坂の上の雲 12回 敵艦見ゆ その3 (画像と感想を交えつつ)
連合艦隊が佐世保港から出帆した二月二十日、煙台の満州軍総司令部に各軍司令官が招集された。各軍司令官がこのように、一堂で顔を合わせるということは、開戦以来初めてのことであった。
大山巌総司令官が立ち上がる。
この奉天の会戦においては、我は帝国陸軍の全力を挙げ、敵は満州において用うべき最大の兵力を引っ提げてもって、勝敗を決せんとす。
この会戦において勝ちを制したる者は、この戦役の主人となるべく、実に日露戦争の関ヶ原というも不可なからん。
いざ!と各軍司令官たちは盃をあおる。
杯を割るんだ。
この満州最大の都会は正式には奉天府という。
クロパトキンが奉天付近において握っていた兵力は、三十二万という開戦後空前の大兵力であった。
これに対し、大山・児玉が握っている日本の野戦軍は総ざらいしても二十五万でしかない。
これだけの兵力が戦線百キロに展開して、一大決戦を行うとなれば、世界史上空前の大会戦になるであろう。
三月一日朝
(詳しい戦いの状況はこちらをどうぞ)
全日本軍の一番左を乃木軍が北へ進んでいる。
乃木に課せられた作戦目的は、遠距離運動をもって敵の右翼(日本側から見れば左)へ出、さらに迂回してその背後を突くというものであったが、彼が理解した自分の任務の性質は「全軍の犠牲になる」という悲劇的なものであった。
機関砲何をしている!
第三軍・津野田参謀が戦意喪失した兵士を奮い立たせる。
迫り来るロシア兵。
一斉になぎ倒せ!
火力が違いすぎます。このままでは北進どころか、第三軍は壊滅してしますと前線から戻ってきた津野田が報告する。
乃木は黙っている。
秋山支隊は第八師団の攻撃を西方から支援中であります。
近衛師団および第十二師団は沙河を挟んで敵と対峙し、砲撃戦を実施中です。
第四師団は金山屯付近の敵を攻撃中なるも、敵は頑強に抵抗中であります!
第三軍の前進速度が遅すぎる!猛進し、敵の右翼を叩け!と松川。
津野田!貴様ら第三軍は作戦を理解しておるのか!
火力が足りないと津野田。野戦重砲の一個大隊を回してもらえませんか?
主力は中央だ!貴様らには重砲一門割けん!と松川は拒否する。
駄目なら一個中隊でも!と津田野が食い下がる。
ここで松川のきつい一言。
(それを言っちゃう?)
(あれ?乃木がピンチなのに児玉はそれでいいのとか思ってしまいますよ)
津野田が黙って電話を切る。
総司令部はなんと言うた?と乃木。
津野田は何も言わない。
「総司令部は第三軍に多くを期待していない。兵を渡してもまた無駄死にさせるだけだろう」と。
わかったと乃木が立ち上がり。天幕を出て行った。
悲運の将軍、乃木希典。
総司令部に好古が児玉に呼ばれてやってきて、開口一番、松川に作戦が巧妙すぎやせんかという。
まず乃木さんが左を突く。クロパトキンが驚いて兵力を振り向ける。すると今度は右を突く。敵が驚いて右に行く。そこで手薄なっているはずの(敵)中央を突破……というんじゃろ?
(ここでわかるのは好古は作戦行動を指示されるものの、その作戦の真の目的までは伝えられていない。複雑すぎる作戦は失敗します。相手が予想どおり動かない危険性とそれを作戦的に埋め合わせられない可能性が高くなります)
好古と松川の対立を和らげるように、児玉がまさに奇策じゃと好古に笑いながら言う。
だが作戦が求めるようにクロパトキンがそううまく反応するとは好古には思えない。
だが児玉はこの作戦は敵がクロパトキンであるがゆえの作戦だという。
ヤツは過敏な神経を持っておる。ゆえに反応する。危ういことは確かじゃ、じゃがこの作戦を通じて、日本軍は攻めの姿勢をとり続ける。そこにこの作戦の本分がある。
攻めて攻めて、一歩でもロシアの陣地を踏めば、日本の勝ちを世界に大声で言えるかもしれん。
この一戦で、日本の戦力は尽きるじゃろう。じゃがその尽きる瞬間には優勢の位置を占めておらねばならん。天佑でもなんでもいい、勝機を掴まねばならん。ゆえに死んでも前に進まねばならん。それは乃木も承知の上じゃ。
命令!秋山支隊は臨時に乃木軍に合すべし。
乃木軍北進の先駆けとなり、遠く奉天北方の鉄道を破壊せよ。
(間接的ながら児玉は乃木を助けるわけですね。そうでなくては)
秋山、神速をもって行動せよ。騎兵の本領じゃろう。存分にやれ!
奉天北方へとひた走る秋山騎兵団。
戦術の原則として、小部隊が大部隊を包囲するということはあり得ない。ところが大山・児玉はその原則を無視してやってのけた。
このためクロパトキンは日本が包囲作戦に出た以上、よほど大きな予備部隊を隠しているに違いないと錯覚した。
大山・児玉がやってのけた、この奉天包囲作戦は日本軍にとってはやむを得ない冒険であったにせよ、危険極まりないものであった。
工兵が手榴弾に点火して敵機関砲陣地に投げ込む。
突撃を続ける日本兵
奉天駅。客車に設えた司令部に陣取るクロパトキンは、奉天北方に日本騎兵団六千が現われたとの知らせを受ける。
北進する秋山騎兵団は実際の二倍の六千と拡大されて伝わった。
日露戦争を通じて最大の謎がこの時から始まる。
それでは鉄道路線が遮断されてしまれ、全軍が窮地に陥るとクロパトキン。
そして全軍に命令した。
北方に脅威あり、渾河の線まで退去せよ。
幕僚がその判断に異を唱える。
六千ごときの兵力ならば、閣下の予備隊および狙撃兵第三旅団(ここでいう狙撃兵は小銃兵のこと)を向かわせれば、撃退できましょう。
しかしクロパトキンの判断は揺るがない。この北方の脅威に対処するには、いったん戦術的に退去し、戦線を整理したのちに、反撃に出るのが良策である。
しかし日本軍の攻撃はそう長くは持ちませんと別の幕僚が言う。せめてもう一両日。
そうだなとクロパトキン。
体制をしっかり守って、敵に何も残さないで退去しろ。
三月九日朝、異様な気象現象が満州の野をおおい、この会戦を一層劇的なものにさせた。
「大風塵 起ル」という意味の表現が、あらゆる戦闘報告や記録に出てくる。
この狂風と黄塵が天地を昏くしつづける前、未明からロシア軍の撤退が始まっていた。
好古たちは撤退するロシア軍を目にする。
勝っているのになぜじゃと騎兵たちは困惑する。
奉天会戦にて日本軍は勝利した。
この辺りがキリじゃなと大山巌が言う。
三月も経てばロシアは更に巨大になって攻めてきましょうと児玉は言い、東京へ帰ると告げた。講和工作を急ぐためだった。
火を付けた以上は、消さねばなりませんと児玉が言う。
二人が朝日に手を合わせる。
そいなら、児玉さあ、よかふうにお願いしもすと大山が児玉を送り出す。
本当の戦いはここからだった。ここで講和できなければ日本は滅ぶ。
秋山支隊による行動はクロパトキンを怯えさせ、思考を狂わせ、ついには決戦への気持ちを萎えさせた。
奉天会戦はどうみてもロシア軍が負けるべき戦いではなかった。兵力、火力ともに日本軍よりも、格段の差で優位に立っていた。
が作戦で敗れた。それも徹頭徹尾、作戦で惨敗した。
秋山騎兵団が帰路に就く。
秋山閣下、バルチック艦隊を相手に。海軍はどの程度に勝ちましょう?
そうじゃのう淳は、海軍はたとえ泳いででも、ロシアの軍艦にたどりつくじゃろう。我らはただ、それだけを期待しておればよい。
バルチック艦隊が極東への最後の曲がり角ともいうべきシンガポール沖に達したのは、四月八日であった。
次回に続きます。
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