘッドフォンをした当麻が教える。
「何だと?」
と瀬文が聞き返す。
野々村係長も起きる。
「かわいい女の子の家に、変態の男が立て篭もってるって内容で通報しといたんです」
「だったら俺に行かせろ」
瀬文が当麻に詰め寄る。
「ダメです」
「SITだったらいいのか?」
「はい」
当麻が即答する。
「警察の幹部がこの事件によってたかって、秘密にしておいて助かりましたよ。SITの連中は普通に変態の男から、かわいい女の子から救出しようと本気で突入してくれればいいんです。サトリがいくらサトったところで、SITはこっちの手の内を知りませんからね」
「SITを道具に使ったのか?」
元SITの瀬文には面白くないだろう。
SITを乗せた車が冷泉の囚われている建物へと向かう。

「きーみーのめのまえにーかーわーがながれーる」
冷泉は「RIVER」を唱えながら、ちらっとソファに座っているサトリの様子を確かめる。寝ているのかとそうっと近づいてみる。するとソファが回転して、サトリが冷泉を見る。ビクっとする冷泉。
「サトリました」
サトリが微笑む。冷泉は心を読まれてしまった。
「しまった!」
悔やんでももう遅い。
「当麻が何か仕掛けた?」
サトリが冷泉に訊く。冷泉はサトリから目を背ける。
「黙ってたって無駄ですよ。あなたの心は全部サトリました」
冷泉が歯を食いしばって床を叩く。
「チクショー、今までの努力が無駄だったか!」
サトリが高笑いする。
「私に勝てると思ったのが大間違いよ、バーカ」

当麻の無線機にSITの通信が入る。
「待機ポイント確認願いますαどうぞ」
「こちらα西2から西5へ北上中。繰り返す西2から西5へ北上中。到着後ホンゴウ(?)にて待機」
現場へと急行するSITのワゴンは、一台の赤いアルファロメオ147とすれ違う。147の運転席にはサトリが座り、ざまあという笑顔を浮かべていた。後部座席には縛られ、タオルで猿ぐつわをされた冷泉が横たわっていた。冷泉が何かを喚くが、タオルのせいでよく聞こえない。
「あっ、運転うまい?」
サトリがバックミラーで冷泉を見る(聞き取れないので心を読んだのかも)。
「今更、機嫌取ってくんなよ、バーカ。あっちの手の内なんて私には見え見えなんだよ。私、最強!」
サトリが右腕を突き上げる。
「最強ですね~!」
冷泉が猿ぐつわをハメられたまま、サトリをおだてる。

当麻の無線機にSITが突入に失敗したとの通信が入る。
「あちゃ~逃げられたのか!」
野々村係長が悔しがる。当麻は黙って目を閉じている。
「当麻!当麻!」
瀬文も焦る。当麻は目を瞑ったまま何も言わず、無線機の電源を切った。
「すべては私の想定内」
「何だと!?」
当麻が立ち上がって瀬文に顔を向ける。
「行きますよ」
「どこへ!?」
「逃げ込む場所は一箇所しかありません。精算お願いします」
当麻は野々村係長に領収書と精算書を渡した。
「なぜ分かる!?」
瀬文が当麻に訊く。
当麻が冷泉のように顎をしゃくりあげて、
「私にも未来が見える。未来は絶対なのです……なんつって」
と言って笑い、キャリーバッグを引いてエレベーターに向かう。瀬文も慌てて紙袋を掴むと、当麻の後を追った。

サトリが入ろうとする駐車場はどこも満車だったが、ようやく1つ空車のところを見つけて車を入れた。車を止めて147を降り、ボスに携帯で救援(バックアップ)を要請したところで、横からこめかみに銃を突きつけられる。
「驚いたな。気づかなかったのか?」
瀬文が拳銃をサトリの頭に向けたまま前に出る。
「なぜ?」
当惑するサトリ。
「キター!」
車の中の冷泉が歓喜の声を上げる。そこに当麻がキャリーバッグを引いて現れる。
「おばんで~す」
サトリが当麻を見る。
「なぜここにいるの!?なぜ私たちを見つけたの?」
「説明するの面倒だから、サトってちょ」
当麻がサトリのマネをして指でフレームを作る。
「サトリます」
サトリが指でフレームを作ると、ふらっとよろけてしまう。
「眠くて無理でしょう。そう。それがあなたの唯一の弱点」
と当麻が言う。
「私、変だなって思ってたんですよ。あなた首ケガしてるでしょお。これだけ同時に色んな人間の心が読めて、色んなリスクをヒョイヒョイ避けきれるあなたが、そんな大きなケガをした。確か11月2日の大阪発―新宿行きのバスの中で、トラックに追突されたんですよね。そん時、あなたは何をしていたか……って勿体つけるのも恥ずかしいですが、たぶん寝てたんですよね、ぐっすりと。それでムチ打ちの重傷になった」
当麻が頭を傾げて、ドヤ顔でサトリの顔を覗き込む。
ぐうの音も出ないサトリ。当麻はさらに畳み掛ける。
「あなたそれ以外にもですね、いろいろと事故を起こしてます」
当麻がメモを読み上げる。
「9月9日の駐禁は運転中、眠くなって高速道路の路上で仮眠を取り、捕まったときのもの。12時には必ず占いもやめ、姿を消す。新宿のシンデレラと言われるのも、このためですよね」
当麻がサトリの首に顔を近づける。
「臭い、眠い……」
サトリが当麻から離れて赤い174のボンネットに両手をつく。サトリが動いても、瀬文の拳銃の銃口はサトリを狙い続けている。
「臭い、眠い?」
当麻が勝ち誇った笑顔でサトリに近づいていく。
「まだ聞きたい?説明しましょっか?」
当麻は自分で訊いたのに、サトリの答えも聞かずに説明を続ける。
「あなたが絶対睡魔に勝てないのは、脳を異常に使ってるからです。まんまなこと言っちゃった」
当麻がこりゃ失敗と頭をかく。
「私だって、他人の10倍物を食べないと頭が働かない。あなたの能力ならなおさらでしょう。だから私たちは12時になるのをじっと待ってたんです。12時直前にSITを突入させる。あなたはそれを冷泉さんからサトって逃げる。しかし睡魔が襲ってくるはずだから、せいぜい車で逃げられて10分程度。寝込みを襲われないようにって地下駐車場に隠れるだろうと、この辺の地下駐車場、全部封鎖しました。この一箇所を除いてね」
瀬文が銃を下ろす。説明しきったと満足気な当麻が振り返ると、サトリがいなくなっている。当麻の説明が終わらないうちに睡魔に耐え切れずに、座り込んで寝てしまったのだった。
「寝るな!聞け!」
当麻が無茶を言う。
「せっかくのあたしの推理聞いて!」
当麻が泣きながら、サトリを揺するが、サトリは起きない。
「お願い起きて、ここまで来るの大変だったんだから、コノヤロウ、バカヤロウ、バカヤロウ、コノヤロウ」
最後の方は、声をつぶしてビートたけしの真似になった。
瀬文が銃をしまうと、147の後部座席のドアを開け、冷泉の猿ぐつわを取ってやった。
「ありがとうございます」
冷泉が礼を言う。
「いえ」
瀬文は言い、寝ているサトリを縛って目隠しして後部座席に放り込んだ。
「この後、この子はどうするんですか?」
冷泉が訊いた。
「まあ未詳に持って帰って考えます」
と当麻が答える。
「そうっすか、じゃあこれで」
冷泉は頭を下げて立ち去ろうするが、瀬文が冷泉の行く手を阻む。
「大変申し訳ないのですが、このまま警察の保護施設に収容させて頂きます」
当麻もコクリと頷く。
「瀬文さん、私は未来を司る男ですよ。私にはあなたの未来が見える」
冷泉が真剣な眼差しで瀬文を見据える。
「どういう意味ですか?」
「逃がしてくれたら、どんなケガでも病気でも治せる人間の情報を予言します」
「本当か?」
冷泉は黙って静かに頷くと、今度は当麻を向いた。
「当麻さんには、ニノマエが出没する場所を予言します」
「分かるんですか?」
当麻が尋ねる。
「分かります。私には未来が見える。未来は絶対なのです」
「使いようによっては、無敵の才能ですね」
「ええ、でも、自分はこの才能を持っているかぎり、自由には生きていけない。今回の件で痛感しました。詐欺師をやってた頃はね、本物の予知能力が欲しくてたまらなかった。でもこの才能が芽生えてから、僕の人生は狂ってしまったんですよ。結末が見えるから、恋愛はできない。博打もつまらない。未来を知ることは恐怖ですよ」
「しかし未来は変えることができる。そうですよね?」
当麻が訊く。冷泉が当麻に問い返す。
「この日本が、半年後には必ず消滅すると知ったらどうします?」
「そうなんですか?」
「救いようのある未来ならまだいいが、救いようのない未来も見える。私は世界一哀れな人間です。逃げても生き長らえられるとは思っていません。ただこれ以上、他人に迷惑は絶対にかけなくない。他人の人生にも関与したくない。だからお願いします。見逃してください!」
冷泉が瀬文の足元に土下座する。
「俺は残りの人生を思いっきり自由に行きたいんだ!」
「しかし……」
と当麻が呟く。
瀬文の携帯からバイブレーター音がする。野々村係長からの電話だった。
「瀬文君、冷泉とサトリ、見つかった?」
しばらく沈黙が続いた後、瀬文が答えた。
「すいません。サトリは確保したんですが、冷泉には逃げられました」
「そう、仕方ないね。じゃあ気をつけて帰ってきて」
野々村係長はそれ以上何も言わず受話器を置くと、フッと笑った。瀬文の嘘に気づいたのだろう。そして柿の種を1つ口に放り込んだ。

冷泉がレモンを握りしめて呪文を唱える。
「ラミパスラミパスルルル……」
冷泉がカッと目を見開くと、当麻が冷泉にペンとメモを渡した。冷泉はメモに書いて瀬文に差し出した。瀬文が冷泉を睨む。
「本物だろうな?」
冷泉が舌打ちする。
「私の予言は絶対です。ただし見るか否かは、よく……あら?」
瀬文が冷泉からメモをもぎ取って読んだ。
「命を救いたいヤツがいる。考える時間が無駄だ」
「あそ」
と冷泉は軽く流し、
「当麻さんにもお礼をしなければ」
と言う。
「いや私は」
当麻は断ろうとするが、冷泉がレモンを齧って汁を吸って呪文を唱え出す
「ラミパスラミパスルルル……」
冷泉はカッと目を見開いて、メモを書いて当麻に差し出した。
「ニノマエの居場所です」
「居場所?」
「ニノマエの家です」
「では私はこれで失礼します。お二人ともお元気で。あなたたちには輝く未来が見える」
冷泉が言う。
「ありがとうございます」
当麻が頭を下げる。冷泉も頭を下げて、去っていった。
瀬文がメモを見る。
当麻は、去りゆく冷泉の背中を見ながら、冷泉の言葉を思い出していた。
「この才能を持っている限り、自分は自由には生きていけない。私は世界一哀れな人間です」
そして海野の言葉が蘇る。
「僕だって生命を救うSPECが欲しかったですよ」
当麻が我に返ると、すでに冷泉は消えていた。

翌朝。警視庁前の交差点。
「じゃ」
「はい」
瀬文と当麻は別れ、それぞれ別の道へ歩き出した。
瀬文はふと立ち止まると警視庁を振り返る。だが戻ることなく、また歩き出した。

警察病院。美鈴が志村の寝顔をスケッチしている手が止まる。
「ついつい笑顔で書いちゃうね」
そこに地居が小さな花束を持ってやって来た。
「あ、どうも」
美鈴が地居に会釈する。
「これ小さいけど、お見舞い」
地居が持っていた花束を美鈴に差し出す。すいませんと美鈴がスケッチ帳を置いて、花束を受け取った。その描きかけのスケッチを地居が見た。
「絵描いてるんだ。上手いね。さすがだね」
そして壁に置いてあるスケッチも見た。
「何も描けてないです」
と美玲。壁にあった一枚を地居が手に取って美鈴に訊いた。
「これは?」
「頭に浮かんできたインチキなイメージ」
美鈴が志村のスケッチをまた描き始める。
地居が持っているのは、美鈴が当麻を触った時に見えた、子犬に手を差し伸べる、ランドセルを背負った小学生の絵だった。その少年の顔を地居はじっと見ている。
「じゃあ」
と地居が美鈴の頭に触れて、病室を出て行った。
病室の壁から子犬と小学生の絵がなくなっていた。

瀬文がとあるマンションに入っていき、メモにある305号室の前に来た。305号室の扉にはHealing Room IRIS(イーリス)と書かれている。(韓国ドラマのアイリスじゃないのね) 瀬文がチャイムを鳴らす。305号室のドアが開く。

「蒲田、あのニノマエがこんな所に……」
当麻が冷泉のメモを見ながら、ニノマエの家を探す。そして「一」と書かれた表札の家を見つけた。よくある古びた二階建ての住宅だった。当麻の脳裏に、左手を失ったときの燃え盛るの光景が蘇る。当麻は意を決してチャイムを鳴らし、後ろ手に拳銃を握る。家のドアが開く。出てきた人物を見て当麻が驚く。
「お母さん?」
「どちらさま?」
十一(ジュウイチ)の母が当麻に尋ねる。
「学校の者です。十一君は?」
「まだグズグズ寝てるんですよ、ジュウイチ!ジュウイチ!」
母が息子を大声で呼ぶ。
「何!」
ジュウイチが返事をする。
「学校の先生がみえてるわよ!あんた何やったの!?」
「え!?何にもやってないよ」
ジュウイチが急いでジャージを履いて階段を下りてくる。
当麻が拳銃の撃鉄に親指をかける。そして階段を降りてきたニノマエ・ジュウイチと目が合った。
「ニノマエ……」

SPEC 辛の回へ

バクバク面白くなっていくSPEC。今回は犯人探しではなく、超能力に当麻が頭脳で立ち向かうという構図になってて面白かったです。

冷泉の「自分はこの才能を持っているかぎり、自由には生きていけない。今回の件で痛感しました。詐欺師をやってた頃はね、本物の予知能力が欲しくてたまらなかった。でもこの才能が芽生えてから、僕の人生は狂ってしまったんですよ。結末が見えるから、恋愛はできない。博打もつまらない。未来を知ることは恐怖ですよ」
未来が見えないから自由もあると。能力を持つがゆえの苦悩。シュールです。

「この日本が、半年後には必ず消滅すると知ったらどうします?」
これって劇場版の伏線なんでしょうか?

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コメント

もしかして津田が病(ケガ)を治すSPECを持ってる
んなわきゃないわな。

がきょうさん、どうもsun
>もしかして津田が病(ケガ)を治すSPECを持ってるんなわきゃないわな。

なるほど!真実が斜め上をかすめていくようなSPECの展開を考えれば、それもありえると思います。

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