坂の上の雲 旅順総攻撃 その2(適当に寸評と写真を入れつつ)
金州城の戦いは旅順で繰り広げられる塹壕戦を予兆させるものであった。この戦いにおいて日本軍はロシア軍に勝利したものの、ロシア軍が使用したマキシム機関砲に悩まされた。この機関砲の発射速度は1分間に600発、1門で一個中隊の(銃弾発射力)に相当する。金州城を攻め落とすのに第二軍は、日清戦争を超える量の砲弾を使用し、死傷者4000人を出していた。(第二軍はロシア軍の2倍の兵力を投入したものの、総兵力の1割を失っていた。
金州城の戦い(南山の戦い)
http://www.jacar.go.jp/nichiro2/sensoushi/rikujou02_detail.html
(参考リンク)
海軍の要請を受けて旅順攻略を命じられた第三軍参謀長・伊地知幸介が文句を言う。
海軍の苦境は理解できる。じゃっどん、理解できるからちゅうて、そん要求を丸呑みしておったら、陸軍の戦略が成り立たんようになる。向こうの弾が増えれば、こっちの兵はいくらでも減るということじゃ。
長男の乃木勝典少尉は歩兵第一連隊の小隊長として、金州城の攻撃に参加したが、ロシア軍の機関銃のために 盲管銃創(銃弾が身体を貫かず、体内にとどまっている傷)を受け、翌日病院で死んだ。
乃木が詠んだ:
山川草木轉荒涼
十里風腥新戦場
征馬不前人不語
金州城外立斜陽
山川草木転(うた)た荒涼
十里風腥(なまぐさ)し新戦場
征馬前(すす)まず 人語らず
金州城外 斜陽に立つ
荒涼とした風景と夕日。泣けます。
満州軍総司令官の大山巌と総参謀長・児玉源太郎が、裏長山列島(遼東半島東側の黄海上に点在する列島)に碇を下ろしていた連合艦隊を訪ね、旗艦三笠に東郷平八郎と会見した。共同作戦について打ち合わせるためである。
旅順攻略は焦眉の急ですと連合艦隊参謀長・島村速雄が切り出す。海軍の希望はひとつ。旅順港からロシア艦隊を追い出してもらえれば結構です。
海軍には最大限協力すると大山巌は言いつつ
バルチック艦隊が出航したとはまだ聞いちょいもはんどんと、海軍の『焦眉の急」という見解に釘を刺す。
(ただの人のいいオヤジではなく、陸軍戦略全体を見渡せるバランス感覚があったことを示す一言)
旅順攻略のために編成された第三軍が大連に上陸し、8月下旬には、一気に旅順要塞の攻略を始めると児玉源太郎が言及。
高橋英樹の圧倒的な存在感。
要塞が攻略できれば、おのずと艦隊は追い出せる。
8月下旬ですか?と格下の秋山真之が聞き返す。
それで間に合うでしょうか?
真之の言を聞き、寝ているように見えた大山巌が目を開いた。
旅順を何日で攻略できるとお考えでしょうか?
島村速雄が真之を諫める。
児玉が笑う。大した時間はかかりますまい。旅順などは番外のようなもので。
そうは思えませんと真之。
海軍は金州の要塞攻略に、艦砲射撃で陸軍を援護しました。その時の経験では、ロシアの要塞は堅固で、なまなかな砲では破壊できず、突撃する兵も、要塞の機関砲になぎ倒され、信じられんほどぎょうさん犠牲者を出したと聞いております。
海軍には何より時間が肝心です。もし旅順攻略に時間がかかるようなら、要塞など陥落させる必要はありません。旅順港に閉じ籠もるロシア艦隊に砲弾を撃ち込んでくれさえすればいいのです!
そのために旅順の西北に位置するこの高地を奪取して頂きたい。高さが203メートルあり、ここに登れば旅順港を一望できます。
つまりこの二〇三(フタマルサン)高地に観測点を置き、砲撃をすれば、2階から石を落す要領で容易に艦隊を砲撃できます。
海軍一の秀才だそうやの。
ロシア艦隊の追い出しは確かに陸軍が引き受けた。しかし敵艦隊の追い出しのためだけに第三軍四万を動かすわけにはいかん。第三軍の目的は旅順そのものを落すことじゃ。
(陸海軍の戦略を統合する最高指揮官が不在だったため、陸軍と海軍の戦略が硬直化したとも言えます)
大連に置かれた満州軍総司令部に戻った大山巌への状況報告。
第一軍は魔天嶺付近に到達。
第二軍は蓋平付近にあって遼陽に向かい、北進中。
第三軍、旅順に向かい前進中。
http://www.youtube.com/watch?v=3jJnWlSWTHE&feature=player_detailpage#t=366s
この動画の6分10秒ぐらいまでの展開。
正直、なけなしの兵力を旅順に割かねばならんのは、苦しいところですがと児玉源太郎が大山巌に言う。
こうなった以上、乃木に気張ってもろうて、旅順陥落を急いでもらわねばなりません。
陸と海、どっちが勝てばいいというわけではありもはんと大山。
やむをえんでしょう。
今だ動かない(動けない)第三軍を、大山巌と児玉源太郎が視察に行く。
第三軍参謀長・伊地知幸介が旅順攻略の方針を説明する。ロシアは旅順要塞建設に莫大な費用をかけているのだけはわかっているが、その中身については皆目、見当がつかないと前置きする。乃木も日清戦争時に占領した時とは様変わりしているが、ロシアは一切の諜報活動を寄せ付けんので、と補足する。
さらに伊地知が続ける。本来ならば威力偵察(実際に攻撃を仕掛けてみて敵の攻撃力や配置を偵察すること)を重ねて、敵の配備を把握しないとならないところだが、時間がない。
いずれにしても、方針としては、東北正面から攻めるのが正攻法でしょうというのが伊地知が結論。
理由を児玉が尋ねる。
旅順中心まで延びる鉄道はすでに日本軍が手中に収めている。鉄道を補給線として、攻城砲を展開し、突破できれば直ちに要塞内の死命を制することができると伊地知が答える。
二〇三高地はどこじゃと児玉が聞く。
ここで伊地知ではなく、乃木が二〇三高地を指し示す。
児玉が言う。海軍の参謀がワシに説教しおった。二〇三高地を攻略すりゃ、まるで2階から石を落す要領で旅順艦隊を砲撃でるとな。
伊地知がそれに反論する。
鉄道から離れたら戦えもはん。敵要塞の布陣が把握できん、現状では我が全力を注ぎ込める、東北正面を攻めるべきでしょう。
http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=3jJnWlSWTHE#t=466s
(第一次旅順総攻撃)
児玉、と乃木が言う。
伊地知は抜かりのうやっちょる。心配は無用じゃ。
(結局、陸軍と海軍の戦略のつじつま合わせのために、十分な威力偵察も行えずにロシア軍要塞に総力戦を挑まなければならなかったのが第三軍の不運。ヨーロッパ諸国において人海戦術による正面突破は正攻法でもあったし、それ以外に戦術がなかった)
(真之が言うように先に二〇三高地だけ攻め落としても、そこが突出部になって逆に奪還される恐れもある。実際二〇三高地は再占領されています。)
「海軍側の見地から見れば直ちに港内の敵艦を沈めバルチック艦隊来航に備えることが上策かもしれないが、二○三高地だけを占領しても要塞が陥落するわけではない。仮に二○三高地を占領しても、その後方にはまだ陣地がある。さらに松樹山、椅子山の攻撃をどうするのかを考えなければこれは愚案である。これは根本的に大本営または総司令部と第三軍との意見が異なるところである」
http://www.sakanouenokumo.com/ryojunkouryakusen2.htm
七月下旬、第三軍は金州半島を南北に遮断しつつ、ついに旅順要塞の正面に展開し、総攻撃の態勢を取った。
連合艦隊の真之のもとに哨戒艇からの電報の連絡が入る。
「港内に煤煙高く上がり、敵艦隊出動の兆しあり」
第三軍の動きに敵旅順艦隊が刺激されたのだった。
東郷平八郎が連合艦隊の出撃を下令。
各艦、奮迅の働きを望む。一艦余すところなく殲滅する。
黄海海戦である。
連合艦隊の作戦は失敗に終った。ロシア艦隊は大きな被害を受けはしたが、旅順に逃げ戻り、結果として連合艦隊はふたたび、旅順港の番人となった。
真之は敵旅順艦隊が艦隊戦を挑んでくると想定していたが、旅順艦隊はヴラディヴォストークへ逃げようとしたのだった。
残念じゃ、何ヶ月も旅順港で待ち構えちょったのにと第三軍参謀長・伊地知がサソリを長靴で踏みつぶしながら、海軍の連絡将校・岩村団次郎中佐に嫌味を言う。
千載一遇の好機を逃すなんだち!
お前たちも気をつけないといかん。いつの間にか潜り込んでくるってと兵卒に言い、
伊地知が踏み潰したサソリを池に投げる。
陸軍にとって海軍の旅順攻略要請(正確にはそれを拡大解釈した陸軍の戦略目標)は、本当にサソリの毒のように陸軍の兵力をすりつぶすことになる。
敵艦隊がおってもおらんでも、旅順は落すと伊地知は言う。そんためにこれだけ泥だらけにあっておっとじゃ。
怒りを押し殺して聞いている岩村中佐。
旅順要塞が落ちれば、艦隊もおのずと出て行くじゃろ。海軍はそれまでまた口を開けて待ってればよかと伊地知が高笑いする。
8月19日、第三軍が旅順総攻撃を開始した。
ここから興奮の坩堝。
第三軍の攻撃計画は、要塞の東北正面、すなわち二龍山、東鶏冠山、両砲台間を 攻撃の主目標とするものである。
要塞のもっとも堅固な部分を突破することで、一気に要塞の壊滅を狙ったのである。
克式攻城砲による要塞攻撃。
おそらく攻撃準備射撃(攻撃目標付近の敵を砲撃して弱らせる砲撃)
しかしこれでは旅順要塞の分厚いコンクリートを打ち砕くことはできなかった。
塹壕から出てきた日本兵を敵の銃砲火が襲う。
塹壕に転がり落ちる。
どんな砲弾を使ったかよくわかる描写です。
まさに壮絶。
攻撃開始からわずか一時間で、第七連隊は連隊長以下、ことごとく戦死または負傷との報告を受ける。
危険だという言葉を無視して、乃木は馬を降りて火砲陣地の観測所まで走る。
そして目の前の攻撃に愕然とする。
ロシアは旅順要塞をつくるにあたり、セメントを二〇万樽以上使っている。すべてベトンでかため砲塁群がたがいに連絡しあっている。野砲程度の砲弾を撃ち込んでも、砲台の上を土砂を吹き飛ばすだけで、砲塁の本体には少しも損傷を与えない。
砲台の前には地雷原があり、鉄条網があり、そのまわりに機関銃と速射砲がある。
日本軍は一隊全滅すれば、いま一隊が屍を越えて突撃し、
まれに砲台の胸壁にまでよじのぼる者があっても、
登った向こうにはまた、側防機関銃があり、 そこを走り抜けて突入したところで、さらにまた防御がある。
旅順攻撃は、維新後、近代化をいそいだ日本人にとって、初めて「近代」というものの、恐ろしさに接した、最初の体験であったかもしれない。
それを知ることを、日本人は血であがなった。
「それを知ることを、日本人は血であがなった」というナレーションの言葉どおりの激戦でした。説得力のある要塞攻略戦を見せてもらいました。
しかしここで負けては日本は滅ぶ。
まさに進むも地獄、退くも地獄。
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コメント
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見逃した!(><)
ああ・・・・・・
年末に再放送ありませんかね?w
投稿: Haru | 2011/12/07 22:25
Haruさん。どうも
これでどうでしょうか。
http://youtubetvdoramadouga.blog111.fc2.com/blog-entry-4827.html
投稿: 竹花です。 | 2011/12/07 22:35
今、土曜の1時から再放送始まりました。
公式ホームページに告知はなかったのに。
投稿: 竹花です。 | 2011/12/10 13:10
28サンチ砲って砲塔は特殊鋼なんでしょ?島根安来製だったのかな。
投稿: 某技術士 | 2021/06/26 17:07
某技術士さん、
ウィキペディアには28サンチ砲は鋳鉄で作られ、大阪砲兵工廠の試製とありますが、可能性はあるのではないでしょうか。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%8C%E5%8D%81%E5%85%AB%E7%B3%8E%E7%A0%B2
投稿: 竹花です。 | 2021/06/28 16:01