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2025/05/26

岸辺露伴は動かない 懺悔室はひたすら恐い。令和の「八つ墓村」

八つ墓村は祟りを恐れる一族の物語。岸辺露伴は呪い、呪われる人たちの復讐と恐怖の物語。

幸運の絶頂に達したときに絶望に突き落とす「呪い」のせいで、幸運なことがあるたびに「幸せが襲いかかってくる」という恐怖にさいなまれていく水尾。まさに光が増せば闇影が深くなる。ここが本当に面白い。

岸辺露伴は動かない 「懺悔室」は、岸辺露伴がヴェネツィアの文化イベントに招待され、そこで好奇心が災いして恐ろしい呪いに巻き込まれます。ヴェネツィアが素晴らしい舞台装置になっています。ヴェネツィアの美しさと中世の闇みたいなものが混ざった非日常的な情景が呪いにリアリティを与えています。広い画角で背景となる豪奢な建物を大きく撮っているので映画館で観ることをお勧めします。

冒頭露伴が訪れた廃墟に、ペストが流行ったときに医師が被っていた長い嘴が突き出た鳥のようなマスクが朽ちて草むらに落ちている。ペストは呪いのメタファーでしょう。ひとたび取り憑かれたら、その苦しみから絶対に逃れることができない。このペストのときに使ったマスクでペストの感染は防げなかったと映画の中でも言っています。

原作でも印象に残るポップコーンを飛ばして口に入れるシーンは漫画を超えてます。戸次重幸と大東駿介の迫真の演技たるや圧巻です。

映画全体を通してなかば狂ったように幸せを恐れる大東駿介と井浦新もいいし、復讐の権化と化した戸次重幸もいいです。








2025/04/26

新幹線大爆破:高速、密室、爆発、パニックの傑作

映画「新幹線大爆破」は、そのタイトル通り、高速列車内の緊迫感と爆発の恐怖、そしてパニックに陥る乗客たちを描いた作品です。1975年版の原作があり、その後のハリウッド映画「スピード」とも比較されることが多いですが、令和版はこれら二つの作品の良いところを見事に融合させています。高速、密室、爆発、パニック、タイムリミットの5点盛りセットです。



作品の魅力

この映画の魅力は、単なるアクションやスリルだけではありません。高速で走る新幹線という密室空間での対立と協力、そして乗客たちの心理描写が非常にリアルで、観る者を引き込む力があります。官僚や自衛隊がゴジラという巨大な災害に立ち向かう姿が描かれた「シンゴジラ」と同じく、新幹線大爆破でも、JR東日本の社員たちがプロフェッショナルな姿勢で困難に立ち向かう姿が熱く描かれており、TBSの日曜ドラマみたいに熱いです。

 

以後 犯人がややわかるネタバレありです。

ストーリー展開

前半部分では、劇場版「パトレイバー2」の幻の爆撃のような情報の積み重ねが静かに事態を悪化させる描写が秀逸です。新幹線の映像が冷徹な速さで展開され、緊迫感を増幅させます。後半に入ると、犯人は誰かという謎解きという要素が加わり、観る者をさらに引き込む展開が続きます。ずっと激しいアクションじゃないので飽きません。

社会的背景と犯人の動機

1975年版も「スピード」もそうですが、犯人の動機には社会の裏面が反映されています。1975年版では繁栄する日本に取り残された鬱屈した青年たちの犯罪が映画に重みを与えていました。令和版でも実行犯の動機の一端が重く、現代社会の問題を鋭く描いています。実行犯への共感というのも1975年版にに通じるところがあります。主人公が車掌にしたことから生まれた新しい犯人像かもしれませんが、それが上手く機能しています。実行犯がうまかった。真犯人もいい(笑)

まとめ

「新幹線大爆破」は、高速列車という閉ざされた空間での爆発とパニックを描く素晴らしい作品です。1975年版や「スピード」との比較からもわかるように、令和版はこれらの作品の魅力を活かしつつ、新たな視点を加えています。新幹線の映像美と緊迫感、そして人間ドラマの深さが織り成すこの映画は、観る者を最後まで引き込むこと間違いありません。




2025/01/13

劇映画 孤独のグルメ テレビ版とは違う味わい

テレビ版の孤独のグルメがシンゴジラなら、映画版はゴジラ-1.0

孤独のグルメの美味しく料理をいただくパートと独特な笑いのセンス(特に韓国パート)はそのままに、ちゃんと一本の映画になってます。でもそれでいてスペシャルドラマ版とも違います。

いわゆるドラマパートが深い。最後は深夜食堂くらい深い。

後半に出てくるやさぐれたオダギリジョーが良い仕事してますわ。

松重豊、映画監督としていい作品を作りました。初監督とは思えない編集。
普通、俳優が初めて監督するともっとモッサリした映画になるのですが、流れが良い。

 

2024/10/04

侍タイムスリッパーは大当たり。これぞ映画。

平日の昼上映なのに凄い数の人が来てました。笑いが頻繁に起こるのも珍しいです。こういう映画は映画館で観た方が楽しめます。小難しくないし、胡散臭い正義も語らない。そこに1人の武士がいるだけ。それでいいんです。

時代小説作家には絶対書けない時代劇。

映画撮影のシーンがある映画の中で、ヒットする映画は監督が必ずこう言います。

カメラを止めるな。


男の生き様を撮影する手を止めちゃダメなんです。


幕末の武士が現代にタイムスリップするドラマは少なくありません。ですがこの劇ではタイムスリップした先が衰退する時代劇のスタジオだったことから、主人公の高坂新左衛門は右も左もわからぬまま時代劇の斬られ役を始めます。斬新な展開です。主人公はくそ真面目なので、武士として刀の達人なのに、師匠について時代劇の殺陣というものを学び、吸収していく。このくだりが丁寧。良い映画というのは導入部が丁寧。この設定がラスト
30分に効いてきます。

ここからネタバレで:

ライバル役の人が幕末の旧敵、長州の藩士だった風見。現代に転生して役者としてすでに大成しています。殺そうとしていた相手と現代で再会しようとは高坂も思いも寄りませんでした。しかもただの斬られ役でしかない高坂との共演を望んだのは風見のほう。あえて自分を殺そうとした因縁の相手と、一度は止めた時代劇で再び相まみえようとは、風見は何を考えているのか。主人公の高坂は高坂で、因縁の旧敵と一緒に芝居ができるかと出演オファーを断ります。すると風見に、このままでは時代劇が消えてなくなり、武士というものが人々から忘れられてしまうとこの時代劇にかける風見の意気込みに押され、出演することにします。風見は風見で時代劇を捨てた理由があった。でも高坂を見つけたことで、時代劇で自分の中に決着を付けることができると考えていました。

しかししこりが消えたわけではありません。改定された映画の脚本を読んで高坂は会津藩が滅ぼされ、薩長に最後まで抵抗した罰として死体を埋葬することを許されず、生き残った藩士たちとの家族は不毛の土地へ追いやられたことを思い知らされます。自分が平和な時代にのうのうと生きていることがやるせなくなってしまう。そして消えかかっていた幕末の武士の魂に再び火がつきます。禍根に決着をつける時が来たのです。薩長軍との戦いで斃れた会津藩士やその家族の無念を晴らすべく、映画の最後の決闘シーンを模造の刀ではなく、切られれば死ぬ真剣での勝負にする。これを風見に申し入れ、風間もそれを受けます。こういう男と男の真剣勝負、いいですね。前半の笑いパートと裏腹に、後半の真剣を使って本当に斬り合いをする緊迫感は凄いです。時代劇で常にチャンバラを見ているのに、真剣で斬り合っている意気込みをキャラクターに吹き込むことで、いつものチャンバラが命のやり取りとして立ち上がってきます。黒沢明が観ても面白いと思ったんじゃないでしょうか。

物語の構成が秀逸。ベタこそ正義。意外な切り口だからベタなのに面白い。

この映画がヒットした理由はゴジラ-1.0のヒットにも通じるところがあると思います。この主人公である幕末の武士は価値観の変革に直面してあたふたする私たちなんでしょうね。

 

 

2024/09/11

エイリアン:ロムルス ゴジラ-1.0と同じ原点回帰の面白さ

 

 

原点となった「エイリアン」でノストロモ号の仲間をさっくり裏切り、主人公のレプリーにぶっ殺されるアッシュと同じタイプの合成人間が出てきた!もうこれだけで胸熱です。水もしたたるエイリアンもいいです。第1作と2作のオマージュたっぷりです。

ノスタルジー全開の舞台設定が映画として新鮮に見えます。古いデザインが
45年ぶりなので心にしみます。この感覚は長い海外旅行から帰ってきた後のご飯とお味噌汁です。タッチパネルじゃない光るボタン!カチャカチャと音を立てて起動する宇宙船内の電子機器。ディスプレイが昔のビデオぽい映像。こういうのでいいんだよ。もうたまらんです。

最初に出てくる鉱山都市がもうブレードランナーとかエイリアス
2に出てくる植民地。タイヤが異様に大きい車両が出てくるのも、SF心をくすぐります。序盤10分でも見に行った甲斐があります。

過去をなぞっているだけという批判的な評論を見ましたがそうは思いません。それは表面的にイベントだけを追うと確かにそうなのですが、物語の根底が違います。

主人公は誰か?

ロムルスとは何か?

以下ネタバレ込みです。

主人公のレインは夜しかない鉱山惑星で酷使されている若い女性。物語の始まりは彼女の仲間が、弟として亡き父が彼女に与えたアンドロイドのアンディを使って会社が放棄した宇宙科学基地に残っている人工冬眠に必要なものを拝借して、別の惑星に逃げようとするところから始まります。


不法移民をしようとしている人間が主人公なんですよ。
 

タイトルになっている「ロムルス」は「レムス」とともに宇宙科学基地の名前として出てきます。興味深い名前です。


ロムルス とレムスの
双子は古代ローマの建国者とされ、狼の乳を飲んで育てられたという伝説があります。

映画もクライマックスに差し掛かり、ロムルスに入った宇宙船内で人間の
DNAと融合した最初のエイリアンが誕生する。非ニュートン流体の黒い液体(Z-01)を注射した妊婦のケイからエイリアンの融合した個体が人間の子どものように産道から生まれるじゃないですか!タイトル回収。例の黒い液体をアッシュ型のアンドロイドはプロメテウスの火と呼んでました。そういうことか!「プロメテウス」はアンドロイドのデイヴィッドかと思ってました。人間から「生まれた」エイリアンは「オフスプリング」とかいうらしいですが、母親のケイを食っちゃった。そのオフスプリングが母から乳を飲もうとして食べたみたいな考察もあって、それならまさに狼と人間の種の立場が入れ替わったロムルス。これは見ながらヤバいなと。

エイリアンの物語を複雑にするのは合成人間という名のアンドロイドの行動。アンドロイドは誰のために動いているのか、会社のためか仲間のためか。己のエゴか。まったく読めないところもエイリアンの見どころ。今回出てくるアンディは見た人の記憶に残るキャラクターであり、新しい仕掛けがあります。

アンディはアンドロイドなのに性能が低いどころかもはや発達障害ぽいというのが衝撃的です。そんなアンディはレインを守るというのを第一原則としている。それなのにアッシュ型アンドロイドのモジュールをインストールされると、高性能化して会社のため、レインも含めて人間を犠牲に冷徹なロボットになるというジキルとハイド並みの変化が起こって物語をかき回します。それでも並みの映画なら、改心したりして人間に寄り添う性格に戻ったりしますが、この映画は元のモジュールをインストールしてもとのアンディに戻る。その手があったかと唸りました。アンドロイドは人間じゃない。これは生物兵器であるエイリアンにも言えることで、相手に性格が変わることを期待するなということ。すべては人間次第。なんでも都合良く変えようとする人間のエゴ。娯楽ホラー映画なのに、そういう冷たさが漂うのがエイリアンの好きなところです。
 

 

 

2024/02/10

沈黙の艦隊、潜水艦乗りの話として面白いじゃないか!!

去年のゴジラ-1.0から始まり、ガンダムSEED FREEDOMときて、沈黙の艦隊。この頃は面白いのが続きます。2日間で6話までイッキ見してました。

また言わねばなりません。

潜水艦モノに外れなし!!

原作が1990年代、日本が経済大国として世界に君臨し、アメリカと貿易摩擦なんかがあった時代に書かれた作品なので、中国が日本の敵国でなく、アメリカが敵国として登場します。(2010年代に書かれた空母いぶき(漫画版)は中国を敵国としています)。舞台は現代ですが、そこは押さえておいた方がいいと思います。これは中国が大人しい世界線、恐らく天安門事件以後ずっと経済封鎖網が解かれていない世界だと思います。

第1話の印象、これは『レットオクトーバーを追え』をソ連側から丁寧に描くとこうなるという感じです。レッドオクトーバーの映画版では急にソ連の新型原子力潜水艦『レッドオクトーバー(赤い10月:十月共産革命)』がソ連軍艦隊に追いかけられるところから始まり、ソ連はアメリカ政府に頭のおかしくなったレッドオクトーバーの艦長がアメリカを攻撃しようとしているのでレッドオクトーバーの撃沈に協力してほしいと頼みますが、CIAの分析官がこれは亡命を企図しているのではないかと気づくことで話が動き出しますが、沈黙の艦隊は日本初の原子力潜水艦「シーバット」艦長の海江田がシーバットを強奪してアメリカ海軍に追われることになる過程を1話かけて描いています。海江田の不気味な笑みを見たら2話を見たくなるでしょう。

第2話。これはフィリピン海で繰り広げられる銀河英雄伝説。クラシック音楽が流れる中での戦術の天才かと思わせる潜水艦戦。しかも音楽を流していることに戦術的な意味があります。実に良いです。

第3話以降は、自由同盟軍のヤン・ウェンリーくらいのジャイアントキリングが起こります。

アメリカは日本と同盟関係にあり、アメリカはシーバットを米国製の原子力潜水艦を強奪したテロリストとして排除したいが、核武装している可能性がある。日本は原子力潜水艦を核武装のための礎にしたいと考え、アメリカ海軍第七艦隊所属の軍艦として建造した。その一方でシーバットが保有しているかもしれない核兵器を使わせるわけにはいかないとも思っている。このジレンマがうまいこと機能し、アメリカ政府と日本政府を巻き込んだ嵐を起こす。

第7話と8話は東京湾で日米海戦が起こるらしいです。最後は殴り合いで決着!

潜水艦がすごくリアル。これが一番大事。そこを押さえているのは評価に値します。政治的なことも描きつつ、根幹的には良い感じで潜水艦乗りの話として作られています。

2023/12/30

NHKドラマ「あれからどうした」がめちゃめちゃ面白い。

第1話だけ見ましたが、めちゃめちゃ面白い。

https://www.nhk.jp/p/ts/B483NQKZN8/

台詞と絵がまったく違うストーリーを社員食堂で展開する異色作。逆を言うと絵だけで話を見せないといけないというカセをはめた展開が実に良い。実際の自分を同僚に知られたくなくて取り繕う嘘の語りと、実際に何が起こっているか「語り」と同時並行で映像が進んでいく仕掛けがお見事。テレ東でやりそうな尖ったつくりが刺激的でした。Netflixとかでも見られれば良いのにと思います。小説でも舞台でもできない映像だけが可能な作品です。

面白くないという意見も結構見られますが、たぶん見方が違うのではないでしょうか。これはブラックジョーク、笑うドラマなんだと思います。そういう意味でNHKの「人間の表と裏を暴くっていう」煽りはちょっと違うのではないでしょうかね。

自分なら、こんな煽りにします:


人間はとっさに嘘をつく。そんなとっさの嘘でも信じてしまう。なのに奇妙な事実は疑う。

 

2023/11/20

ゴジラ-1.0を再度見て思うこと。やっぱり同じところでグッときます。

ゴジラ-1.0を再度見てきました。一度目は朝ドラの「らんまん」の印象が強くて、神木隆之介のキャラの違いに頭が混乱してたんですが、二度目は朝ドラの印象が一度目で洗い流されたおかげで、映画にさらに集中できました。やっぱりうまいなあ神木隆之介。叫ぶ演技最高。

あと小ネタ動画も見たのでなるほどと思ったことも多かったです。


2度見てもVFXに圧倒されます。

序盤でガサガサバッグを開けて飴を取り出した隣のおばさんも最後は食い入って見てたようです。

以下、ネタバレありです。

極端に言えば、

シンゴジラはゴジラ界のパトレイバー2、

ゴジラ-1.0はゴジラ界のALWAYS 三丁目の夕日です。

シンゴジラはドラマをプロフェッショナルな大人たちを追求し、極力ドラマを排除した結果、全編にわたってシミュレーションのような緊迫感があります。そういう意味でパトレイバー2に近いと思います。

ゴジラ-1.0は祖国と人々を守れなかったことを悔いて生きる旧軍人たちがゴジラ退治を通して前に進むドラマで、その象徴が主人公の敷島。敷島って鉄人28号を造った開発者の1人と同じ名前ですよね。敗戦で戦うこと(守るための戦い含めて)を放棄してしまった旧軍人が民間人(義勇兵)として再び戦うために立ち上がる姿に高ぶります。

登場人物の関係性がALWAYS 三丁目の夕日の人たちみたいです。これのなにが凄いって戦後という空間の説明になっていること。人間が戦後を口で説明せずに説明になっている。とくに澄子がいいですよ。澄子の敷島が帰ってきたときの態度と、最後の態度が全然違うのも見逃せません。敷島が許された感じが出てます。

どちらも最後はいろんな人が力を合わせてゴジラと戦うという構図は同じです。実はこれがゴジラという巨大怪物を巨大に見せる演出として大事なんじゃないかと。インディペンデンスデイも宇宙人相手に地球全体が立ち上がります。進撃の巨人の巨人と調査兵団の戦いもそうですね。逆に怪獣映画としてモンスター同士のプロレスが見たいなら、この映画はつまんないでしょう。欧米でここが受けるかどうかの鍵になると思います。

ゴジラの火炎放射が起こした爆風で吹き飛ばされた典子がなんで生きてるのか、最初見たとき運が良かっただけかと思ったのですが、解説動画を見ていたら首筋が黒くなっているという話で、二度目見てみたら確かに黒くなってました!おそらくG細胞のおかげで死にそうになったけど、火炎放射の影響か何かでゴジラ化して再生力が高まって生き残ったのですね。

二度見ても整備員の橘がいいです。

 

2023/11/06

ゴジラー1.0は映画として本当に面白い!

岡田斗司夫がこれは怪獣映画の傑作じゃない、日本映画の傑作だと言ってました。確かに怪獣が主人公の映画じゃないです。ゴジラが出てくる映画であって、ゴジラが主役の映画ではない。50代なら劇場で見て損はないです。Always三丁目の夕陽くらい泣けました。シン・ゴジラで開いた扉がさらに拡張された感じです。画面からはみ出まくりのゴジラの巨大感がまあ恐い。人が食われて、ぶん投げられて、電車が飛び、軍艦が吹き飛ぶ。伊福部昭のゴジラのテーマ曲が心を揺さぶります。

武装解除した戦後日本がどうやってゴジラと戦うと言うんだ!

―以後ネタバレです―

舞台が過去。これまでゴジラが現れるのは映画当時の「現代」でした。監督が永遠の0とか作ってるので軍艦のCGが精密だし、設定がリアル。震電というチョイスが絶妙。震電はエンジンが機体後方にあるので機首に爆弾を搭載できます!

ゴジラに掴まれながらもゼロ距離で主砲をぶちかます重巡洋艦高雄の勇姿!
四式中戦車が火を噴いた!

米軍に接収された駆逐艦の舷側に書かれる艦名がひらがなからローマ字に変更されてます。芸が細かい。海防艦の薄い外皮の貼り方がボコボコしていて実にリアルです。

今回のゴジラはいろいろ新しいです。クライマックスはゴジラとの戦いというよりゴジラ狩り。海と空からの展開が熱いです。ここで流れ続けるゴジラのテーマ曲。魂が震えます。

なぜ怪獣映画じゃなくて日本映画かというと、大きな話のつくりが、勇気がなくて特攻できずに復員し、親類にお前が特攻しなかったせいで子どもが死んだと言われ、生きる意味を失っていた青年が、ゴジラを倒すために、子どもを守るために、戦時中の悔いを晴らすために特攻覚悟で戦い、生きることを許される、とういう話だからです。

ゴジラ退治を旧軍じゃなく、民間に下った元海軍軍人がやるという義勇軍として巨大な怪物に立ち向かう。これは胸熱展開です。

海軍戦闘機の整備員である橘がこの映画の鍵だと思います。今までのゴジラに登場しないタイプのキャラクターです。序盤、敵艦に特攻しないでおめおめ帰ってきた敷島にゴジラも撃てずに仲間が死んだと非難し、死んだ仲間の家族写真を渡す。お前が命を賭けて戦わなかったせいで死んだという事実を突きつける。これで橘の出番が終わったかと思ったら、ゴジラ退治に戦闘機が必要という話になり、連合軍に接収されていなかった震電を整備してもらうために敷島が橘に連絡を取る。敷島が橘に戦闘機の整備をしてほしかったのは、戦闘機を爆弾を機首に搭載した特攻機にしてもらうためだった。敷島は過去に決着をつけたい。敷島が震電の機首に爆弾を搭載してゴジラの口に特攻をかけると橘に話をする。橘は敷島の望み通り、震電の機首に爆弾を搭載した。そして座席射出装置を取り付ける。ゼロ戦になかった装備です。そして敷島が震電をゴジラの口の中にぶつけるときにこの装置が見事成功して敷島が脱出したと無線で聞いた橘が喜んで涙する。ここが一番良かったです。橘が敷島を許した。もう誰も死ぬ必要はない。いろんな意味で戦争が終わったんだなと。敷島が震電を脱出して落下傘で降りてくるシーンが、ガンダムの最後のアムロがホワイトベースのクルーと合流するシーンに重なりました。

2023/11/01

ザ・クリエーター・創造者 これはワールド・トゥモロー並みに面白いSFです。

絶望の未来が好きなSFファン以外は帰ってくれないか!という気骨を感じる映画です。やっぱりSFはディストピア。そしてその中に芽生える希望。大好物です。ブレードランナー 、ワールド・トゥモロー、月に囚われた男、メッセージ、NOPEに並ぶ5年か10年に一度出るかでないかのSFの良作です。予算的には中級らしいですが、SFは大体予算が少ない方がクセが強くて面白い。スタートレックも映画版よりテレビ版が面白いですね。話はワールド・トゥモローみたいな感じです。主人公は強すぎないSFは売れないけど面白いは公式です。
序盤からSF心をくすぐります。実際(ぽい)白黒映像から段々とロボットが発達して社会に溶け込んでいくIFの歴史の紹介が実に良いです。西側諸国はAIを排除しようと、AIを守るニューアジアに侵攻作戦を仕掛けます。ターミネーターでは敵のロボット兵が大挙して人間を襲いますが、この映画では人間兵がロボットを襲います。人間がロボットを無差別に殺す地獄の黙示録。このパラダイムシフトがガツンと来ました。ギャレス・エドワーズ監督は特撮畑の人なのでロボットの動きが実に良いし、レーザーの撃ち合いも重量感があってリアルです。これはある意味ターミネーターへの宣戦布告です。
AIロボット)との戦いに終止符を打つべくアメリカが開発したのが、放浪者の名を冠する高軌道ミサイル基地ノマド。地上にレーザー照準する演出が本当に恐い。デススターよりも実感としてわかる規模の破壊だから逆に現実味があります。
あと全体的に日本語が多いです。渡辺謙も日本語を時々喋ってます。映像を見てわかる怒鳴り声は日本語、そうでないのは英語なのかも。強力わかもとじゃなく龍角散。あとゴルフ用品の看板。ブレードランナーの世界観ですね、わかります!渋谷と思われるシーンもありました。
AIロボットの設定が実にいい。プルートゥと同じように人間のように考え、感じるAIです。AIが実際の人間の容姿をコピーしたのをシミュラントといます。この発想はなかったです。同じ顔のシミュラントが何度も出てきます。いわゆるロボットが服を着ているのがいい。警察、面白いのがチベット仏教ぽい格好の僧侶。実際の風景に重ねられた超近代的構造物、大好物です。アメリカ軍の巨大陸上制圧兵器も実にいい。
ブレードランナーにはレプリカントと人間のアイデンティティは明確な違いがあると思うのですが、ザ・クリエーターはその境界線が溶けていく。そこが新しいと思います。こっれは面白いです。

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